4話 あたくしの扱いが酷い件について


 ルーナとリリアンは料理を皿に載せて、拠点の部屋まで運んだ。

 そして皿を全部ベッドの上に置く。陶器製のウォーターピッチャーとコップだけはサイドテーブルへ。水が零れると困るからだ。

 2人はソッとベッドに上がって、座り込む。ペッタンコ座りだ。

 今回は隣同士ではなく、対面して座っている。


「ほとんど家だね」とルーナ。

「うん。ルーナの部屋でパーティしてるみたいだ」とリリアン。


 2人はまず、各種野草をムシャムシャと食べた。草食動物になった気分だが、案外野草は美味しい。洗っただけで、特に味付けや調理はしていない。


「アーモンド芋虫いっぱい取れてラッキーだったね」

「だな。こいつ見た目に反して美味しいんだよな」


 2人は大きな白い芋虫を抓んで食べる。

 ちなみに、芋虫は軽く炙ったので、うっすら焦げ目が付いている。


「うん。アーモンドっぽい!」

「アーモンド! 芋虫なのにアーモンド! ルーナみたい!」


 2人は嬉しくなって、芋虫をパクパクと食べた。


「……って、私みたい!?」


 ルーナは食べるのを止めて、芋虫をジッと見詰めた。


「うん。そっくりだぞ(可愛いのに野獣なルーナと、芋虫なのにアーモンドなこいつ。見た目と裏腹的な意味で似てる!)」

「……え? リリちゃん、私のこと芋虫だと思ってたの?(さすがの私も軽くショックなんだけど?)」

「ん? ルーナが芋虫だとは言ってないぞ? 似てるって言っただけ」


「あ、うん……そっか……(似てる!? 私と芋虫が!? 芋虫とかもうほとんど顔なくない!? 肌が白いのが似てるとか!? リリちゃんならそういう些細な類似点を似てるって言ってそうだけど! どうであれ、あんまり嬉しくない!)」


 ルーナが悶々としているのに気付かないリリアンが、トカゲに手を伸ばす。


「んー! トカゲ美味い! 香草が効いてるぅ!」


 リリアンは脳天気で幸福な笑顔で言った。

 ルーナはとりあえず手に持った芋虫を食べてから、トカゲに手を伸ばした。


(あんまり気にしても仕方ないかな。リリちゃんだし)


 芋虫と似ていると言われたことは、とりあえず忘れることにしたルーナ。


「あ、本当に美味しいねこれ!」

「だろー! トカゲ最高! あたしらの主食!」

「トカゲってどこにでもいるしね!」


 今回のトカゲは割と大きいので、食べ応えがある。

 2人は用意した夕食を完璧に平らげ、皿をサイドテーブルへ。

 そして2人揃ってベッドに転がった。


「お話ターイム!」とルーナが笑顔で言った。

「いえーい! 今日は何の話する!?」とリリアン。


 2人は身体をお互いの方に向けて、見つめ合う。

 ちょっと首を動かせばキスできるぐらい、2人の距離は近い。


「その1、魔女さんの話」ルーナが言う。「その2、お姉ちゃんの話。その3、明日何するかの確認」


「その4、ルーナの話。その5、あたしの話」リリアンが言う。「その6、子供の作り方」


「じゃあ全部ね!」

「おう! 全部話そう!」

「魔女さんってピュアッピュアだから、時々汚したくなっちゃう!」

「それ分かる! またくすぐり倒してやろうぜ!」


 2人は悪い笑みを浮かべた。

 2人は今も、魔女が変態ロリコン女だと知らない。


「クリス姉様には、いつか分からせてやる!(ルーナと結婚するのはあたしだ!)」

「分からせてやるぅ! 全裸に剥いて、お尻ペンペンして、蝋燭アートのキャンバスにしてやるぅ!」



「あたくしの扱いぃぃぃぃぃぃ!!」

 クリスは絶叫した。

 魔女は身体を起こし、クリスの肩をポンッと叩いた。全裸で。



「で、明日はまずゾンビの残りを埋めて、それから武具庫を念入りに調べて、何か使える武器とかないか見たいなぁ」


 今日は全体的に見て回ったので、各部屋を細かく調べたりはしていない。


「槍とかあったら、ちょっと練習したいな、あたし」

「槍いいよね。近距離なのか中距離なのか分からない半端な感じがいいよね。リリちゃんにピッタリ」

「ふぇえ!? あたし半端!?」


 リリアンが泣きそうな瞳でルーナを見る。


「えへへ。冗談だよ。リリちゃん反応可愛いから、つい意地悪言いたくなっちゃう」

「うえーん、ルーナがどんどんドSになっちゃうよぉ!」

「よしよしリリちゃん。今日も可愛いよ」


 ルーナは手を伸ばして、リリアンの頭を撫で撫でした。


「次はルーナの話だぞ」


 リリアンは照れながら言った。


「んー、私はねー、リリちゃんが大好き」


 ルーナが言うと、リリアンの顔がボンッと紅くなった。


「あわわ、あわたし、あああたし、あたし、そう、あたしも好き!」

「リリちゃんもリリちゃんが大好きなの? ナルシストなの?」


 ルーナはニヤニヤしながら言った。


「ちが、違うぞルーナ! メロトロ違う! あたしナルシストじゃない! あたしが好きなのは、好きなのは、えっと、あたしが好きなのは――」


 リリアンがウルウルした瞳でルーナを見る。


(やだっ、リリちゃん可愛い)


 ルーナはドキドキしていた。


「――ルーナ、だぞ。あたしはルーナの、子供産むんだもんな! ルーナ大好き! 結婚する!」


 リリアンが吹っ切れた風に言ったので、今度はルーナが頬を染めた。


「もう、リリちゃんったら、今から子供作っちゃう?」

「い、今!?」

「えへへ。リリちゃんとなら……」


 言いながら、ルーナはリリアンの頬にキスをした。

 そして次に、ルーナは目を瞑った。


(さぁ、リリちゃん、次はリリちゃんが私にキスする番だよ!)


 少し待って、ルーナはそのまま寝落ち。


(きゃーーーー!! ついに! あたしついにルーナの子供産む日が来るんだぁ! でもまだ早いぞルーナ! 冒険者になって、世界を巡ってからでも遅くないぞ! きゃー! でもこのチャンスを逃したくない!)


 ギュッと目を瞑って、リリアンはそんなことを思っていた。

 そしてリリアンもそのまま寝落ち。

 2人とも何気に疲れていたのだ。



 冒険訓練2日目。

 ルーナとリリアンは夜明けとともに目覚めた。

 早寝したので、昨日の疲れは全部吹っ飛んでいた。気分爽快である。


「よぉしリリちゃん! 朝ご飯だぁ!」

「おう! 朝ご飯だぁ!」


 2人は芋虫と野草を食べて、少し休憩してから武具庫に向かった。

 ほとんどの武器は錆びているか朽ちていて、まともに使えそうな物がない。


「あれ? ねぇリリちゃん、地下室あるよ」


 ルーナが指さした床には、地下への入り口があった。


「おー! いい武器があるのかも! 高価な武器なら持って帰って売ろうぜ!」

「そうだね! 冒険資金にしよう!」


 ルーナはルンルン気分で地下への入り口を開いた。

 人間1人が通れる階段がそこにあった。


「手燭取りに行くの面倒だから、リリちゃんお願い」

「任せろ。【照明】」


 リリアンが右手の人差し指を立てると、そこにボッと光が灯る。


「おぉ! 輝くリリちゃん! 冒険の役に立つ素敵なリリちゃん!」

「て、照れるぅ」


 リリアンは身悶えてから、地下への階段を進む。 ルーナがリリアンの後ろに続く。

 壁に燭台が等間隔で並んでいたので、下るついでにルーナがメタルマッチで火を点けた。

 帰り、リリアンに楽をさせるためだ。魔法は全て魔力を消費する。


 階段を下り切ると、そこは上の武具庫と同じぐらい広い場所だった。

 ルーナはメタルマッチで燭台に火を点けて回った。それが済むと、リリアンは【照明】を消した。

 各種武器は上と同じように朽ちていたけれど、部屋の中央に見慣れない物がドンッと置いてあった。


「ねぇリリちゃん、棺桶だよね?」

「おう。どう見ても棺桶だ」


 部屋の中央に置かれたそれは、子供用の棺桶。色は黒だが、木材で作られている。

 ルーナは軽く蹴ってみたが、反応はない。


「てか、模様すごいな」とリリアン。


「本当だね。お金かかってるっぽいから、これ持って帰る? 売れるかなぁ?」


 棺桶の蓋の部分には十字架とコウモリが彫られている。他にも幾何学的なよく分からない模様も。


「売る前に」リリアンが真面目に言う。「カッコいいから、あたしこれで寝てみたい!」


「えー? 私も寝たいから、順番ね?」

「おう。とりあえず蓋、外してみようぜ!」


 リリアンが棺桶の蓋をずらす。

 そして棺桶の中を確認して、2人の心臓が大きく跳ねた。ビックリしたのだ。

 銀髪の美しい女の子が先に棺桶の中で寝ていたから。

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