6話 ゴブリン退治とゴブリン肉


 ゴブリンは地面に置いていた棍棒を拾った。

 木製の棍棒で、先端が太くなっている。

 ルーナとリリアンは、いつゴブリンが攻撃してきてもいいように集中した。


「ナベェェェ!! ドゴォォォォォ!!」


 ゴブリンが棍棒を振り上げながら、2人との距離を詰めた。

 そして真っ直ぐに棍棒を振り下ろす。


(あぁ、なんだ、これなら平気だね)

(ありゃ? 全然弱いじゃんこいつ)


 ルーナとリリアンは微笑みあって、左右に飛んでゴブリンの一撃を回避。

 棍棒が力強く地面を叩く。


(あ、でも威力は強いね。一撃で私死んじゃうなぁ。いや、えっと、死なないけど一撃で負けるかな? ゴブリンのお嫁さんにはなりたくないよぉ。絶対避けなきゃ)

(雑魚だと思ったけど、やっぱ腕力は強いぜ。さすが魔物。下位の魔物でも、倒すには大人の兵士数人とか必要だしな!)


「オガァァァズゥゥゥ!!」


 ゴブリンはリリアンの方に向かって行った。


「あたしかよぉぉ!!」


 ゴブリンの単調な攻撃を、リリアンは横に飛んで躱す。


「むぅ! こっち来いバカゴブリン!」ルーナが叫ぶ。「リリちゃんはか弱いんだから! 私が相手になってやるんだから!」


 ルーナは体内の魔力を認識し、取り出し、性質を変化させる。


「闇属性攻撃魔法【暗黒剣】!」


 ルーナの右手に、魔力で作られた漆黒の剣が出現した。

 冒険者には武器が必要だ。魔物や悪人と戦うこともあるのだから。

 でも、武器をいつも持ち歩くのは不便極まりない。重いし、邪魔になる。

 であるならば、魔法を武器にした方がいい。


「ブボォォォォ!!」


 ゴブリンはルーナを見て驚いたように叫んだ。


「いっくよぉぉ!」


 ルーナの方から進んで距離を詰めた。

 魔法は世間一般的には弱い。いや、弱かったというのが正しい。習得に時間がかかる割に、便利なだけで戦闘では使えない。剣で斬った方が早い。そういうものだった。

 それを変えたのは、異国の傭兵団。そこの団長は魔法兵と呼ばれる新たな職業を作りあげた。

 魔法を正しく使い、魔法を武器と呼べるレベルに昇華させ、機動しながら攻撃する新たな戦闘の形を提示したのだ。


 ゴブリンがルーナを殴ろうと棍棒を振り上げる。

 だけれど、その腕に矢が刺さった。

 ゴブリンが痛みに呻く。

 リリアンが弓を拾ってゴブリンを射たのだ。リリアンは最初から、弓を拾う方向で動いていた。

 痛みで怯んだゴブリンの首を、ルーナが斬る。

 ゴブリンの頭が地面を転がり、身体が倒れるまでルーナは集中を解かなかった。

 リリアンも同じだ。弓を構えたまま残心を続けていた。


「大丈夫そうだね」


 言いながら、ルーナは魔法で作った剣を消す。


「ビックリしたぜ。いきなり襲って来るんだもんなぁ」


 魔法兵は最強だ。市街戦であれ、森林戦であれ、今の時代、魔法兵に勝てる職業などない。

 剣士、武道家、弓使い、魔法使い、色々な職業があるけれど、殺し合いに限れば魔法兵が一番強い。

 実戦向きなのだ。とことん、徹底的に、実戦向き。反面、試合などのルールが設定されている勝負には弱い。

 しかし冒険者は試合などしない。いつだって実戦である。

 だからルーナとリリアンは魔法兵になった。

 まぁ、2人は本物の魔法兵ではない。魔法兵は基本、異国の傭兵団《月花》のメンバーだけだ。

 他の魔法兵は全部偽物というか、《月花》の真似をしているに過ぎない。


「ゴブリンって食べられるのかなぁ?」とルーナ。

「うぇぇ、不味そうだけど、せっかくだから食べるか?」とリリアン。


「じゃあ夕飯はゴブリン肉だね!」

「よし、あたし下準備するから、ルーナ基地作ってくれよ」

「はぁい!」


 ルーナはまず散乱したリュックの中身を集めることにした。

 リリアンはゴブリンの身体を池の近くまで運び、次に頭を運んだ。

 でもそこで、ルーナを押し倒すという誓いを思い出したので、ルーナに近寄る。


「あ、そうだリリちゃん」ルーナが言う。「帰ったら魔女さんにお仕置きしようね」


「いいね」リリアンが賛同する。「魔物いないって言ったくせに。手抜きだぜ。これはお仕置きするしかない」



「美少女たちがぁぁぁあ!! わたしを!! お仕置きするって言ってるぅぅぅ!! はぁはぁ!! もう一回服脱がなきゃぁぁ!!」


 魔女はベッドの上で再び全裸になった。

 これから何をするかは秘密だ。


「なんてことかしら!! ラッキーだわ!! 日頃の行いがいいから!? てゆーか何されちゃうのかしら!? わたしどうされちゃうの!? はぁはぁ!」


 魔女は水晶玉を通して、2人の戦いぶりを見ていた。

 想像以上に2人が強すぎて、全く面白くなかったけれど。

 もっと苦戦して涙目とかになって欲しかった。


(2人に傷付いて欲しいわけじゃないんだけど、こう、もっとこう、キュンってするような涙目が欲しかったわね)


 怯える美少女も大好物な魔女である。


(それにしても、ちょっとあの2人強すぎるわね。並の12歳じゃないわ。もちろん、ずっと鍛えていたのは知ってるし、半分ぐらいわたしが鍛えたのだけど、すごいわね)


 しかも2人にとって、初めての実戦だ。

 多くの場合、稽古ではできても実戦では上手くできない。

 2人にはそれがなかった。淀みなくスムーズにゴブリンを倒した。

 まぁ正確には、最初に少し混乱して判断が遅れたのだけど、それでも余裕で合格点を与えられるレベルだった。


「まぁ! どうでもいいわ! 2人のお仕置きを妄想しなくちゃ!(ロリコンの使命よね!)」



 2人が三角の基地を完成させた頃には、すっかり日が落ちていた。

 かまどの焚き火がユラユラしているので、周囲は明るいけれど。

 焚き火を取り囲むように、串に刺されたゴブリン肉が炙られている。

 ちなみに、リリアンはゴブリンの内臓を少し離れた場所に埋めた。さすがに内臓を食べるのは危険な気がしたのだ。

 放置しても腐って臭うし、埋めるのが一番いい。


「基地はできたけど、ベッドは間に合わなかったね」とルーナ。

「仕方ない。基地作りが割と時間かかっちゃったしな」とリリアン。


 木の根の間に作った基地だが、広さは十分。2人の身体が小さいというのもある。

 基地の屋根には水はけのいい大きな葉っぱを幾層にも重ねている。重みで潰れないよう、支えの太い枝も多い。

 ちなみに、枝と枝を括っているのは蔦植物だ。割と頑丈なので、紐の代わりになる。


「明日は葉っぱや草を集めて、ふかふかのベッド作ろうね」

「おう。柔らかベッド作るぜ」


 2人は焚き火の近くに座ってニコニコと笑っている。


「むしろ私、リリちゃんをベッドにしようかなぁ?」

「ふえぇ!? あたしベッド役!?」

「そう! 私を支える大切なベッド!」

「さすがにそれは重いから嫌だな!」

「じゃあ少しでも軽くなるように、私全部脱ぐね?」


 ルーナが言うと、リリアンがボンッと赤くなった。


「じゃ、じゃあ、あたしも脱ぐぜ!」

「なんで? 裸見せたいの? リリちゃん露出狂なの?」

「ち、違うし! ルーナだけだし! 昼間、魔女さんに見られたけど、基本的にはルーナにしか見せないし!」


「ふぅん?」とルーナが意地悪く笑った。


「昼間のはだってルーナだって裸だったし!」

「ふふっ、本当は気にしてないよ。ゴブ肉食べよう?」

「お、おう」


 2人は焼けているゴブ肉の串を取った。

 ちなみに、ゴブ肉にはいくつかの香草を細かく刻んで振りかけている。獣臭がすごかったからだ。しっかり洗っても、臭みが全部は取れなかった。


「ゴブリンのハラミ!」とルーナ。

「ゴブリンのロース!」とリリアン。


 他の部位は燻製にしたり干したりしている。

 2人は同時にゴブ肉にかぶり付いた。

 そしてモニュモニュと咀嚼して飲み込む。


「かたーい」

「微妙……だな」


 初めてのゴブ肉はとっても不味かった。

 でも2人は焼いた分は残さず食べた。今回のゴブリンは自衛のために殺したので、別に無理に食べる必要はない。

 それでも、今後のために味を知っておきたかった。魔物図鑑に魔物料理は載っていないから。

 数時間後。


「あ、あたし、腹痛いかも」

「私もだよリリちゃん……」


 2人は激しい腹痛と下痢に襲われていた。

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