EX08 ついに念願の冒険者に一歩近づいたよ!


(ぎゃぁあああ! なにこの子ら!? 強すぎじゃぁぁぁ!!)


 マリンはルーナの【暗黒剣】を躱しながら、冷や汗を流していた。

 ここは冒険者ギルドの隣に付随している修練場。屋根はなく、完全に外である。

 木人がいくつも立っていて、各種木製の武器が隅の棚に並んでいる。

 マリンはその中から、木剣を選んで使っていた。

 ルーナの剣を躱したマリンの背後から、リリアンが蹴りを放った。

 マリンはそれも躱して、2人と距離を取る。


「さすが冒険者!」

「強いな!」


 ルーナとリリアンは楽しそうに言った。

 マリンは木剣をしっかり構える。手を抜いたら即、負けると理解したのだ。

 見物人もいつの間にか増えていて、ざわざわしている。

 ルーナとリリアンが予想以上の戦闘能力を見せたからだ。


(お嬢様たちは魔法兵ですからね!)モニカはとっても誇らしく思った。(さすがにサルメ・ティッカには勝てないでしょうけど、そんじょそこらの冒険者には負けませんよ!)


 戦闘が始まる前はハラハラしていたモニカだが、いざ始まってみるとルーナたちの強さに感動した。

 マリンが本気で踏み込んだ。ルーナが泣くかもしれないが、肩口に強い一撃を入れることに決めたのだ。

 ルーナは躱す素振りを見せない。それどころか、ニッコリと笑った。

 マリンは強い違和感を覚えたが、それでも木剣を振り抜いた。

 しかし、ルーナとマリンの間に光のシールドが現れて、マリンの木剣を弾く。

 シールドは砕けたけれど、マリンの体勢も崩れてしまう。


「ていっ!」


 ルーナはマリンを蹴った。

 正確には、マリンの股間を蹴り上げた。

 ブーツの先っぽで、蹴り上げたのだ。

 マリンは凄まじい衝撃に悲鳴を上げそうになった。

 女の子でも、そこを蹴られたら当然痛い。


「降参だぁぁぁ!!」


 悲鳴の代わりに、マリンはそう叫んだ。

 マリンは木剣を取り落とし、両手で股間を押さえている。


(ルーナちゃんのブーツの先っぽがぁぁぁ! 僕の股間の穴にメリッって! メリッて!! 処女大丈夫!? 僕の処女大丈夫!?)


 マリンは涙目になっている。


「やったぁ!! 勝ったぁぁ!!」

「現役に勝ったぞぉぉぉ!!」


 ルーナとリリアンは飛び跳ねて喜んでいる。


(マリンさん、なんて上手な被虐!!)モニカは驚愕していた。(羨ましい!! わたくしも、わたくしもルーナお嬢様にブーツでそこを蹴られたいですぅぅぅぅぅ!! マリンさん!! 実はMだったのですね!? マリンのMはドMのMですか! ちくしょー!! 羨ましいぃぃぃぃ!!)


 ちなみに、見学していた人たちもマリンの敗北に酷く驚いていた。

 だが同時に、ルーナとリリアンが普通の12歳の少女ではないことも理解した。


「ふ、ふふ、やるね、お嬢さんたち」


 マリンは内股になり、ヒクヒクと引きつった表情で言った。

 両手はまだ股間を押さえている。痛いのだ。


「マリンさん、戦ってくれてありがとう!」

「ありがとうだぞ!」


 ルーナとリリアンは勢いよくお辞儀した。


「い、いいさ、お嬢さんたち。ふ、ふふ(痛い痛い痛い、これ本当痛いんですけど!?)」


 マリンは今後、腰回りにも鎧を装備しようと誓った。

 特に股間は守ろうと強く思った。


「マリンさん、大丈夫? ナデナデしてあげるね?」

「あたしも! あたしもナデナデするぞ!」


 2人がマリンのスカートの中に手を伸ばす。


「大丈夫! 僕は大丈夫だから!」


 マリンは一歩下がった。


(そんなとこナデナデされたら、僕はトロットロになってしまうじゃないか! それはかなりヤバい! なんかメイドが睨んでるし!)


「本当? 私、強く蹴り過ぎちゃったかもって思って」


 ルーナが少しだけシュンとした風に言った。


「へ、平気さ! 僕はこれでも冒険者だからね! もう2回ぐらい喰らっても平気さ!」


 マリンは無理して胸を張り、両手を腰に当てた。


(このドMがぁぁぁ!! さり気なくおかわり要求すんなぁぁぁぁ! 羨ましすぎてわたくしメスブタが死んでしまうじゃないですかぁぁぁぁ!!)


 モニカは割と本気で憤慨していた。羨ましくてたまらないのだ。

 自分も蹴られたい、そう強く思っているから。


「マリンさんは、優しい!」

「マリンさん天使!」


 ルーナとリリアンがマリンに抱き付いた。


(ああんっ! ロリっ娘たちが僕に抱き付いているっ! 股間は痛いけどこれはこれで嬉しい!! よし、今ならナデナデできるぞ!)


 マリンはルーナとリリアンの頭を同時にナデナデした。

 その感触に表情が緩む。


(永遠にロリっ娘たちを撫でていたい。僕の人生は、それでいい)


 うんうんと、マリンは心の中で頷いた。


(マリンさんもチョロそうだねリリちゃん。分かりやすい魔女さんっぽい)

(マリンさんこれ、チョロいな。表情に出る魔女さんみたいだ)


 ルーナとリリアンは天使のような無垢な笑顔を浮かべていた。



「魔獣ルーナリアンを予約登録しておきますね。2人とも強くてビックリです。規則さえなければ、今すぐ本登録してあげたいぐらいです」


 受付嬢がルーナとリリアンに歩み寄って言った。

 ルーナとリリアンは顔を見合わせて、両手でハイタッチ。


「やったぁ! 私たち、冒険者に予約された!」

「やったぜ! 3年後には即、冒険者だ!」


 2人は腕を組んで、その場でクルクル回った。


「ところで、一応、本名も教えてくださいね」


 受付嬢が言って、2人はクルクル回るのを止めた。

 そして受付嬢と向き合う。


(くそ、受付嬢のせいで、ロリっ娘たちが僕から離れてしまったじゃないか)


 ちなみに、マリンはまだ股間を気にしていた。

 まだズキズキと痛む。

 実はルーナたちを撫でている間は、あまり痛みが気にならなかったマリンである。


(ああ、わたくしメスブタも蹴られたいです! そうだ! 例の何でも言うこと聞いてくれるやつで股間を蹴ってって……言えるわけねぇぇぇですね!)


 モニカはマリンの股間を見ていた。


「リリアン・アップルビーだぞ」

「ルーナ・パーカーだよ」

「はい。リリアン・アップルビーちゃんと、ルーナ・パーカーちゃんね」


 受付嬢がクリップボードに挟んだ登録用紙に2人の名前を記す。


「お姉さんありがとう。私たち、そろそろ帰るね?(もう用は済んだのだぁ! 私たちはこれからお待ちかねのプチ冒険を始めるのだぁ!)」


 ルーナがリリアンを見ると、リリアンが頷いた。


「3年後にまた来るぞ!(長居は無用! あたしらはこれからプチ冒険の時間だぜ!)」


 2人は自然に手を繋いだ。


「3年後と言わず、またいつでも遊びに来るといい(このロリっ娘たちは可愛い。そう、とっても可愛い。またナデナデしたい)」


 マリンも受付嬢も、そして他の者たちも、だいたい同じことを思った。

 ルーナとリリアンがすこぶる可愛いので、心からまた遊びに来てほしい、と。


「じゃあね」

「またな」


 ルーナとリリアンは繋いでいない方の手を振って、歩き始めた。

 そんな2人の後ろから、モニカが澄まし顔で続く。

 モニカはほとんど無意識に2人を追っていた。


(股間キックが欲しいです股間キックが欲しいですキックされたいですキック)


 モニカはそれしか考えていなかった。

 何を隠そう、ずっとそれを考えていたのだ。そのせいでトロットロである。

 ギルドを出て、ルーナとリリアンが王都を出ようとしたところで、モニカはやっと正気に戻った。


「お嬢様? そちらは街道ですが? どちらへ?」


 モニカが言うと、ルーナとリリアンはビクッと身を竦めた。

 そして酷く驚いた表情で振り返った。


「何か?」とモニカ。


「モニカ、いたの?」


 ルーナは心底、驚いていた。モニカの気配をまったく感じていなかったのだ。


(きゃぁぁぁ! 新手の放置プレイか何かですかぁぁぁ!? ちょっとキュンってしちゃいましたぁぁぁ!!)


 モニカは素の表情のまま、ジッとルーナを見詰めた。


「モニカもしかして、アレじゃないのか?」リリアンが言う。「ほら、なんだっけ? スパイスみたいなやつ」


「スパイのことでしょうか?」とモニカ。


「それそれ」リリアンが笑顔で言う。「あたしら、本気でモニカがいるの忘れてたぞ!」


(ああんっ! お嬢様たちに忘れられていたぁぁぁ!! そう言えばわたくしメスブタ、完全に無言でしたぁぁぁぁ!!)


 延々と股間キックの妄想をしていたので、仕方ない。


「てゆーかモニカ、もうホテル戻っていいよ?」ルーナが言う。「私たち、このまま家まで歩いて帰るから」


「そうですか。ではお気を付け……って、えぇぇぇぇ!?」


 モニカは目を丸くして驚いた。


「あたしら、プチ冒険するんだぞ? 順調なら明日の夜までには戻ると思う」

「そ。私とリリちゃんは、プチ冒険するの。だからモニカは戻っていいよ?」


「いえ、しかし、その、クリス様には……(言ってるわけないですよね! あは! これわたくしもお仕置き確定! やったぁぁぁ!! さすがルーナお嬢様とリリアン様!! 期待を裏切らないっ!!)」


「お姉ちゃんがいいって言うわけないじゃんモニカ」


 ルーナはニコニコと言った。


「間違いない」とリリアンが頷く。


「クリス様はキチンと話せば冒険には反対しないのでは?(一応、引き留めておきましょう。ええ、言い訳用に。ぶっちゃけ、我が国は治安もいいですし、2人はとっても強いですし、何も問題ないでしょうけど。ふふっ、クリス様に、わたくしの力が及ばず、引き留められませんでしたぁ! お仕置きくーださいっ! って言うために!)」


「それは私が勉強とか普段のお稽古とか、ちゃんとしたらでしょ?」ルーナが頬を膨らませる。「私がちゃんとしてると思う?」


(はーい! してませんね!)


 モニカは首を左右に振った。

 ルーナは全く勉強していないわけではない。クリスが指定した範囲まで進んでいないという意味だ。


(正直、クリス様の指定範囲は学校なんか目じゃないレベルだから、少しルーナお嬢様が可哀想な気もしますね。クリス様、自分が完璧超人なことに気付いていないようですし、ルーナお嬢様にも自分と同じレベルを求めている節がありますしね)


 モニカはそのことを、以前から気にしていたのだ。

 ちなみにだが、ルーナは真面目にやれば余裕で指定範囲をクリア可能である。しかし遊ぶ方が楽しいので、やらないだけだ。


「というわけだから、行っていいでしょ? お願いモニカ」


 ルーナは胸の前で両手を組んで言った。

 可愛すぎてモニカは気を失うかと思った。


「分かりました。それではお嬢様方、お気を付けて」


 モニカは小さくお辞儀をした。

 ルーナとリリアンは顔を見合わせ、それからモニカに抱き付いた。

 そしてウルウルした瞳で、「モニカありがとう!」と言った。

 モニカは更にトロットロになって色々とヤバかった。


「それじゃあリリちゃん!」

「ほいさルーナ!」

「冒険者予約後の、魔獣ルーナリアン初冒険だぁ!」

「いえーい! あたしら予約冒険者!」


 2人はとっても楽しそうに、歌うように言って、

 そして微笑み合って、街道を進んだ。

 2人は根っからの冒険好き。

 きっとこれからも、ずっと大好きな冒険を続けるのだ。

 大好きな相手と。

 時々、周囲の変態たちも添えて。

 

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ルーナちゃんは冒険したいっ! ~百合の花と変態魔女を添えて~ 葉月双 @Sou-Hazuki

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