第11話 こうざん
俺は異様な寒気から目が覚める。まさかアオが俺の服を脱がしたのか?
急いで体を起こすが俺はしっかりと服を着ている。じゃあこの寒気はなんなんだ?それにちょっと頭も痛いし体もだるい。
体を起こしてるのがちょっと辛いくらいだ。なので俺はまた横になる。
少しは楽になるが頭痛は止まらない。こんなの初めてだ。とりあえずアオが起きてくるまで横になっておこう。
あーだめだ、横になると今度は眠くなってくる。どうしたらいいんだ?助けてくれアオ。
「ん…」
願いは届いた。アオが目を覚ましてくれた。
「おはようアオ。」
「おはようグン。」
アオが俺のほうに目を向ける。その瞬間アオは手袋を外してその手を俺の額に置いた。
「どうしたの?」
「ひどい熱じゃないか、それに顔色も悪いよ。風邪ひいたんじゃないかい?」
風邪?あぁ、そっか。そういえば昨日服濡らしたまま放置してたんだ。気づいてたら乾いてたから気にしなかったけど体は相当冷えてたんだろうな。
にしても風邪ってこんな感じなのか…結構しんどいな。
「風邪ってこんな感じなんだ、とりあえず移動しないと…」
体を起こそうとするがアオがそれを止めた。
「無理しちゃだめだ。さばんなちほーに行くのは風邪が治ってからにしよう。ここにこうざんに続くロープウェイがあるんだ。そこのカフェで休ませてもらおう。」
カフェ?そんなおしゃれなものがあるのか。ジャパリパークってなんでもあるな。
「なら早いところそこまで行こう。」
今度こそ体を起こそうとするがまた止められた。
「君は体を動かしちゃだめだ。ほら、私の背中に乗って。」
俺は知ってるんだぞ、風邪は人にうつるんだ。フレンズはどうか分からないけど。それでもそんなことしたらアオに風邪がうつるかもしれない。
「いや、這ってでも動くよ。そんなことしたらアオに風邪がうつるかもしれない。」
こう言うとアオがしばらく考え込んだ末に折れてくれたみたいだ。
「…何かあったらすぐに言ってよ?」
「分かった、とりあえずみんなと合流しよう。」
それから俺はだるい体を動かして何とかリンたちがいるところまでたどり着いた。
「おはようリン、みんな。」
「なんて顔してるのよ、動かずに休んだほうがいいんじゃないの?」
そうなんだけど誰かと密着するわけにはいかない。誰かと密着するということはその相手に風邪をうつしてしまう可能性が出てくるのだ。
「その通りなんだけどそうはいかなくてね。ここから行けるらしいこうざんのカフェまでは自分で動くことにしたんだ。」
「えっ。その状態でカフェまで行く気なの?」
リンが顔を歪める。こうざんに行くことに何か問題でもあるのか?ロープウェイがあるなら問題ないと思うのだが。
「アオが提案してくれたんだけど何か問題あるの?」
「…本当に行くんですか?先生。」
「グンのためだ、私たちで頑張ろう。」
ロープウェイでしょ?頑張ることあるの?まあとりあえず俺は頑張って2人についていくことにしよう。
でもその前にジャガーさんとカワウソちゃんに声をかけてからだ。まあ今までの話多分聞いてただろうから説明は不要だろう。
「ということでジャガーさん、カワウソちゃん、行ってくるよ。」
「あそこのカフェは良いところだよ。」
「ロープウェイたのしーよー!いってらっしゃーい!」
一旦別れを済ませて俺たちはこうざんに続くロープウェイに向かって歩き出す。
_____
思ったより近くて助かった。これ以上歩いてたらぶっ倒れてたかもしれない。ところでこのロープウェイなんだけど…これ手動じゃないか?
「ねえ、もしかしてだけどこれ手動だったりする?」
「手動だよ。」
なるほどな、リンが顔を歪めたのも私たちで頑張ろうって言ってた理由もわかった。おまけに距離も結構ある。
「いますぐ引き返そう、2人にこんなの任せられない。カフェに行くのは俺が治ってからでもいいじゃない。」
踵を返して後ろに歩き出そうとした時だった、右腕を捕まれる。リンだ。
「私たちなら大丈夫よ、それにアルパカなら風邪に効くお茶を出してくれるかもしれないしね!」
そんなお茶があるっていうのか?いや、なかったとしてももう行かない手はないな。ここまでしてくれるアオとリンの好意を無下にするのは2人に対して失礼になる。
「そうなの?それじゃあお願いするよ。」
みんなでロープウェイに乗り込む。まずはアオが漕いでくれるらしい。
しばらく進んできたがかなり揺れるな、立ってるのが辛くなってきたな。
「ごめん、立ってるのが辛くなってきた。座ってもいいかな?」
「もちろん良いわよ、他にも何かあったら言ってちょうだいね。」
と言って少しスペースを開けてくれた。ありがたい限りだ。
空いたスペースに俺が座り込む。俺の2人への借りがどんどん増えていく…どこかで消費したいけど俺にそんな力はないんだよな…。
「何かお返しでもできないかとか考えてるでしょ?」
「なんで分かったの?」
「顔にそう書いてあるわ。そんなこと考えなくていいよ。グンのおかげで私は楽しめてるから、名前も貰っちゃったしね。」
リンが進行方向から吹いてくる風に髪をなびかせながら笑顔で言う。
やっぱり俺って顔に出るんだな。リンでもわかるってことは相当なんだろう。隠し事はできないな。でも武器に関しては俺とアオだけの秘密だ。
「リン、ちょっと疲れてきちゃった。変わってもらえるかな?」
半分くらいまで来ただろう。アオが交代を求めている。リンは躊躇なくそれを了承する。
「分かりました先生!このままカフェまで行きますね!」
「助かるよ。」
助けられてるのは俺なんだよな…しかも2人に。
アオが俺の横に立つ。
「ごめんな、俺がひ弱なばっかりに。」
「そんなことないさ。君は強い、今回は運が悪かっただけだよ。」
本当にそうだろうか?いつも自業自得で動けなくなってる気がするんだがな。
それともウイルスは別だと言いたいのだろうか?それでも服を乾かさずにそのままにしていた俺が悪いような気がする。
前にヘラジカさんと手合わせして筋肉痛で動けなくなったのも俺がなんとしてでも断ればよかっただけなのだ。
もしかして俺は2人にとって迷惑な存在なのではないだろうか?
頭にそんな考えがよぎった時、俺はアオのしっぽで顔を叩かれてしまった。痛くはなかったけど。
「余計な事考えないの。一人じゃ解決できない問題も大人数なら解決できるかもしれないでしょ?」
「アオは俺が迷惑だと思ったりしないの?」
発言を遮って俺が尋ねる。するとまたしっぽで叩かれてしまう。さっきより力がこもっていた気がする。俺が風邪をひいてなかったら普通に叩かれてたんじゃないかってくらいだ。
「そんなこと考えたことないよ。むしろグンといるのが楽しいくらいだ。次そんなこと言ったら怒るから。」
いつもとはちょっと違う声で怒られた。そうだよな、迷惑だと思っているならここまで着いてきてくれてないはずだ。
「ごめんアオ…ちょっと自暴自棄になってた。ありがとう、ちょっと元気になれたよ。」
こう言うとアオは俺の頭を優しくなでてくれた。暖かさが伝わってくる。落とされたのがロッジでよかったと思えるくらいだ。
「いい顔頂き♪やっぱりグンはその顔がお似合いだよ。」
「あぁ…」
「どうしたの?気分悪いの?」
「アオがずっと隣にいたらいいのに。」
…はっ!?俺今何を喋ったんだ?くっそ風邪で意識がふわふわしてるせいか思い出せない。
「私はいつでもそばにいてあげるよ。」
アオが頬を赤らめながら言ってきた。俺なんて言ったんだろうか?「一人になりたくない」とかそんなんだろううんきっとそうだ。
「先生!グン!もう少しで着きますよ!」
あえ?もうそんなに進んだの?
進行方向を見るために頭を上げる。もうすぐそこまでロープウェイの終着点が近づいていた。
そしてすぐに到着した。リンが少し息をあげている。
「ありがとうリン。息が整ったら降りようか。」
「はあ…はあ…そうしてもらえると助かるわね。」
しばらくしてリンの息が整ったのでロープウェイを降りる。
「大丈夫グン?立てる?」
「大丈夫、このくらいの距離なら歩けるよ。」
おぼつかない足取りでカフェに入る。
「はぁ~いらっしゃぁい、ようこそぉジャパリカフェへ。あぁ!タイリクオオカミとアミメキリン!来てくれたんだねぇ嬉しいよぉ。あら?見たことない顔だねぇ。君はなんのフレンズさん?私はアルパカだよぉ。」
ものすごく特徴的なしゃべり方をするフレンズだな。でもなんか悪い気はしない。どこか安心できる雰囲気がある。
「俺はグン。ヒトなんだ、よろしく。」
「ヒトぉ?かばんさんの他にもヒトがいたんだぁ、かばんさんが帰ってきたら教えてあげなくちゃだねぇ。」
そうか、そもそもかばんさんがこの島を出て他のエリアに行ったのは自分以外のヒトを探すためだ。それならば俺がいるということを教えてあげようという考えに至るのも当然か。
「それより何飲むぅ?いろいろあるよぉ。とりあえず紅茶だそうかぁ?」
普通カフェなら無難な紅茶だろうな。このフレンズさんよく分かってらっしゃる。まあカフェなんて日本だったところにはなかったから知らないけど。
でも目的は紅茶ではない。まあ紅茶なのかもしれないけど。
「風邪に効くお茶ってありますか?」
「う~ん、ちょっとまってねぇ、今探してみるからぁ。」
そう言うとアルパカさんは壁の棚を眺めだした。しばらく探しているみたいだが、やっぱりないのだろうか。
「こめんねぇ、それらしいのは見つからなかったぁ。でも紅茶はたくさんあるから是非飲んでってぇ。」
ちょっと期待はしてたけどやはり無かったか。まあカフェだしね、あったほうが場違いというかなんというか。でも紅茶も風邪に多少は効くらしいから紅茶をいただくとしよう。
「じゃあ紅茶お願いします。アオとリンもそれでいい?」
「うん。」
「いいわ。」
アルパカさんが不思議な目でこっちを見ている。そりゃそうだろう、今俺が言った名前は俺が付けた俺たち以外は知らない名前だからな。
「紅茶3つだねぇ?今出すからそこに座って待っててね?」
言われた通り席に座って待つ。かなり楽になった。やはり体調が悪いは動かないほうがいいな。動かざる負えなかったのだが。
「はいどうぞぉ、はいどうぞぉ、はいどうぞぉ。」
「ありがとうアルパカさん。」
自分の前に置かれた紅茶を一口飲む。ん~この香りにこの味、優雅な気持ちになるねぇ。なんか風邪も治りそうな気がする。
「やっぱりアルパカのお茶はおいしいわね。」
「ほんとぉ?嬉しいなぁ。」
そんな中、カフェのドアが開いた。
「トキぃ今日も来てくれたんだねぇ。いつものでいい?」
「お願いするわ。あら、タイリクオオカミとアミメキリンがこんなところに来てるなんて珍しいわね、それに見たことないフレンズね。私はトキ、あなたは?」
聞いていて心地のいい声だな、この囁き混じりのような感じがそう思わせているのだろうか。
「俺はグン、ヒトだよ。よろしく、いい声してるね。」
トキさんを2人がなんだか嫌そうな顔をした。なんでだ?
「そんなこといわれたの初めてだわ、一曲歌いたくなるわね。」
歌が歌えるのか?この声で歌えるのならさぞいい音色なんだろうな。
「ぜひ聞かせてください!」
「そこまで期待されるとなんだか恥ずかしいわね。じゃあいくわよ。」
そう言って彼女は息を吸い、歌いだす。
「わたしは~ト~キ~、なかまをさがして~る~!!!」
なるほど理解。アオとリンが嫌そうな顔をした理由が分かった、しかしなんでそうなるのかねぇ、普通の声はいい声なのに歌う時なんでそんな声になっちゃうのかなぁ。
「あぁ~なかま~」
やっと終わったか。って言い方すると失礼だけどほんとにそう思ってしまった。
「う~ん、今日はまだ喉の調子が優れないわね、やっぱりアルパカのお茶が無いと。」
そうだよな、さすがにあれが本調子なわけないよな。安心安心。
「はいどうぞぉ、トキもこっちに座ってゆっくりしってってぇ。」
「ありがとうアルパカ。」
俺たちの机の空いている席にトキさんが座った。出されているのは紅茶だろうか?でも俺たちの物とはちょっと違う色だ。葉が違うのかな?
トキさんがそれを一口飲んでから一番返答に困る質問を投げてきた。
「私の歌、どうだったかしら。」
バッサリ言ってしまっていいのだろうか?アオとリンも困惑してるみたいだし。とりあえずオブラートに包んで正直に言ってみるか。
「良かったとは言えないかな…トキさん普通にしゃべるときはいい声なんだけどな。」
このとき自分で言って気が付いた。普通にしゃべるときの声で歌えばいいのでは?と。
早速言ってみよう。
「そうだ、トキさん普通の声で歌うことって出来る?」
「え?いつも普通の声なのだけれど。」
言い方が悪かったな、なんていえばいいんだろうか。
「会話をするときの声で歌えばいいって言いたいのかい?」
それだ!ナイスだアオ!!
「そう!そういうこと!できないかな?」
「う~んできなくはないかもしれないわ。ちょうどお茶も飲み切ったし試しにその方法で歌ってみようかしら。」
これができれば絶対いい歌になるはずだ。いや、いい歌になるかは差し置いて聞いてて嫌にはならないはずだ。
「わたしは~ト~キ~、なかまをさがして~る~」
めちゃくちゃいいじゃないか!!!嫌にならないどころかむしろ聞いてて心地がいいくらいだ。
「あぁ~なかま~」
これにペパプみたいに音楽や踊りを入れたら最高にいい曲になるんじゃないか?今度マーゲイさんに会ったら提案してみよう。
「どうだったかしら。」
「最高だよ、絶対その歌い方のほうがいいよ!!」
そう答えるとトキさんが頬を赤らめているのが確認できた。歌を褒められてうれしいのだろうか。
「そうなの?じゃあこの歌い方しばらく練習しようかしら。」
こうしてトキさんの練習に付き合ってしばらくたった時、猛烈な眠気が襲ってきた。外を見ると日はとっくに落ちて星空が広がっていた。
「あぁ~眠い…。アルパカさん、ここって休める物ある?」
「それなら屋根裏部屋に布団があるから使ってもいいよぉ。」
ここにも布団があるのか。まあそれもそうか。もしなかったとしたらアルパカさんはどうやって寝てるのって話になるし。
遠慮なく使わせてもらおう。
「ありがとうアルパカさん。使わせてもらうよ。」
俺は風邪に加えて眠気でふらふらになりながらも階段を上がって屋根裏部屋に入る。が、疲労と眠気がピークに達しそうなのかその場に座り込んでしまう。
「大丈夫かい?グン。」
「大丈夫、眠気が…。」
こんな感じでうとうとしているとアオとリンが俺の分の布団を敷いてくれた。
「ありがとう。」
眠い目をこすりながらも布団までたどりついて中に入る。
「おやすみアオ、リン。」
「おやすみグン。」
風邪で疲れたこともあり間もなくして深い眠りに着いた。
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