VOL.5

 それから間もなく、俺はジョージの運転する傷だらけの4WDで東京駅に向かった。

 俺は助手席、左近氏は後部座席でマスミと並んで座っている。

 タクシーを頼んでも良かったんだが、彼のことが他所に洩れては不味い。

 ジョージは、

”へぇ、忠臣蔵ねぇ”といっただけで、それ以上深くは訊ねなかった。

 頭には茶色のニット帽、サングラス。グレーのジャケットに同色のズボン。

 インナーはグレーのセーター、珍妙な格好といえばそれまでだが、あんな絹物の単衣だけで町をうろつかせるよりはましだ。

 本当なら髷もどうにかしたかったところだが、こればっかりばっさりやるわけにも行かないだろう。

 当然ながら初めて洋服を着た左近氏は、マスミの鏡台に自分の姿を映し、

『ううむ、この時代の装束は動きやすいが、珍妙ではあるな』といっていたが、暫くするうちに馴染んだらしく、まんざらでもないような表情に変わった。


 ジョージの運転はいつもながらスムーズで、それでいて早い。

 師走の混雑した東京の道を、まるで縫うように走り抜けて行く。

 左近氏は車なんて乗り物は恐らく初めての経験だろうが、しかし特別に動じることもなく、

『馬より早いな』と言っただけで、後はシートに腰かけて瞑目めいもくしていた。


『ダンナ、気が付いたか?』

 ちらりとバックミラーで後ろを見ながらジョージが言う。

『ああ、黒塗りのセダンだろ?』

 俺が答える。

『三人はいるな。いや、四人かもしれねぇ』

 裸眼2.0と、動体視力の鋭さは俺以上だ。

『あいつら、新幹線にも乗りこんで付け回すつもりだな。ハンドルを握ってる奴は除外しても、三人を相手にせにゃならんぜ』

『間違いなかろう』

『となるとダンナは一人でおっさんと、その姉ちゃんを守るって理屈だ。』

『覚悟してるさ』

 俺は答えて、懐のM1917を抜いて見せた。

『どうだい、ダンナ、もうちょっとをつけてくれりゃ、東名をドライブとしゃれこんでやるぜ?おまけに必要な時にはけてもやれるが』

『あら、折角私がチケット取ったのよ』

『キャンセルすりゃいいだろ?車の方がこの際安全だぜ。何しろドアtoドアだからな。』

『しかし都内はともかく、愛知県の地理は分かるのか?それに華蔵寺って寺については』

 俺の言葉に、ジョージはわざとムッとしたような表情をしてみせ、

『ダンナ、俺を誰だと思ってるんだ?はばかりながら日本一の”プロ・ドライバー”だぜ』と言った。

『そうだったな。よろしい。任せよう。左近殿、ご異存は?』

『お任せ致す。拙者はとしては早く領地につければどちらでも構わん』

『そういう訳だ。マスミ、折角骨折ってくれてすまんな。チケット代の分は割引記しておくが』

『仕方ないわね・・・・たまには車もいいかも』

『よし、じゃ、飛ばすぜ!』

 ジョージは派手にアクセルを踏み込み、ギアをトップに入れた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 さて、いつものことだ。高速での道中については特に変わり映えはしないので、省かせて頂く。

 つまりは俺お得意の”ワープ”ってやつだ。

(SF嫌いなのにそんな手法を使うのは狡い)だと?

 面倒臭い御仁たちだな。

 要するにぶっちぎったんだよ。

 どんな場所であっても、

”日本一のプロドライバー”であるジョージのドライビングテクニックに敵うはずはない。

 たちまちぶっちぎってみせ、東名を降りて後は下道を縫うように走り、目指す西尾市に入ったのは、もう夕方近くになっていた。


 黒塗りセダンはどうやらまいたようだ。

 駅近くにある交番で道順を聞き、ようやく華蔵寺にたどり着いた。

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