第1話「2014 左目 9/9 夜」

 ――2014 左目 9/9 夜


 輝きに塗れた街をハンナ・エイチ

 青髪のゴシック&ロリータ、スカートの裾持ち上げ。

 彼の元へと一途に走っていたが横目。

 道路を横切る光の帯から一色目に留まる。

 それはさが? キングコブラ似のツリ目が捉えた物。

 ネオンがヒト目を惹くも在り触れた看板サインだった。

 だからか見渡す、限りヒトヒト。

 東京のストリート立ち留まる自分は異物で。

 セルリアンブルーに仲間意識を持つなんて。

 余程不安定ブルーだったようで。

 このままだと周りに正体がバレる思い込みを。

 むしろ自分からヒトでなしとバラしかねない。

 ……蛇の尾のないこの身体でどう信じさせるのやら。

 早く帰ろう、足を早めた。





 歓楽街の喧騒から遠のき路地裏の突き当たり。

 オンボロアパートの一室前にて一息置いて。


 「――ただいま戻りましたわ。」


 玄関を開けると1Rワンルームから一直線に風が通り抜ける。

 まだ8月の暑さが残る9月。

 開いた窓から涼、それとヤニの匂い。

 そのフレンズは窓手摺に手を置き煙草を吹かしていた。

 黒スーツに頭の羽を隠すハット帽。

 青髪は短く尾の飾り羽に至っては全カットされ。

 徹底的に排された獣であり性だった象徴。

 そこまでしたかのじょが変えてないなまえ


 「クジャクお父様。」


 彼は煙草の手元を留め応えた。


 「あぁ、帰ったかハンナ。」


 振り返った彼の視線はまずテーブルの灰皿だった。

 まだ燻る煙草を押し消し顔を上げたと思ったら。


 「んっ……、ま。」


 わざと寂しくした口を紛らわす為ハンナの唇を奪う。


 「まぁん、ま……。あゎ、あゃ。」


 舌を挿れる前ソフトタッチの重ねだというのに。

 漏れる吐息はこの一年間開発された証。

 手で押し返そうにも筋肉質の彼はピクリともせず。

 済し崩しに済まされそうで息継ぎを見計らい。


 「っ、ーぱ。お、お父様その。」

 「なんだ、別にシャワーを済ませなくたって俺は気にしない。」

 「お父様はそうかもしれませんがワタクシは、って今はそれよりもお話ししたいことがありまして。」

 「……身体はそう言ってないみたいだが。」


 彼に見下ろされるそこは身体の局部。

 あぁなんてイヤラシイ。

 スカート越しにそれは勃っていた。

 意地悪な彼、思わず意地悪に返していた。


 「だって仕方ないじゃありませんか……、雄の身体で産まれたからには勃ってしまうのは。」


 彼を傷付けたと気付くのはいつもあとのこと。

 キングコブラのフレンズ型セルリアン。

 身体は雄、けれど心は無性むせい

 彼が抱える違和感を理解してあげられない。


 「……それはそうだよな、無理強いして悪かった。」

 「ぁ……、ん。」


 罰が悪そうに離れた彼を見ると何処か申し訳なく。

 でもここで怖じ気付いたら足早に帰った意味がない。


 「で、話ってのは命宿メイシュクからか?」

 「確かに今日命宿さんのバーに行きましたけど、訊きたいのはワタクシの名前の由来についてですわ。どうしてセルリアンのワタクシにハンナ・H等と名付けたのですか、普通は頭に“セル”なり後ろに“リアン”と付けそうなものですが。」


 セルリアンらしさの欠片もない。

 まぁそういったネーミングは。

 キングコブラでは難しかっただけとしても。

 ハンナが何処から来たのか彼曰く。


 「ハンナはキングコブラの学名Ophiophagus hannahから取った物で、hannahの由来自体はヘブライ語で『恵み』を意味するChannahだが、これを言葉遊び的に組み替えるとCaelumラテン語で『空』を指し、そしてCerulean Blueセルリアンブルーの語源でもある。」


 要するに何故か以下の手順で変形させた所。

 ①Clɿanna h hをlとɿに分け、一方のhは取る

 ②Caalnnɿ 並び替えてnとɿを合わせてmに

 ③Caelum aを反転させe、nを反転させuに


 「それでハンナはキングコブラとセルリアンの意味を持った名前、と仰りたいのですか。」

 「と言ってもお前らセルリアンの綴りはCellienだけどな。」


 無理がある自覚はあったようで。

 ちなみにハンナ・HのHは①で取ったそれとのこと。


 「なんと言いますか、初めて出会った時にそのようなことを考えてたなんてお父様は変わってます。」

 「同じ物が並んでるのは嫌いなんだ。」


 hannah、確かにシンメトリーではあるが。

 理屈が分からない反面気楽に聞けた。


 「まぁ変わってるという評価は外れじゃない……、パークでも散々言われたしな。」

 「まぁ、テレビではフレンズにとっての理想郷という扱いですのに。」

 「単純に島から離れられないだけだ、だから居場所のないのけものも生まれる。俺のような世界でただ一人の、――トランスジェンダーのフレンズとかな。」


 自虐のように零す、彼は低い声をしていた。

 喉を潰してまで得た低音は。

 あくまでアニマルとしては。

 結局は男装でしかないと分かってしまう。


 「――やはりワタクシはお父様の理解者には成れません、傷付けたと気付くのはいつもあとで何も反省していない。形は違えど身体に不自由を抱える命宿さんの方が分かってくれる筈ですわ、なのにどうしてワタクシを傍に?」


 彼が一気に舌まで入れて来る。

 喘ぎさえ許してくれない蹂躙は。

 雄としてのマウントを見せ付けるようで。

 或いはそれが彼なりの心配するな?


 「全く俺がいつお前に理解者の立場を求めたってんだ。」

 「ですが……。」

 「言っただろ、お前は俺の子供なんだろう。あいつが、キングコブラが残した。なら俺はそれで充分だ。」


 だったらどうして自分は。

 冷たい床に圧し倒されているのか。

 子供に手を出す親がいるとすればそれは。

 だから言った。


 「嘘吐きですわ、お父様は。」

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