15  御影石


広大な八柱霊園の

松飛台門のそばの

御影石のそこそこの墓


運のよいLの弟が一度で引き当てた都営の墓地に

小さな喪服の一団が派手な祭壇をこしらえて

供物を盛った

多くの病の最後は餓死、Lは事実を見たなと思っている

アルコール分解酵素がないのに日本酒が好きになった奴だった


細分化された専門職が来て

納骨を準備する

地下室にひとつ彼らの父親が入っている

二十三年間暑さ寒さに独り居た


四十九日の間に寡婦に慣れるわけもなく

Lの義妹は言葉のはしばしに夫の若死にを悼んで

白地に青い唐草模様の、せめて高価な骨壺を

撫で回した


並んだ二つの骨壺は

いかにも安い、いかにも高い、取り合わせは悪い

よく似て性格の善い、Lのふたりの近親の男を

早死にさせたのは自分ではないかと

オカルト的なことを考えてしまう


九十歳の母親は混乱して「若後家たいね」と

日頃使わぬ方言で言った

「若後家ってなんでそんな言い方を?」

わずかに義妹の顔が曇るのを感じて

Lは母をたしなめた



陽はうらうらと墓石を温めた


彼岸花の赤い道が

墓地を巡って至るところで

彼岸を指していた

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