エピローグ
「これはどうかな?」
「は?だっさ」
僕は今、駅前にある大型ショッピングモールに来ている。
一人ではなく、二人で、だ。
「あんたってセンスが絶望的だわ。なんで結衣がこんな奴と付き合ってたのか分かんない」
彼女の親友、美花が肩を竦める。
「いや、僕たち付き合ってなかったし」
僕が否定すると美花が大きなため息を漏らしながら言った。
「ホテルに二人で泊まってイチャイチャしてたのは誰と誰ですか?」
美花が険しい顔つきで僕と距離を詰める。
「イチャイチャしてないし。それは勘違いだよ」
「ふーん。どうだか」
そう言うと美花は陳列されているマグカップを手に取る。
「これの方がいいわ。絶対。結衣の好みに合ってる」
結局僕が主張したマグカップは店の棚に戻され、美花が選んだマグカップが購入された。
僕たちが一体何をしているか、といえばだ。
僕たちは今、彼女の仏壇に水を入れておくマグカップを選びにきていた。
僕が彼女の家にあるもので良いじゃないか、と言うと美花は、新しいものが欲しいって言ってたの。彼氏なのにそんなんも知らないの?、と呆れられた。
「ありがとうございましたー」
そう言って頭を下げる店員に僕たちは背を向けて歩き出す。
美花の手にはマグカップが入った黒色に金文字が入った紙袋が握られている。
ショッピングモールを出ると肌を刺すような風が吹いていた。
「さっむー」
美花がコートを羽織った腕を
季節は師走。
冷たい風が空を泳ぐように吹き抜けていく。
そんな中、僕たちは彼女の家を目指して歩き続ける。
「そういえばさ、あんたって笑うの?ちょっと見てみたい」
美花が唐突にそんなことを言い出す。
「なんで?」
「だって結衣が生きている時、そう言ってたから。笑ってる君は可愛いらしいよ。どう見ても可愛いの『か』の文字も入ってない男に見えるんですけど」
美花がそんな暴言を吐く。
「別に可愛くないし。笑わないよ。彼女の前以外では」
「は?ばっかみたい。なにそれ。結衣に告白してんの?悪いけど私が結衣の彼氏だから譲りませんー」
そう
「別に彼氏になりたい、なんて一言も言ってないんだけど」
そう言うと美花はふーん、と言っただけで返事にもなっていなかった。
「よし、結衣の家の前まで競走だ!あんたへの恨みをここで晴らしてやる!」
なんの恨みなのか美花はそう言うと先に風を切って走っていった。
僕も仕方なく美花の後を追う。
「遅いぞー!怠け者ー!」
美花がそう僕に向かって叫ぶ。
太陽は彼女の笑顔と比例するように凍てついた空に光り輝いていた。
もうすぐ僕たちは彼女がいない、冬を迎える。
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