第7話

 儀式は即座に行われた。黒い服を身にまとい、民は列を運んで行く。その姿はまるで毛皮らしいものを運ぶように、最前列を立つ大長老が黒い悪魔を運んで行く。黒い悪魔は目をつむり、これから自らの身に起こることを覚悟したように口を堅く閉じている。



 火の周りを囲むように土壁が丸くなっている。その長老の横にはトモルがいた。


「アスター、お前は何を考えている」


 アスターは答えない。


「ミチルはお前をよく可愛がっていた。それはよくわかっているだろう。・・・・・・半信半疑なんだ、予言のことが」


 大長老が口をはさむ。


「トモル様、どうかお口を」

「・・・・・・ああ、わかっている」


 トモルは考えていた。この猫を殺したところで、ミチルは元気になるだろうか。いや、ならない。病が治ったところでミチルは泣いて暮らすだろう。



 宮殿の広間からその様子は伺えた。ミチルは身を震わせて、せめて見届けようと火にくべられそうになっているアスターを見た。民たちはとうとうたどり着き、その予言通りにアスターを手放した。アスターはゆっくりと落ちてゆく。そして火に包まれていった。

 アスターはあまりの熱さに宮殿までとどろくようなうめき声をあげた。ミチルは堪え切れず走り出した。

 槍が射られた。火に転げまわる猫を民たちは容赦なく見る。その姿を間近で見たとき、ミチルは初めて大声で叫んだ。


「やめて!」


 その声に気付く者もいたが長老の一言で射るのを続ける。ミチルはとめる民たちや長老を振り払って、消えた火の中に死に絶えた亡骸を抱えた。ミチルは泣いてその頬に顔を埋めた。


 その時、天から声が聞こえた。


”泣くのをやめて、姫様”


 アスター、とミチルは天を仰いだ。ミチルの腕の中に亡骸は消えて小さな子猫が鳴いていた。それを見ていた長老が口を開いた。


「亡骸に雫垂れん時、猫また蘇えん」

「それはなんだ」


 トモルが聞き返す。


「予言の続きです」


予言の続きか、とトモルは聞き返した。


「悪魔が絶えたとき、お優しい姫は涙を流すのです。そしてその涙で浄化された猫が生まれる」



 ミチルは咳が止まっていることにも気づかずに子猫を抱き抱えた。


「アスター! 」


 アスターと呼ばれた猫は鳴いてミチルにすがった。

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星、満ちる 佐藤すべからく @haruno-miya123

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