エピローグ 出会い、そして旅立ち

 雪と葉月は仮想世界上で「結婚」しようとした。システムに中断されて完遂はしなかったが二人はその記憶と感情の一部を一時、共有したのだ。システムに中断された後も、すべてではないが共有した記憶や感情が二人の中に残っている。葉月の留学への出発が来週に迫ったなか、雪はどうしても現実世界で葉月に直接会いたいと願った。葉月も同様の願いを持っていた。その感情をお互いに連絡し合った後、二人は会う約束を交わした。記憶を共有した時、二人の現実世界での居場所についても分かったのだが以外にも近くに住んでいた。互いに一時間ほど列車に乗って落ち合えば会うことが出来る距離で、思い至れば会うことは容易だった。雪は快速電車に、葉月は新幹線に乗り込んで約束を交わした場所である時間的な中間地点を目指した。


 初めて仮想世界で出会ったときとは明らかに異なる深い感情を持って二人は出会った。再会ではあるが、現実世界では初めての出会いである。最初、迷ったような態度をとっていた葉月であるが周囲を気にしないことにして雪の胸に飛び込んだ。雪も飛び込んできた葉月を抱き止め、こみ上げてきた嬉しさに負けて涙を流しそうになった。雪はこれが本当の涙ではないかと感じた。悲しい時にも涙は出るが、本当に止められなくなりそうな涙は嬉しい時にこそ出てくるものなのだろう。


 友達以上、恋人未満といった関係もあるが、二人の場合、恋人以上自分未満といったところか。周囲から見ると短い間だったかもしれないが、二人はとても長い間抱擁を続けていたような気がした。


「来週から留学だけど、時々帰ってくるからその時、またゆっくり会おうね。今まで通り「テラ」でも会えるし。今日は準備があるから、もう行かなきゃ。」


 葉月は留学の準備で忙しい中、時間を割いてやってきたのだ。パスポートの取得や飛行機の予約は終わっているが、身の回りの物をスーツケースに収めるという作業が残っていた。二人とも会ってすぐなのにもう別れるというのは名残惜しく感じたが、会っている時間に制限があるのは「テラ」ではいつもの事なので慣れたことだった。「テラ」ではもちろんの事、現実世界での再会も誓い合い、二人は新たな一歩を踏み出すべく一旦、別々の方向に歩き出すのだった。


浅井はてな著 エターナル ドット クリック(終)




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