JC さくら

俺と翔太しょうたは親友だ。


幼稚園から中学までずっと一緒で、


地方の元ヤンキーだったらしい

俺の親父がよく言っている


地元の連れってのは

きっとこういうものなんだろう。


三年生になってクラスも一緒だし、

部活の野球部でも一緒、


さらには登下校でも

毎日一緒に帰るぐらいに、

とにかくつるんでいる。


気が合うとか、相性がいいとか、

そういうことなのかは分からないが、


好きなものや笑いのセンスなどなど

そんなものまで同じなのだから、


とにかく一緒に居るのが自然な感じだ。


-


好きなものが一緒ってことは

好きになる女子も

一緒ってことになる訳で……


――まぁ、さくらは

男子生徒みんなの憧れみたいなもんだから

仕方はないんだが


長い黒髪に、透き通るような白い肌、

大人しく控えめで、

楚々とした神秘的な美少女。


おおよそ男子中学生が憧れて、

幻想を抱きたくなるような

すべての要素が詰まってる。


みんなが脳内で美化しまくりたくなる

そんな女神タイプなんだろう。



だが、小さい頃から、

四人でよく遊んでいて、

さくらのことを知っている俺達としては


にわかファンには負けたくねえ、

そんな気持ちはある。


脳内で美化されているさくらじゃなくて、

ありのままの、素のさくらに

俺達は惚れている、その自負がある。


おそらくきっと翔太も

似たようなことを思っているだろう。


もしさくらが俺以外の男子生徒と

付合うことになったとして、

相手が翔太なら仕方がないと

そう思えるのだろうか……。



翔太は今も

休み時間に廊下に居る俺の横で、

次の授業の為に

教室を移動しているさくらを

遠くからじっと見つめている。


見とれていると言った方がいいのか……


こいつはいつもそうだ。


学校ではいつも

さくらの姿を探している、

さくらのことを目で追っている


いやまぁ、俺もそうなのだが……


「お前、分かりやすいな、

さくらのこと好きなのバレバレだぞ」


いつものように俺は

翔太のことをからかう。


「……いや、まぁ、そうか?


そういうお前だって、

さくらのこと好きだろ? きっと」


少し恥ずかしそうに照れながら

珍しく翔太が返して来た。


「……男子生徒みんな、

さくらのことが好きなんじゃねえかな」


好意を認めつつも、

俺は少しだけはぐらかした。


翔太ほど露骨に

あっけらかんと言うのは憚られる。


「……まぁ、そりゃ、そうか」


翔太の言葉をはぐらかす為に、

違う方向に持って行こうとする俺。


「いつの間にか

この学校のマドンナみたいな

遠い存在になっちまったよな、さくらも」


「何言ってんだ、そんな弱気じゃ

とんびに油揚げさらわれちまうぞ」


こいつの好きはいつもストレートだ……。




「なぁ?

もし俺がさくらに告って、

付合うことになったらお前どうする?」


翔太はそんなことを聞いて来た。


「あぁっ?

友情と恋愛、どっち取るか、みたいな話か?


……どうだろうなぁ


お前等、二人とも幼馴染で

どっちも仲良いからなあ……


お前ならどうするよ?」


適当にはぐらかして

俺は質問に質問で返す。


「俺は、迷わずさくらを取るかな


お前は

誰かに取られることはないだろうけど


さくらは

誰かに取られちまうかもしれないからな」


やはり、翔太の好きはストレート過ぎる。


「随分と冷てえ野郎だな、おい」


-


放課後。


野球部の練習をしていると、


下校途中のさくらが

友達と歩いている姿が目に入る。


あっ!!


「おいっ! こらっ! どこ見てんだっ!

よそ見してんじゃねえぞっ!」


守備練でエラーしちまった。


凹んでいると、

再び監督の怒号が。


「お前もかっ!

もっと真面目にやれっ!」


翔太も俺と同じだったらしい。



それでも気になって

もう一度目をやると、


校門に不審者のような男が……。


嫌な予感が、

背筋に悪寒が走る。


不審者はずかずか

校内に入って来ると、

懐から刃物を取り出した。


「監督っ!!」


俺は身近に居る大人に助けを求める。


刃物を手にした不審者が

近くに居ると気づいた生徒達は


我先にと逃げ出し、

大混乱を起こしパニック状態。



不審者はまるで

さくらだけを狙っているかのように

執拗に後を追い掛け回している。


泣き叫びながら

必死で逃げるさくら。


チッ!!


俺は野球の神様に

心から謝罪しながら、

近くにあった金属バットを手にする。


「翔太っ! 」


俺は翔太の方を見たが、

翔太は足がすくんでしまって

動けないようだ。


ここは俺一人でやるしかないっ!



さくらのブレザーの制服、

その襟に手を掛けて掴もうとする不審者。


間一髪のところで俺は、

そいつの頭を金属バットで

後ろから思いっきり殴った。


不思議とそこには何の躊躇いも無い。


人を殺してしまうんじゃないか、

そんな戸惑いすらも一切ない。



頭を押さえながら

こちらを振り返る不審者。


効いてないのかっ!?


俺は不審者が手にする刃物で刺されたが


そこで、勝利は確定する……。


自分が何者で、

何故ここに居たのか。


それを思い出す。


…………


薄れゆく、朦朧とする意識の中で

泣いているさくらの姿。


その横で俺の顔を

覗き込んでいる翔太が居る。


俺は直感で分かった。


……そうか、この世界では

お前達が夫婦になるのか……


俺の方が翔太より

さくらのことを

好きだったと思うんだがな……


相手が翔太なら、仕方がないのかな……


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主人公は毎回死ぬ。死と生の廻転輪舞曲 ウロノロムロ @yuminokidossun

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