4話 ユリワサビは君に似ている


 2人は水が綺麗なことを確認して、ゴクゴクと飲んだ。


「生き返るぅぅ」とルーナ。

「死んでないけどな!」とリリアン。


 それから2人は水筒に水を入れる。持ち歩く用だ。喉が渇いたら水源まで戻るのでは効率が悪い。


「最初は私でいい?」

「もちろん! あたしは周囲の食べ物探してくる!」


 リリアンが注意深く草木を観察し始めた。

 ルーナは服を脱いで、小さな池で身体に付着した塩を落とす。髪の毛も綺麗に洗った。

 洗い終わると、池から上がって大きな木の根っこまでリュックを持って移動。

 全裸で森の中をウロウロするのは自殺行為だ。ケガをする可能性が高い。よって、かなり近くの木の根だ。

 ルーナはマントだけ羽織って付近の石を集めてかまどを制作。枯れた葉っぱや草、枝なども集めてメタルマッチで火を点ける。

 身体を早く乾かすためと、食料を焼くためだ。


「基地作るならどこがいいかなぁ?」


 ルーナは身体を乾かすついでに、目視できる範囲を観察。


「やっぱ水源に近い方がいいよな」


 リリアンはすでに水源近くの葉っぱを採取している。

 ユリワサビと呼ばれる植物で、ピリッとした辛みが癖になるのだ。


「そして雨風を凌ぎたいから、洞窟とかあれば最高だけど……」ルーナが言う。「まぁ、なければないで、屋根を作ればいいから別にいいけど。そんで、眠る時はなるべく地面より高い位置がいい」


 有害な虫や爬虫類を避けるためだ。


「木の上に基地を作るか、そうでなければ簡易ベッドの制作だな」


 ルーナとリリアンはこの日のために、秘密基地を作ったことがある。その基地は魔女の家の近くにあって、何度も改修をした。

 そこに2人でお泊まりしたこともあるし、基地作りは割と慣れたものだ。


「そろそろいいかなっと」


 ルーナは身体がだいぶ乾いたので、服を着た。


「よし、交代だな」


 リリアンは小走りでルーナの元へ。

 それから採取したユリワサビを木の根っこの上に置いた。

 ルーナが右手を挙げて、リリアンがその右手を自分の右手で叩く。ハイタッチである。

 リリアンが服を脱いで池へ。ルーナは右手に短剣を持って、池の近くを散策。

 ルーナはトカゲを発見したので、即座に確保。余裕である。伊達に庭で昆虫や爬虫類を捕まえる練習をしたわけではない。

 捕らえたトカゲの首を短剣で落としてシメる。こうしておけば、ポケットに入れてもトカゲは逃げない。

 頭の方は放置でいい。自然に還るのだから。

 何種類かの野草と、トカゲをもう一匹確保してルーナはかまどに戻った。

 木の根の上に取った物を置く。


「おー! いきなりご馳走じゃん!」


 リリアンはトカゲを見て喜んだ。ちなみに身体を乾かしているので、全裸だ。


「えへへ。運が良かったよぉ」ルーナも笑顔を浮かべる。「あ、薪をもう少し拾ってくるね」


「じゃあ、服着たらあたしがトカゲの下処理しとくぜ」

「うん、でもその前に」


 ルーナが手を伸ばしてリリアンの頬に触れた。

 ルーナは立っていて、リリアンは座っている。

 リリアンはキョトンと首を傾げた。


「なんだか、ドキドキする。私は服を着てるけど、リリちゃんは全裸でしょ? なんだか、ドキドキする(リリちゃんを私のペットにしたみたいな感じ)」


 ルーナはリリアンの頬に触れた手を、ゆっくりと円を描くように動かした。


「そ、そんなこと言われたらあたし、急に照れてきたぞ!(あたしがルーナのペットになったみたいな……ああん! ペットになりたいっ!)」


 ボンッと赤くなったリリアンの視線が泳ぐ。


「ドキドキしない?」

「す、するけど! すごく、するけど!」


「ふふっ、リリちゃん可愛いよ」ルーナが手を引っ込めた。「薪探してくるね」


(本当、リリちゃん可愛い。リリちゃんはペットっていうか、天使か何かだよねぇ?)


 ニコニコと笑いながら、ルーナは薪を探すためにその場を離れた。



(ルーナ、マジ小悪魔天使!!)


 ドキドキが収まらないけれど、リリアンはとりあえず服を着た。

 5日もルーナと二人きりとか、心臓が保たないかもしれない。ドキドキしすぎて破裂するって意味。

 まぁそうなったら死ぬけれど。

 そして、リリアンが死んだらルーナが悲しむので、絶対に死にたくないけれど。

 なんてことを考えながら、リリアンはトカゲの死体や各種野草を湧き水で洗う。

 トカゲの内臓を抜いて皮を剥いで、肉を細くて鋭い枝に突き刺す。焼くためだ。

 かまどの方を見ると、ルーナが薪を足していた。

 かまどの隣にドッサリと薪が置いてある。ルーナは薪を集めるのが早い。


「トカゲって美味しいよね」


 リリアンがかまどの前に戻ると、ルーナが座りながら言った。


「おう。超美味しいぜ」


 リリアンはルーナの隣に座る。

 それから、火の近くの地面にトカゲ肉の串を刺した。熱で焼くためだ。この時、肉を直接火に当ててはいけない。焦げてしまうからだ。


「トカゲ、カエル、蛇は美味しいよねー」

「賛成。昆虫は割と差があるよな。美味いやつと不味いやつ」

「だねー」


 ルーナがリリアンに頭を預けるように寄りかかった。


「夕食はさ」リリアンが言う。「鹿とか食べたいけど、今日は無理だろうな、きっと」


「基地作りしないとだからね。海で貝を捕ればいいよ。大きな貝はそのまま鍋になるしね」

「明日か明後日には鹿肉食べたいな、あたし」

「私だって鹿のお肉がいいよぉ、でもその前に――」


 ルーナがリリアンの頬をペロッと舐めた。


「――リリちゃん食べちゃうぞぉぉ!」


 楽しそうに言って、ルーナがリリアンをくすぐる。


「ちょ、ちょっとルーナ!?」


 キャッキャと笑いながら、リリアンが軽く抵抗する。本気では抵抗しない。別に嫌じゃないからだ。

 2人はゴロンと転がって、横を向いてお互いを見つめ合う。距離はかなり近い。

 ちょっと動いたらキスできるぐらいだ。


「ルーナって時々、野獣みたいになるよな!」

「がおー!! 野獣ルーナだぞぉぉ!」


 ルーナは再びリリアンをくすぐった。

 2人してケタケタと笑いまくって、そして笑いすぎて涙が出てきた。


「笑いすぎてあたし、お腹痛いんだけど」

「私もー。やりすぎちゃったね」


 2人は涙を拭う。


「ルーナが悪いんだからな? 野獣ルーナが!」

「えへへ。ごめんねぇ?」


 ルーナが可愛らしく微笑む。


「許す!(ルーナ可愛い! ルーナ可愛い! マジ小悪魔天使!! あたしの嫁!)」

「ありがと(リリちゃんチョロい! いつも許してくれる!)」

「あ、そろそろトカゲ焼けたんじゃないか?」

「だね。食べよう!」


 ルーナはトカゲ肉の串を持って、フーフーしてから一口囓る。

 そのあとリリアンに串を渡す。

 リリアンがトカゲを囓っている間に、ルーナは山菜も口に運ぶ。ユリワサビはピリッと辛くて心地よい。

 二人は仲良く順番にトカゲと山菜を食べた。


(へへっ、ユリワサビってルーナみたいだな。ピリ辛だけど美味しい的な。小悪魔だけど天使的な)

(ふふ、ユリワサビってリリちゃんみたい。見た目はツンってしてるけど、中身はチョロチョロ! ピリ辛だけど美味しいって意味)


「ルーナがトカゲだったら、籠に閉じ込めて絶対に外に出したりしないぜ(トカゲ美味しいなルーナ)」

「えー? 私監禁されちゃうの? それはちょっと嫌だなぁ(リリちゃんまた本音出ちゃったね。今のは絶対、心の声だよね?)」


「ち、違うし! 違う違う!」リリアンが慌てて言う。「た、食べられちゃうから! ルーナがあたしみたいな冒険者に食べられちゃうと嫌だから!」


「あー、保護してくれるって意味かー。えへへ。ありがとうリリちゃん。でも籠の中に一緒に入ってね? 寂しいから」

「もちろん!」


 2人は楽しく会話しながら、トカゲと各種野草を食べ終わった。


「さぁて、それじゃあ、洞窟でも探そっか」

「おう。洞窟なかったら、隣の股に三角基地作ろうぜ」

「隣の股ってここ?」


 ルーナがリリアンの太ももの内側に触った。


「ひゃうっ!」リリアンがビクッと身を竦めた。「ち、違うしルーナ! 隣の木の根っこの間ってことだ!」


「知ってるぅ」


 ルーナが意地悪く笑ってから立ち上がる。

 そしてリリアンに右手を差し出す。リリアンがその手を掴んで立ち上がる。


「では出発!」


 2人は手を繋ぎ直して、洞窟を探して歩き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る