14  「また会おうね」



Lの海馬の幾つかの

細胞に刻まれたエピソード記憶


「また来るね、また会おうね」と

Lが弟にかけた言葉

にっこり白い歯を見せた


そして会えたのか、

呼ばれていくと

意識は無くて体中で息を求めていた

「かっちゃん、お姉さんよ、大丈夫?」

大丈夫な訳ないのに尋ねた


「ああ」と大きな声が聞こえた

天井から響いたように


昏睡状態だったのに

いつもの弟の返事だった

誰にも安心感を与えてくれた

それが最後の声音だった


Lが明らかに悪いことをして

相手から責められた時、

「身内だからたとえ悪くても味方する」

そう明言した


Lが絶望して悶え泣いていた時

「いつか、いつか笑う日もくるさ」

そう明言した


楽天家の慌てたことの無い

Lの弟が逝った

病に負けじと戦ったのだが

静かに息を引き取った


Lはぼんやり考える

心配も苦労も大きな胸に

引き受けて

死も抱きとったことだろう


弟の会社の文字を見るたびに

ひとり此の世から去っていく寂しい姿が

抑えようもなく目の前に迫る

迫られて

Lに大きなため息をつかせるとしても

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