第25話 想い出

十一月十七日になった。

今日は獅子座流星群が極大を迎える日だ。

僕は朝から浮き足立つ気持ちだった。

外は快晴の青空が広がっていて気持ち良い朝だった。

とりあえず雨が降らなかったので安心した。

僕は夜の十時に彼女の家まで迎えにいくことになっている。

獅子座流星群は時間帯が難しく、早すぎても遅すぎてもだめ、なので時間調整に少し苦労したが、結局十時に収まった。

彼女はそれまで家で待機しているみたいで家族で退院パーティーをやるらしい。

僕はその間暇だったので家でゴロゴロしたり、家の周辺を散歩したりしていた。

散歩を終えて家に帰ると携帯が振動していたことに気がついた。

メールが来ていたらしく画面に彼女からのメールの文面が表示されていた。

そこには『予定を早めたい』と来ていた。

意味が分からなくて返信に困っていると彼女から猫のスタンプが送られてきた。

その猫は動いていて猫の上には『おねがい』の文字があった。

するとまたメールが届き、『予定時間を早めたい。六時に私の家まで迎えに来てもらっていい?』と来た。

『いや、六時は早いよ?獅子座流星群、これっぽっちも見えないし』

『事情は後で話すから。いいから言われた通りにして』

彼女の操られている人形のような気分だったが、彼女の我儘を受け入れてあげることにした。

携帯を閉じてベッドの上に寝転がると新たな気持ちが芽生えていることに気がついた。


約束の五分前に彼女の家の前に行くと彼女は玄関でもう待っていた。

「おーう!本当に来てくれてありがとうー!」

彼女は僕の姿を確認するなりそんな声を上げた。

「僕が来ないとでも思ってたの?」

「だってさ、急に予定変更とか言われて君って真面目だからさ、来ないんじゃないかな〜って思ってた」

彼女はそう言いながら歩き出す。

「それで、どこに行くの?」

僕が聞くと彼女は笑顔を見せてこう言った。

「夕食を食べに」


「君って食欲旺盛だね」

僕が店内を見渡しながらそう言うとまあね、と彼女は笑った。

僕たちが来たところは駅前にある軽食専門店だった。

メニューを見ると唐揚げやチキン南蛮や牡蠣かきフライなど様々な軽食の名前が並んでいた。

「じゃあね〜私はチキン南蛮とポテトチップスにしよう!君は?」

彼女はそう言って店員を呼び寄せる。

「じゃあ……唐揚げで……」

「え?それだけ?」

彼女は驚いたようにそう言う。

「そんなにお腹空いてないんだ」

「ふーん」

彼女は自分の注文に烏龍ウーロン茶を追加した。

僕も彼女同様烏龍茶にしてもらった。

その後すぐに食事は運ばれ、僕たちは満腹になるまで食べた。

因みに僕の食事代も彼女が払ってくれた。

払うよ、と言っても聞く素振りは見せなかったので僕はしょうがなくそのうち返すから、と言った。

店を出て時間を確認すると八時になっていた。

「いやー!お腹いっぱいー!」

彼女はそう言って店の前で伸びをする。

「これからどうするの?獅子座流星群観測時間までは後三時間はあるけど」

僕がそう聞くと彼女はうーん、と唸った。

暫く彼女は悩んでいたようだったが一つの答えに決めたようだった。

「よし、ショッピングだぁ!」

「はぁ?」

その間抜けな答えに僕も間抜けな返答をする。

「いいじゃん!これも一つの思い出だよ!」

彼女は嬉しそうに目を細めながら先頭を歩き出す。

その後、僕たちは殆どの店が閉店する時間、十時まで駅前でショッピングをして過ごした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る