8話 基地とベッドと頭蓋骨


「ルーナ、ふっかーつ!!」

「リリアン、ふっかーつ!!」


 清々しい朝の空気を吸いながら、ルーナとリリアンはハイタッチした。

 すでに痛みはない。というか、夜中にはもうかなり落ち着いていたので、2人ともいつの間にか眠っていたのだ。

 2人は基地から出て、最初に自分たちが掘った穴を埋めた。トイレの代わりにしていた穴のことだ。

 それから池で自分たちの身体を軽く洗い始める。


「ふぅ……死ぬかと思ったねリリちゃん」

「まったくだぜ。さすが冒険は楽しいことだけじゃないな」

「お尻の穴が3つぐらい増えるかと思ったよ」


「あたしもまったく同じこと思ったぜ?(やだ、あたしルーナと思考が繋がってるじゃん。これもう結婚するしかない)」

「朝ご飯探しに行こう? フルーツ的なのがいいよね(思考が一緒だから結婚するしかないって表情してるなぁ)」


「よし、服を着たら行こうぜ!」


 2人はずっと裸マントで過ごし、今は身体を洗っている最中なので全裸。


「あ、その前にリリちゃん」ルーナが真剣な瞳で言う。「憎きあんちくしょーの肉を抹殺しよう」


 ルーナは仕返しを忘れない。


「ゴブ肉か。あのクソ肉め、よくもあたしとルーナをいじめたな。地獄に落としてやる!」


 リリアンも仕返しを忘れない。

 とはいえ、2人が勝手に食べたわけだけれど。別に食べなくても良かったのだが。

 ルーナは身体を洗い終わったのでマントを羽織る。

 リリアンも同じようにマントを羽織った。

 2人は手を繋いで、基地へ戻る。

 そして余ったゴブ肉たちを地面に埋めた。


「地獄で会おうぜ」と言ったのはルーナの方。


「ふえぇ!? あたしら、死んだら地獄行きなのか!?」


「知らないよ? あたしどっちでもいいよ?(リリちゃんがいれば、どこだって天国。って言ったら喜ぶかな? 照れてまた完熟トマトみたいになるかな? 言おうかなぁ、どうしようかなぁ)」


「あたしはいい子だと思ってたのにぃぃぃ!」

「本当に?」


 ルーナはリリアンの背後に回り、そして抱き付いた。


「ねぇ? 本当にいい子? やらしーこと、考えたことないの?」


 ルーナはリリアンの耳元で囁くように言った。


「あうあうあうあうあうあう!」


 リリアンがボンッと真っ赤になってあたふたしている。


(んー、リリちゃん本当に可愛いなぁ)


 ルーナはリリアンの反応に満足したので、リリアンから離れた。

 そして服を着たけれど、リリアンはまだあたふたしていた。

 仕方ないので、ルーナはリリアンの手を引いて基地に連れ込む。それから、マントを脱がせて服を着せ、その上からマントを被せた。


「もぉ、リリちゃんは着替えもできない子なの?」

「ち、違うし!? なんかルーナが着替えさせてくれたから、その、なんか、抵抗は無意味かなって思っただけだし!」

「ふぅん。ま、いいや。朝ご飯探しに行こう?」


 ルーナが手を伸ばすと、リリアンがその手を迷わず繋いだ。



「ルーナ天使! ルーナ天使! ルーナ小悪魔天使! 可愛い! 可愛いですわ!」


 ルーナの姉であるクリスは、水晶玉を見ながら大興奮していた。


(わたしの楽しみをなぜか奪われたわね)


 魔女はずっと服を着ている。本当は脱ぎたいし、色々やりたかったのだけど、クリスが居座ったせいで何もできなかった。

 あのあと、クリスに問い詰められて、魔女はアッサリと白状した。

 そして長い説教を受け、危うくこの歳で尻を叩かれそうになり、だけど頑張って説得して、2人で美少女たちを見守ることになったのだ。

 最初はムスッとしていたクリスだが、ルーナとリリアンが苦しみながらも頑張っている様子に心を打たれた。

 ルーナたちが眠るまで、ずっと応援していた。


「それにリリアンも可愛いですわね。小生意気なガキだと思ってましたけれど、ルーナの前ではあんなメスの顔をしますのね。驚きですわ」


 ルーナたちが眠ると、クリスも眠った。そしてルーナたちが起きると、クリスも起きた。


「クリスも少女趣味に目覚めて嬉しいわ」


「はぁ?」クリスがゴミを見るような表情で魔女を睨んだ。「あたくしのは、可愛い妹とその友人への愛ですわ。あなたは少女への性欲でしょ? 変態」


「少女に欲情して何が悪いか」

「変態が開き直りましたわ! だいたい、15歳になったら捨てられる少女の気持ちを少しは考えたことありますの!?」

「おばさんの気持ちなんて、わたしには何の興味もないの。胸が大きくなったらもう何の価値もないわ」

「ガチクズ魔女……自分はどうなのよ?」


 クリスが怒ったように呟いた。


「わたしはいいのよ。別に自分が好きなわけでもないし」

「ああ、そう……」


 クリスはもう諦めた風に溜息を吐いた。



 各種木の実と野いちごの仲間をルーナとリリアンはバクバクと食べた。昨日の腹痛が嘘みたいだ。


「よぉし! 今日はベッド作って、それから夕食用の海産物を集めよう!」

「いえーい! 今日は海の幸だ! あたし海の食べ物好き!」

「リリちゃんは何でも好きでしょ?」

「まぁな! ってかルーナもじゃん!」


 2人とも何でも食べられるように訓練したのだ。冒険者になるのだから、食料を選り好みしていては生き残れない。

 さすがに初めて昆虫を食べた時は少し気持ち悪かった。でも、慣れれば案外平気だ。

 2人はニコニコと楽しそうに木を集めて、ベッドの基礎フレームを作った。普通のベッドで言うところの脚と床板の部分だ。

 設置したのはもちろん基地の中だ。2人一緒に寝られるように、大きめに作った。


 基礎フレームを作ったら、次は柔らかそうな草を集めた。この草たちがマットレスの代わりだ。

 最後に大きな葉っぱを集めて載せる。普通のベッドならシーツに当たる。

 掛け布団はないが、気温的に死にはしない。それにマントがあるので大丈夫だ。

 最大の目的は、地面より高い位置で眠ることなのだから。地面の冷たさや危険な生物から距離を置く、という意味。


「疲れたほよーん!」


 ルーナがベッドに転がる。さすがに飛び込んだりはしない。所詮は木の棒で作ったベッドだ。そんなことをしたらぶっ壊れる可能性が高い。


「ほよーん!」


 リリアンも転がった。

 寝心地がいいか? と聞かれたら圧倒的にノーである。

 だけれど。


「最高だねリリちゃん」

「おう。あたしらが作った、あたしらのためのベッド。完璧すぎるぜ」


 2人はとってもいい気分だった。やり遂げた感がある。基地を作って、ベッドも作った。これであとは生き残るだけだ。


「疲れちゃったから、夕飯探しはもう少しあとにしよ?」

「でも暗くなっちゃうぞ? まぁあたしの【照明】あるけどさ」


 2人は松明もランタンも持ってきていない。リリアンが光属性の魔法を使えるので、必要ないのだ。

 自分たちの周囲を照らす程度の魔法だが、それで十分。

 ちなみに魔法の属性には段階がある。

 一番弱いのが基本六属性で、火水風土光闇がこれに属する。その上には固有属性があって、更に上位には神域属性というのが存在しているが、使える者は滅多にいない。

 基本的に、扱える属性は1人につき1つ。ルーナは現在闇属性だが、固有属性に変化したら、もう闇は使えない。

 まぁ世の中にはそのルールが適用されない、つまり1人で多くの属性を扱える超人も極々稀に存在しているけれど。


「今はベッドを堪能したいなぁ? リリちゃんは、私とベッドにいるの嫌?」

「嫌なわけないし! ずっとでもいいし!」

「ずっとは嫌だなぁ」

「ずっとは、あたしも嫌だし! 今のは言葉のアヤってやつだな!」


「そっか」ルーナが微笑む。「初日から大変だったけど、これで落ち着いたねー」


 海で遊んだり、ゴブリンに襲われたり、腹痛に見舞われたりと、予定外のことが多かった。


「明日は狩りとか、しちゃうか?(美味しい鹿肉が食べたいぞ。ゴブ肉はクソだったし)」


「いいよぉ。鹿にしよっか。皮で新しいマント作れるし」ルーナが言う。「もしくは敷物にしてもいいね」


 日程的に皮をどうこうする余裕はない。マントにしろ敷物にしろ、家に帰ってからの作業になる。


「あ、午前中はさ」リリアンが言う。「ゴブリンの頭、飾りにしようぜ! 肉そぎ落として綺麗な頭蓋骨にしてさ!」


「それ超カッコいい!」ルーナが身体を起こした。「私たちが最初に倒した魔物だし、記念に頭蓋骨持って帰ろう! そして秘密基地に飾ろう!」


 ああ、明日が待ち遠しい、と2人は思った。

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