幕間「0000 死角 8/? 保存明くる朝 ~ 2014 右目 9/11 夜」

 ――0000 死角 8/? 保存明くる朝


 生まれ落ちた、いや零れ落ちた。

 フレンズ型と呼ぶには不定形で無個性のセルリアンは。

 ただ一つ雄型という特徴を持っていた。

 サンドスターが生み出さない性別。

 だから女王はその情報を取り零してしまったのか。

 そうして生まれた副産物は森の中を我が物顔で歩いていた。

 夏休みのジャパリパークにしては閑散なのは。

 昨日女王がゲストの少年心かがやき色覚RGを奪った結果なら。

 この閑散も副産物で兄弟みたいな物。

 なのに人里離れたその茶屋の前にはヒトがいた。

 異物、セルリアンの世界を乱す存在排除。

 そうしてまず狙ったのは目隠しされた両目。

 ? どうしてそんな所を。

 その目が輝きで満ちていたから。


 「――貴女は、」「命宿?」


 輝きを奪ったセルリアンの第一声。

 拡張された世界テクスチャによってもたらされた情報は。

 セルリアンに平和的対話を試みさせていた。

 見えてないからといけしゃぁしゃぁと。


 「……違うよ、自分の名前は――。」


 聞いてみたが発音は同じだった。


 「何が、」「違う?」

 「命宿は理想とする一人で、命宿と違って自分はパパに愛されていない。」

 「理想、」「この姿もそれ?」


 輝きがもたらしたのは情報に留まらず。

 尾はなく肉体も雄のまま。

 外観がフレンズで言う所のキングコブラに。

 けれど語られるのは先代クジャクのこと。


 「ここにはクジャクがいたんだ。とトランプのJackから9/11クジャクの日なんて作る観光大使の初代に似て、クジャクであることを誇ってこんな店名を付けちゃうような。……憧れなんだ。そんな風に自分のこと好きに成れないのは分かってる、だからせめて対等なフレンズに。」


 対等と言っても捕食関係だけどいいのだろうか。

 そんなことよりこの姿が何か理解しているということは。


 「貴女、」「わたしが見えてる?」

 「だってその世界をずっと夢て来たんだから、暗闇の中の自分を保証あいしてくれる日々を。」


 それは命題テーマに思えた。

 普遍的、けれど決して叶わぬ不変的永遠の愛。

 もしそれが叶ったのなら。

 女王が目指す完全なる保存と再現その物。


 「ワタシも、」「その夢に浸ってみたい。」


 0th、森を抜けた先のBlueを観測者と見据えた。





 ――2014 右目 9/11 夜


 出栃でとちった。

 出栃った。

 出栃った。

 出栃った。

 出栃った。

 出栃った。

 出栃った。

 出栃った。

 出栃った。

 出栃った――。

 頭の中を羅列する意味不明な言葉。

 どうしてこの場面でその言葉がリストアップされたのか。

 そもそもこれがどういう状況なのかさえも。

 ハンナ・Hワタクシには理解出来ていなかった。

 ただこれを言葉にするなら。

 出栃でとちり、それ以外なかった。

 昨夜クジャクの元を離れ石橋を渡った所まで憶えている。

 気付けば森の孔雀茶屋にいた。

 この感覚を知っている。

 屋敷の地下坑道から東京に着いた時の境界を越えたタイムスリップ感。

 何より燃える前の孔雀茶屋に舞い降りた孔雀に――。

 そしてが現れた。

 何を言っているそんな記憶はないなのに確かには。

 そうこそがとの再会はあっては成らない出栃で。


 「お兄、s……。」


 掠れ々れの続柄を聞かなかったことに出来たなら。

 今更何事もなく再開とはいかないと分かっている癖に。

 もう弟が長くないことも。

 アポトーシス崩れていく弟は最期に言った。


 「命宿を、――殺して。」


 凡ては永遠の愛の為に。





 「――。」


 輪から外れた孔雀はただ兄弟かのじょたちの再会と別れを見届けた。

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