旅立ち編

九話 僕の日常

 ……またあの夢を見た。

 光の降り注ぐ白い空間、僕と、僕を「倫」と呼ぶ誰か。

 いつも名前を呼ばれて、目を覚ます。

 最近はこの夢を見ることが多くなった気がする。

 小さい頃に見ていた時より、だんだん姿も声もはっきりとしてきている。

 あの夢は何なのだろう……


 ぐっと目を強く閉じて、見開いた。体を起こしてベッドサイドに置かれた時計を見る。

 午前11時。明け方頃に帰還して、各種の報告を済ませたのが6時を過ぎた頃。それからこの寮に戻って寝たから……4時間程度は寝ている。任務前も少し寝ていたし、充分だろう。

 シャワーを浴びて顔を洗う。眠気は無いが、いまいちすっきりしない。淹れておいたコーヒーを飲んだら、少しだけマシになった。


「さて……」


 クローゼットから軍服を取り出して着替える。

 特化討伐部隊に所属している者に、決まった休みは無い。常日頃から軍服を纏い、イデアの襲撃に備えておかなければならない。

 緑の軍服は目立つが、あえて自身の髪色に合わせて作ってもらったものだ。特化討伐部隊の隊服は黒以外なら何色でもいい、という決まりである。通常部隊との区別をつける意味合いが強く、世間的には玄の国の軍人は黒い軍服を着ている、というのが一般的な認識だ。だから、軍に関する知識が無い者は僕たちを見ただけでは、玄の国の軍人だとはすぐにはわからないだろう。リアンのように記章のついた軍帽を被っていれば、話は別だが。

 軍服を身につけ、特化討伐部隊の証である金の飾緒をつける。最後にベルトを締めると、腹からグゥと音が鳴った。


「……腹が減ったな」


 帰還後は食い気よりも眠気が勝って、先に睡眠を取ることを優先したせいだ。

 食事も必要だが、任務後のいつもの日課も終わらせていないので落ち着かない。

 ご飯は寮の食堂で摂ろうかとも思ったが、日課のためには街に出る必要がある。


「ついでに外で食べてくるか」


 ここのところ、軍の施設の外に出るのは訓練か任務のどちらかだった。街に出るのは久しぶりだ。

 ベルトに鞘を下げ、双剣と銃を装備して自分の部屋を後にした。

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