第27話 欲望
私が、離婚なんて嘘だ。
佐藤ミタカの妻、エリは屈辱感と怒りと惨めさでいっぱいだった。
ミタカの妻佐藤エリの人生は、両親にも、姉妹にも、家庭にも、途切れる事のない彼氏にも不足なんてなかった。
それが、当たり前で、当然だった、ミタカと結婚するまでは。
子供の頃から大学時代まで、何でも手に入ったエリに見向きもしなかったのがミタカだった。当時の彼氏と別れてまでも手に入れたい。
そんな、エリに振り向きもしない、ましてや血の繋がらない妹さやかを好きなミタカに、自分の手に入らないからこそ、エリはミタカに執着した。
エリが22歳、ミタカが20歳の時に学生結婚をし、若い2人なのだから全てが上手くいくと思い込んでいた。
だけど、もう、ワカクハナイ。エリがどんなに足掻いても取り戻せない。
なぜなら、ミタカと結婚して18年になり、エリ40歳、ミタカ38歳になっていた。
ミタカと結婚し、すぐに子供が出来ると思っていた。エリの大企業の部長の父親と専業主婦の母親の両親も、2つ上の姉もミタカの母親である義母のトヨコも初孫を期待していた。
子供を欲しがらない、ミタカの血の繋がらないさやかと石田の間に子供は出来ないだろうとたかをくくっていた。
気がつけば、さやかと石田が結婚して娘の華が産まれ、大学時代の友人の中には、中学生の子供までいる。
辛く痛い不妊治療を10年近くしてきたが、エリとミタカの間には子供は出来なかった。
エリが30代半ばになると、ミタカや両親、エリより先に結婚して2人の子供をもうけた姉や義母のトヨコさんから、子供はもういいんじゃないの?夫婦2人が幸せなら、と腫れ物でもさわるかのように言われ出した。
自分達に、子供がいるから言えるのだ。エリはますますむきになっていった。
保険適用外の不妊治療も、ミタカの給料とエリの週3のスーパーの清掃のパートの給料と、さやかには内緒で渡されていた義母のトヨコさんからの月数万円のおこずかいは、辛く痛い報われない治療に泡と消えていった。
いつからか、何もかも手に入れていた大学生時代から時間が経過し、腫れもの扱いされる自分が惨めで、ますますミタカとの子供を望んだ。
子供がいれば、私とミタカは幸せになれる。
エリはそんな狂気じみた事まで考え始めていた。
しかし、それは子供がいなければエリは幸せではないことの裏返しでもある。
不妊治療の産婦人科の先生に、多額の金と膨大な時間を投資してまで、なぜ自分達は子供が出来ないのかと、くってかかった事もある。
不妊治療のために、夫のミタカには精子を作るための薬を1日に何十錠も飲ませ、エリは月に1度は産婦人科に通院した。
エリは、どこかで自負をしていた。さやかや同級生達に出来た子供が私に出来ないはずがない、家庭に恵まれていた私が、次々離婚の話しめも出る同級生のように、ミタカと離婚するはずがない。
そんな矢先だった。
「離婚を考えて欲しい」
ミタカからエリのがむしゃらな18年を壊す一言。
エリが1番欲しがったものは、1番エリの虚しい欲をエリに回り回って突きつけるもとして終わりを告げた。
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