猫と鈴と猫の国

松田ゆさく

第1話 わがはいは猫だにゃー

 わがはいは猫であるにゃー。

名前はグレイ。

キジトラの雑種。ちょっと色が濃いからグレイだ。立派なオス。

今日はとっても天気がいいにゃ。

中学校の職員室の外でスヤスヤ眠る。

春はどうしてこんなに眠くなるのかにゃー。


「お、グレイ、気持ちよさそうだな。」


 こいつはわがはいにごはんを献上してくる「先生」というやつにゃ。

わがはいが「ぴゃー」と返事をしてやると満足そうにねこかんをぱかりと開けて置いてくれた。

ふむ。たまにはちゅーるというやつを出してくれてもいいのだぞ?

ケチな男だ。


 こんなものじゃ足りないと伝えたいわがはいは、ぺろりと平らげてやった。

ほれ、もっと出せ。


「今日も元気そうだな。じゃ、授業にいってくるからいい子にしてるんだぞ。」


 こらこらこら!足りないって言ってんでしょーが!

ああ、行っちゃったよ…。

というわけで、いつも物足りん。

仕方ない。ふて寝するか。







 私は大阪鈴。

クラスの友達からは「リン」って呼ばれています。

身体が弱くて、保健室登校。

今日はとってもいい天気だけれど、私の気分は真っ暗。なんだかちょっと胸が苦しいし。

学校の正門から入り、昇降口に向かう途中、職員室の外に猫がいた。

キジトラのグレイ。先生が言うには5歳くらいらしい。

校内じゃ、知らない子はいない有名猫だ。

いつも寝てるけど、今日はなんだか不機嫌そうだからつい近寄って話しかけてしまった。


「こんにちは、グレイ君。なにか嫌なことでもあったの?」




「いやなことねぇ。ごはんが少なくて物足りないんだよ」


「そっか、ごめんね。私なんにももってないや。」


一人と一匹はフッと顔を見合わせる。


猫が喋った!

人間が返事をした!


「おちつけグレイよ。とりあえず前足を舐めて落ち着くんだ。」


ぺろぺろと前足を舐めるグレイ。


リンは一瞬固まったが、すぐに質問をしてみた。


「グレイは、人間のコトバが話せるの?」

「話せるわけなかろう。こんなこと初めてだ!」


グレイは見るからに震えている。


「お前こそ、猫語がわかるんじゃないのか?」


グレイの問いかけに、うーんと悩みこみながら、


「わかんない。私、猫とこんな近くで会ったことがないんだよね。私、大阪鈴。リンって呼んでね。」

「ふむ…。リンよ。お前ならもしかしたら…。」

「なあに?」

「ついてこい。面白いところに案内してやろう」

「おお、なんだか楽しみ。」


 ちてちてと歩き出すグレイ。私はそのあとをついてゆく。

どこに連れていくのかと思えば、校庭の体育用具倉庫のひとつだった。

頭の中に疑問符がわくリンであったが、グレイが器用に引き戸をひくと、まばゆい光に包まれた。




「…ここは、どこ?」


 気を失っていた私のほっぺをグレイがぺちぺちと叩き、起こされたときの第一声はなんともありきたりなコトバになってしまった。


 石畳の広場のど真ん中で寝っ転がっていたので、危うく馬車に轢かれそうになったのをよけながらグレイに問いかける。


「ようこそ、猫の国キャットグラスへ。歓迎するにゃ。」



そこには人間の姿はなく、辺り一面、猫だらけであった。




続く










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