六話 合流

「やー」


 という何の力もこもっていない掛け声と共に、木の陰から飛び出してきたのは、赤髪の軍人、リアンだった。先ほどは手に大剣が握られていたが、今はない。

 声に力はこもっていなかったが、彼女が突き出して倫の頬に刺した右手の指先は、それなりに力が入っていた。しかも何故か手袋を外している。

 当然のように、倫は痛みを感じた。口の中が切れるほどの強さではなかったが、痛いものは痛い。


「おい……何するんだ」

「連絡がつかないから、探しにきてあげたんだよ」


 そう言うリアンの表情は相変わらず、何を考えているのか分からない。だが、倫たちを探しに来てくれたということは、多少なりとも心配はしてくれていたのだろう。

 しかしそれを素直に喜ぶことはできない。あの怪物を放っておくわけにはいかないのだから。


「それはありがたいが……倒せたのか?」

「いや、消えた。今ノンや別の部隊が探してるけど……倫ならわかるでしょ、あれの気配がもうしないって」

「……たしかにそうだが、まだどこかに潜んでいるかもしれないだろ」

「もし気配を察知したら、この少年はあたしに任せてくれればいい。それまでは、生存者の救出を優先」

「……わかったよ」


 そのやりとりを、少年は拍子抜けしたような顔で見ている。敵が来たのではないか、という緊張感で無駄に入っていた肩の力が抜けていく。今日はその繰り返しばかりだ。

 倫は左耳に何度か手を当てて、通信機の具合を確かめながら言った。


「……さっきから通信機が動かないんだ。故障かもしれない」

「いや、たぶん環境的なもの。あたしもこの森に入ってから、通信機が使えなくなった」

「それは……まずいな。ちょうど今、森の出口を見つけるために上空へ跳ぼうとしていたんだ」

「道ならわかるよ。倫と違って方向音痴じゃないからね」

「……そいつはありがたいな」

「森から抜けられなくて、この少年と二人で立ち往生していたの?」

「そうだ。悪かったな、方向音痴で」

「いつものことだし、今さら気にしないけど」


 少年が倫の顔を見ると、敵を前にしていた時とは違う険しさが浮かんでいた。少し悔しそうな感じだ。

 リアンは外していた手袋を装着して、木々の間を縫うように歩き出した。


「ついてきて」

「ああ……行こう」


 倫は傍らの少年に呼びかけた。

 少年は不安げな表情だったが、うなずいてゆっくりと歩き出した。

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