第19話 選挙屋の謎 いよいよ明らかに?!

 平成が終り、令和になって間もない2019年5月12日・日曜日の10時過ぎ。

 プリキュアを観終え、携帯電話の電波をオフからオンに戻して間もなくのこと。

 珍しく、この時間に連絡が入った。電話の主は、大宮の「おやっさん」だ。

 「米河君、今日は忙しいかね?」

 「いえ、用件はもう済みましたから、大丈夫ですよ。今日は津山市の仕事もないですし、1日開いています。明日からちょっと、選挙観戦でH県の葛西市に行ってきますが、準備はすでにできていますので、もう大丈夫ですよ」

 「この前まで一斉地方選で常木さんの手伝いをしておいて、それが終ればA市の選挙、やっと一斉地方選が終わったかと思えば、またも葛西市で選挙かね・・・。毎週プリキュアに、毎月レベルで選挙活動か。そのうち7月には参院選だろ。まったく懲りないねぇ。まあ、それはいいとして、今日だが、もしよければ、岡山駅前の倉敷珈琲に来てもらいたい。時間としては、昼過ぎの13時で、どうかな?」

 「いいですよ。参ります。ところで、いったい、何があったのでしょう?」

 「是非とも、君にも聞いておいて欲しいことがあってのことだ。あと、あんたのおねえさんと、太郎も来る」

 「私には、姉はいませんけど・・・」

 「そこは、御賢察願おうかな、君の天敵の瀬野八紘君流に表現しておこう」

 「はあ。たまきさんも、ですね。わかりました。でも一体、私に何を聞けと?」

 「永野修身君のことだよ。彼、今年の初めに亡くなってしまったけど、彼のことで、君にも話しておきたいことがある。太郎の話では、どうやら君は、この連休中、元宇野市議の谷橋純子さんと連絡を取合って、修身君のことを話題にしたそうじゃないか。逆に、その話を、私に聞かせてほしい。頼むよ」

 「じゃあ、参りますね」

 太郎さんの御尊父である大宮哲郎さんからこのようにお呼びをいただくこと、若いうちはあまりなかったのだが、この数年来こういう機会が多く、そんなときに限って、昔話が多い。そういえば昨年だったか一昨年だったか、太郎さんとたまきさんのいる××ラジオの企画で、私が幼少期にいた養護施設であるよつ葉園のことを太郎さんたちにお話しされたそうで、私も後にその詳細を聞かせてもらった。今のうちに過去のことをしゃべっておかなければ、死ぬに死ねないという使命感でもお持ちなのだろうか・・・。

 

 昼前に倉敷珈琲の入っている岡山駅前の大規模商業施設・Aモールの上階にある「ぶっかけうどん」の店に行き、「冷ぶっかけ」の大盛を食べておいた。Aモールが全国展開している「ニャオン」という電子マネーを使えば、無料で大盛りにできて、490円。

 ここのぶっかけうどんの甘みはあまりしつこくなく、さらりとした感じ。それをうどんにしっかりかき混ぜ、麺の真ん中上に乗っかったうずらの生卵を研いで麺にかき混ぜ、まずは、黄身のコクとともに、たれをしっかり絡ませて食べる。ここのうどんはいささか細めだが、それゆえ麺にたれがよく絡む。ただこれが鶏卵の生卵だったら、黄身の部分はコクが出てマイルドになるのだが、白身がちょっと、「鼻」にじゃなく「舌」にどろりとからみついて、全体の味が壊れてしまいかねない。ここはやはり、うずら卵のものだろうな。どうしても甘みのあるたれなので、わさびがついている。これが、ピリリとした刺激を、甘めのたれと麺に与えてくれる。かき混ぜればかき混ぜるほど、その味は見事に中和されていく。塩分だのコレステロールだのなんだの、そんなことは気にしないで、少しばかり残ったぶっかけのタレも、最後に口直しがてらに口に入れ、残った切り身ののりがあるのでこの際軽くかみ砕くと、丼は空となって、めでたく、「完食」。ラーメンのスープやうどんのつゆは塩分が多く健康に悪いから残せとか何とかいわれるが、そんなことを気にしてストレスがたまる方が、私にはよほど不健全な話だ。どうしても塩分云々というなら、サウナでも行って、汗を流すことにしております。ハイ。

 それはともかく、つゆまでしっかりいただき、最後は、水を口にし、軽くゆすいで飲み込むことで、たれを最後の「最期」まで味わえる、という塩梅。このぶっかけうどん、はたで見ていると、女性でも大盛にする人が結構おられるようだ。何より食べやすく、値段も手ごろで、しかも旨いときている。ちょっとした腹ごしらえには、実におあつらえ向きだ。天ぷらやおにぎりなどのサブメニューもあるが、私はここでは、滅多にその手のものは頼まない。別にその店の天ぷらやおにぎりがまずいから頼まないわけじゃない。たまに頼むこともあるが、どれも十分うまい。特に天ぷらは、カリカリとした食感で、天ぷら屋やそれなりのすし屋の天ぷら並か、それ以上にうまい。しかもうどん屋だから、値段も、もちろん安い。一皿頼んで1000円なんてこともない。それだけあれば、天ぷらとおにぎりも頼んで、うまくいけばお釣りまで出る。だけど、小腹を満たすのが目的だから、そんなものまでいちいち余分に注文するのも面倒だからね。


 腹ごしらえをしたら、1階にある倉敷珈琲に、落下傘ではなくエスカレーターを使って舞い降り、スポーツ新聞を取って、空いているテーブルに着く。そこで、コーヒーをおもむろに注文。ホットの場合はサイフォンで出てくるから、おおむね2杯は飲める。だがこの日は、まずは冷たいものということで、アイスコーヒーを頼んだ。400円を幾分超えるが、ビールの中ジョッキより少し小さめとはいえ、アイスコーヒーとしてはいささか大きめのジョッキに注がれて、アイスコーヒーが出てくる。

 ちょうど昼食時でフードメニューを頼んでいるお客さんも多いが、こちらは先ほど腹ごしらえをしてきたばかりなので、アイスコーヒーだけ。これをすすりつつ、スポーツ新聞の野球欄を見る。岡山県は割に近畿圏との行き来が多いので、どうしても阪神ファンが多い。テレビ番組こそ阪神戦の中継がのべつあるというわけではないが、スポーツ新聞は1紙を除きすべて「阪神一色」。これをかれこれ読み比べつつコーヒーを飲むのは、格別な息抜きなのですよ。まあ、私自身が阪神ファンだからというのもあるけどね。


 13時になる少し前に、大宮さん父子とたまきさんが揃ってこられた。予め3人来ることを告げていたので、私はすでに4人がけのテーブルにいる。

これにて、テーブルの椅子の主がすべてそろった。

 

 「米河君、済まないね、お呼び立てして・・・」

 父がまず、神妙な口調で私に一言。

 「いえいえ、それは構わないのですが、何かありましたか?」

 「早速だが、君もご存知の、あの永野修身君、もう故人となってしまったが、あの子のことで、いろいろ、話したいことがあって、な・・・」

 生きていればもうすぐ70歳になろうという、孫もおられるおじいさんともいうべき人が、いくらその人より年上の人からとはいえ、「あの子」なんて呼ばれるのは、頭では理解できても、いささか意外性があるもの。

 早速、大宮の「おやっさん」が私におっしゃったことを、かいつまんでご紹介します。

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