第26話 岐路

私は、あの人が嫌いじゃないんだと気がついてしまった。


「まだ、ミタカ君の事が好きなのっ?」

高校からの大親友のトモコが、昼下がりの客が少なくなったファミレスで、大絶叫したので、さやかは、ファミレスのバイトの女の子の不審そうによこす視線に慌てた。



なぜ、さやかがトモコに話してしまったのかと言うと、さやかは砕け散った物をかき集めたかった。


「離婚するかもしれない」

そのさやかの一言に、トモコは凍りついた。


「私じゃないの、ミタカ兄さんとエリさんと両親」

さやかが、一気に話すとトモコは、目を見開いた。さやかですら初めて見るドングリ目だ。


「ずいぶんとオンパレードね....仕事忙しいけど、私もそこまで激動じゃないわ」

トモコは、労るようにさやかを見ながら、きょとんとした華に、ニッコリ笑いかける。


娘の華が、トモコにつられてニッコリ笑った。


華が心底、心を開いているのは、さやかの血の繋がらない兄ミタカとさやかの友人の性同一性障害のバリキャリのトモコしかいない。


兄ミタカとは、1年に1度のお正月に実家で会うくらいだが、ミタカの妻エリさんに華が怒鳴られてから、華はばあばに会いたいとは言いながらも、さやかの実家に入り浸りのエリに怯えて、疎遠になりつつある。


兄ミタカとは、LINEで時々、交流しているが近況のみだとトモコには話していた。


華が2歳になった冬、兄ミタカから突然LINEで、学生結婚した2歳年上の妻エリと離婚するかもしれない、と連絡がきた。


珍しく、実母からも電話で、母親の再婚相手と離婚するかもしれないと弱気になって電話がくる。その上、血の繋がらない父親は、息子のミタカをとられてうつ病になり精神科に入院させた妻が退院したため、よりを戻したいとまで言い出したと言う。



「ミタカ君が、お母さんと会ってる事を知ってあの人、俺にはミタカとアイツしかいないとかいいだしたの、私はどうなるのよ?」

相変わらず、自分中心な母親の話をさやかは聞き流したが、兄ミタカまで離婚する話があるとは言えなかった。



母親のさやかの気持ちを抉るような言葉に浸かって溺れてたさやかを引き上げたのは、華のミルクの甘い匂いと腕に触れた小さな右手とトモコの言葉だった。


「まあ、さ、エリさんとさやかのお母さんはどうでもいいんだけど、私は。さやかは、どんな形であれ、笑わないと、私は、笑えないよ」

最後に、私のエゴだけどさ、と不貞腐れたように笑うトモコの笑顔に胸が引きさかれそうになった。



「エリさん選んだミタカ君、さやかを笑わせられないよ、さやかを笑わせるのは私と石田君と華ちゃんだけだよ、後からとか、、さやかを苦しめるなら、潰してやりたい」

顔を上げたトモコの瞳が、怒りと、哀しみで燃えていた。



ああ、トモコはサバサバしていて、どこか闇を含んでる、いつも笑う事はあっても強情で、意地になっても、強がろうとも、私の側にいてくれる。



ああ、私はトモコが友人として本当に好きなんだ。私は、冷めたようで私を知っている石田を、私は甘くミルクの匂いがまだする華を護り抜きたい。


抉るような外野の声で、かきけされるけど、揺れるけど、迷うけど、傷つくけど、この人達だけでも護りたいのだ。



少しでも兄ミタカと妻エリの離婚に、母親の身勝手な言動に揺れた自分が馬鹿馬鹿しくなった。



さやかに線を引きながら、私を棄てた人々だ。私も棄てよう。


さやかは、トモコに微笑みを返すと、トモコはキョトンとした。華の頭を撫でると華は、うつらうつら眠りだした。


私が、護る人はもう決まっている。









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