『何色』でダ/ブ/ク/ロ

コトリノことり(旧こやま ことり)

「さあ、ダイスをふろうか」

※TRPGダ/ブ/ル/ク/ロ/ス を自作にでている『何色』の登場人物が遊ぶという内容です。

リプレイ小説、考察記事ではありません。そちらをお求めの方はブラウザバック推奨です。

※TRPGの詳しい説明はしておりません、また話の都合上あえて正しい言葉ではなく別の言葉におきかえている場合があります。ご了承ください。基本的にコメディ系の勢いとノリです。

※作中にでてくる言葉の説明になってない最低限の説明

・GM…じーえむ。進行役

・ルールブック…ゲームの遊び方、遊ぶためのものが揃っている本。TRPG遊ぶときに最初買うもの。略:ルルブ

・侵蝕値…このTRPG内での概念。いってしまえばゴリラパワー。ゴリラパワーを高めるとゴリラに近づき強力なパワーを使えるが、ゴリラパワーが高まりすぎるとゴリラになりすぎて人間に戻れなくなる。


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「TRPGって最近よく聞くけどさあ、コーヨーやったことある?」

「オンラインでやるやつならやったことありますよ」


 久々の映研の飲み会で、バトルアクションものを見終わった後で青葉先輩が聞いてきた。

 今日は少人数だった。僕の家で、青葉先輩と、女性の上級生一人と関西出身の後輩の四人。みんなそれぞれ大学のそばにアパートを借りてるので、あと少しで終電の時間だがまるで気にしてない。そこそこみんなお酒を飲んでいた。


「あれってサイコロとか用意して、みんなで集まってやるボードゲームなんじゃないの?」

「まあ、テーブルトークアールピージーですから、それが本来のやりかただと思うんですけど……ネットのツールとか使って、通話しながらとかでもできるんですよ。パソコンか、タブレットとスマホがあればできます」

「へえ。じゃあオレたちでもできるの?」


 え、オレたちって二人でってこと? え、僕、ソロシナリオ回せるかな。GM経験はあるけど。いや、二人で? 通話しながら? TRPGをやる? 先輩と?

 できます、と即答できないうちに、他の映研の仲間が「TRPGやるの? わたしもやってみたーい」と言ってきたので、いまいる4人でやることになった。

 複雑な気分になりながら、とりあえずそこそこやったことのある自分と、ほんの少しPL経験があるという後輩で、なにをやるか相談した。


「ここはやっぱ王道でクトゥルフやないですか、コーヨーさん」

「謎解き系なら、まあ……初心者でもいけるかな」

「えー、コーヨー、オレなんかバーンって敵倒すやつやりたい」

「………クトゥルフの敵っていいますと……」

「………ものすっごくいいタイミングで……クリティカルを出せば………いや、10分でキャラロストするエンドしか見えない。じゃあ、王道ファンタジーのソードワールドなら……」

「あ、ボク、それやったことないですわ」

「じゃあ……ダブルクロスは?」

「それならあります! ゴリラに変身しました!」

「え、キュマイラ使ったってこと? なんでわざわざゴリラ?」

「あとはカヴァーを神父、ワークスを暗殺者にしたりして……」

「え、裏社会の人間になんでわざわざ? いや神父で暗殺者ってどういうこと?」

「いやあ、神父の格好でスナイパーライフルを持つっていうのがやりたくって……」

「ああ……うんモルフェウスなら……できるけど……。いやでもなんで暗殺者? 伊庭さんの弟子にでもなりたかったの……?」

「あ、邂逅表は春日と飲み友達でした」

「君、FHのエージェントでもやってた? 追加サプリやってたの?」


 思わず後輩に素でつっこんでいたら、後ろからグイっと肩を引かれ――というよりは首に腕が回って、ヘッドロックされた。


「おーい。オレら置いてけぼりなんだけどー。どうすんのー」

「あ、青葉先輩。えーーーっと、あれです、超能力バトルならどうですか?」

「いいじゃん。わかりやすい」


 納得してくれたのに、首をしめてくる腕はそのままで放してくれない。むしろヘッドロックというよりかは、ほとんど僕の肩に先輩の顎の重さが乗っかってきている。

 酔っ払いの絡みに収まるくらいの密着具合だけど、普段なら絶対しないような距離感だ。

 先輩は今日そんなに飲んでいただろうか? と思いながらも、どうか心臓がドキドキいってるのは気づかれませんようにと願う。


「じゃあ……やりますかダブルクロス」

「今できる?」

「え、アナログでってことですか? キャラシートは……みんなスマホありますか?  それにサンプルキャラいれて、ちょっといじるくらいにしましょう。サイコロは……」

「あのぉーコーヨーさん……ダブクロのダイスって……」

「……10面ダイスで、10個以上使うから……ここはインターネットのダイスロールを使おう」

「ういっす。タブレットもってきてますんで、コレでやりましょか」

「いろんなツールを作ってくれた先達に感謝……。シナリオは基本ルルブのサンプルシナリオにすればいいか。僕がGM(ジーエム)やるし」

「んー? なに、サイコロはそのタブレットでふれるの? アナログなのかデジタルなのかわかねえなー」

「僕も、対面でダブクロするのははじめてですよ……」


 本当はサイコロ――ダイス、えんぴつ、キャラクターシートとルールブックを人数分用意すべきのはずだが、あいにくと酔っ払いたちのノリに間に合わせられない。とりあえず電子書籍版で基本ルールブック1を購入してもらう。2以降は、TRPGの楽しさに触れてもらって、次もやりたいと思ってもらい、ルルブ2を、はてには追加サプリまで買ってもらうように誘導していくのもGMの使命のひとつだ。

 自分は紙のルールブックを取り出しながら、まず最上級生の女性の先輩にたずねた。


「ダブルクロスっていうのは、超能力を扱える力が一部の人間に目覚めてきて、その力のせいで自分にとって当たり前の日常が壊れてしまって……っていうのがメインの話なんです。それで、その力を悪用するヤツと戦うっていうかんじの話なんですけど……どんな感じの攻撃がしたいですか?」

「えー? わたしはねえー、悪役をバー―――ーン! って後ろから火力ぶっぱするかんじー」

「(サラマンダーだ…)」

「(サラマンダーでは…)」

「『汚物は消毒!』っていう感じで燃やしたい!」

「サラマンダーですね」

「うん、プラズマカノンぶっぱなせばいいんじゃないですかね」

「青葉先輩はどういうのがいいですか?」

「オレ? うーん……そうだな……こう、雑魚もボスも……一蹴する感じのがいいなあ」

「(ハヌマーン…)」

「(サイレンの魔女…)」

「あ、こういうのって大体ダイスふって決めるんだよな。なら、ダイスでうまくいくかどうかっていうのが決まるのがいいかな」

「ハヌマーンですね」

「そうですね、もう青葉先輩はサイレンの魔女をレベル限界までとって、ダイスの出目で決めたいなら疾風迅雷なしで援護の風をつけてダイスバフすればいいんじゃないですかね。」


 とりあえず初心者二人のめどはついた。この感じだと後輩はノイマンで支援あたりが妥当だろう。後輩に上級生の女性のキャラクターシート作成を頼み、自分はいまだに腕をかけてきている酔っ払いの先輩の対応をする。


「はぬまーんっていうのがコーヨーのおすすめ?」

「そうですね。シーン攻撃……登場してる敵に対して全部あてる強い攻撃がサイレンの魔女っていうやつなんですけど、コレは工夫しないと敵にあたらないっていうので……あ、だから、ダイス増やす技が、これとかあって……あーでもハヌマーンならやっぱマシラをつけて……コンセントレイトとるほうがいいか……経験値的に……ええっと、こんな感じかな……あ、すみません、あの、ハヌマーンっていう超能力で、すごい強い攻撃ができるのがあって、えっと、それは全員じゃなくて、ラスボス用っていうか、単体攻撃なんですけど……」

「ふーん」


 ぐいっと僕の手元を覗き込むように先輩が頭を近づけてきてハッとする。自分で使っていたキャラクターシートをハヌマーン用のビルドに書き換えるのに夢中になってしまいすぎた。僕もなんだかんだ酔っ払ってしまってるのだろうか。

 

「あ、え、と、その。勝手に決めちゃってすみません、他に、支援がしたいとかそういうのがあれば……」

「いやいいよ。コーヨーがそれがいいっていうなら、それがいい」

「え」 


 ほんの少しだけ首を横に向けたら、にっこりと楽しそうに笑ってる先輩の顔があって。

 その笑顔のまま、ものすごく近くで自分の顔を見つめてこられて。

 硬直したこちらの顔をじぃっと青葉先輩は観察するように眺めた後で、くるっとまた僕の手元に目を落とす。


「じゃ、やりかた教えて」

「あ、えっと、はい。あ、でも、その、シナリオでどのキャラやるか、さきに決めないと」

「こっち終わったっすー」

「とりあえず、最初は災厄の炎で、ラスボス戦でプラズマカノンっていうのを使えばいいんよね?」

「あ、災厄の炎にしたんだ」

「いやあ……燃やしたい燃やしたいってめっちゃ言われて……」

「氷も使えるんだけどなあ……サラマンダー……」

「んで! シナリオってなになに!」


 今回、僕がGMで、他の三人がプレイヤーだ。とりあえず三人の前に今回やるシナリオの最初の配役のページを広げる。


「あ、はい。えーっとロールプレイ、つまり、与えられたキャラに応じた演技をしながらゲームを進めてくんですけど、今回のシナリオでやるなら……主人公枠、その相棒、上司、って感じですかね」

「ほほーう。青葉くん主人公とかいいんじゃない?」

「へえ、主人公とかあるんだ」

「これがハンドアウトで……えっと、この主人公はまだ超能力に目覚めてない高校生で、ヒロインとバスに乗るんですけど……」

「ヒロイン?」

「あ。はい。これはNPCなんですけど、一応、その、主人公はこのヒロインを気になってるっていう設定で……」


 あ、そういえば、このシナリオ、ヒロインいるんだった。

 なんとなく、青葉先輩、主人公似合いそうだなって思ったけど。クラスメイトの女の子が気になるっていう設定から始まるシナリオだった。

 

「ふーん。でも高校生かー、なんかなー。オレ、この上司の支部長っていうほうがいいな。頼りがいある渋い大人って感じのオレを見せてやるよ」

「なんですかそれー。初心者なのに頼りがいあるって」

「っるせー。いーんだよ。大人の色気だしていくから。経験者のお前が主人公やって、俺らに手本見せてくれよ」

「あーそれいいなー。んじゃ私はこの相棒役ねー」


 さくっと配役が決まって、後輩が二人に対して簡単なルール説明をしている。

 あまりにも自然な流れで、スムーズに決まって、流されてしまったけど。

 もしかして、青葉先輩は、ヒロイン――相手役がいるという主人公を、僕がいるからやめたんじゃないんだろうか。

 そんな考え、あまりにも自分に都合がよすぎるだろうか。

 先輩の顔を見たいけど、いまだに腕を回されている状態では、振り向いたら近すぎる。その距離に自分の心が保たない。


「よーし、追加のお酒も持ってきたよー。はじめましょー」


 上級生の言葉に、慌てて自分がGMなんだから、とシナリオページをめくる。

 肩に回っていた腕が離れていく。青葉先輩も改めて座りなおして、セッションを始める準備をするんだろう。引っ付いたままではさすがにやりにくい。

 なんとなく、肩の軽さが気になる。

 そんなことを考えたとき、ポン、と頭をなでられた。


「そんじゃ、オレのかっこいー大人の男っぷり、見ててくれよ? GM」


 にっと笑ってから、僕の横に改めて座りなおして他の二人と合わせて円座をくむ。

 先輩はすでに新しいビール缶をあけて、「ダイスってどうふるの」「とりあえずこのタブレットにダイスがふれるサイトひらいてるんで…」「めっちゃ便利だな」なんて、いつも通りにしている。

 僕は、肩と、頭と、さっきの確信めいた笑い方に、とっくに侵蝕値が100をこえそうだった。

 さーて、と力をいれたような、ぬけたような、それでも明るい声が深夜のワンルームに響く。


「さあ、ダイスをふろうか」




 ちなみに、セッションの内容はというと。

 トレーラーを読み上げたあとに、「あれ、NPCのロールプレイって……やるの僕じゃんか……」という衝撃的な事実に気づき。

 普段はオンラインセッションで、さらにテキストチャットでセッションしているから、ボイスセッション、しかも対面でやるなんて慣れていない。

 あまりにもひどすぎる棒読み女子高校生ヒロインのセリフに三人が腹を抱えて笑って。

 やけになって僕もお酒を飲んで、ノリと勢いで残りのNPCを演じてやった。春日のセリフはめっちゃくちゃに抑揚をつけてやられ役っぽく演じた。先輩二人は笑ってたけど、経験者の後輩は「いやあ、それでこそ春日さんだわ」とわかってくれた。


 ただ、ミドルフェイス――最初の戦闘で、ダイスバフをつけたとはいえ、まさかのクリティカル値が10のままの『サイレンの魔女』を、青葉先輩が「お、これめっちゃダイス回ってね?」といって達成値60を出した時は後輩と一緒に青ざめた。春日さん、一瞬で退場なされた。

 ラスボスのときは、大分酔いが回った上級生の先輩が「燃えつきなさああああい」と高笑いしながらプラズマカノンをノリノリで放ってた。

 そしてさらに、青葉先輩は侵蝕値(※このゲームで採用されている、超能力を強める値のこと、ただしあげすぎると人間に戻れなくなる)を自分であげる『ジェネシフト』を活用し、まさかの基本ルールブック1のサンプルシナリオで、しかも初心者が自ら130%にして、レベルとダイスがあがった『マシラのごとく』をラスボスに食らわせてワンパンだった。しかも、バックトラック――侵蝕値を下げて、100%以下にするためにダイスをふらなくてはいけないのだが、「二倍ぶりしましょう」という僕と後輩の言葉をはねのけて、ダイスを等倍ぶりでふって、きっちり99%でぎりぎり生還してきた。これには後輩と顔を見合わせて「うそだろ……」と呟いた。




 上級生と後輩は、二人で感想を言い合いながらお酒を飲んでる。経験点もくばったので、キャラをどう強くするかの相談をしてるらしい。

 僕はなんとかGMとして役目を終えたことにほっとして、ソファに寄りかかりながら、冷蔵庫から出したばかりの冷たいビールをちびちび飲んでいた。


「おつかれ、GM」

「あ、青葉支部長。おつかれさまです」


 先輩は、けっこう前にあけたビール缶を持ってきて僕の隣に座る。


「どうだった、オレの支部長」

「かっこよかったですよ、めっちゃドヤ顔で『オレの部下は……一人も殺させない』って言ってたのとか」

「それ、絶対そんな風に思ってないだろ」


 むっと拗ねた顔をした青葉先輩に、「さあどうでしょうね」と笑って返す。

 正直、いつもより大人びた声をだす青葉先輩は、いつもより低い声で、ゆったりとした口調で。先輩がロールプレイするたびにドキドキした。


「なあ、これって三人とか四人とかじゃないとできないの?」

「五人くらいまでなら大丈夫ですよ。GMと二人でやるソロシナリオもありますけど」

「へえ。じゃあ今度はそっちやりたいな」

「五人でですか? それならもうちょっと広い部屋のひとのところでやったほうが……」

「ちがう、ソロシナリオのほう」


 飲んでいたビールをこぼしそうになった。先輩が「あぶねえな」といってビールを持ってる僕の手を支える。

 その手を離さないまま、距離が近くなった先輩が、いつもより低い声で囁く。


「次は、二人で、やろ」


 オレも冷たいの飲みたい、と言って僕の手からビールを奪って先輩の体が離れる。

 頭のなかがぐるぐるして、返してください、とか、ぼくのですよ、とか、言うべき台詞がでてこない。

 「酔ったかもしんないです」と言って体育座りして、自分の膝の上で腕を組んで、赤くなった顔を隠すことしかできなかった。



 たまに思う。先輩が何かするたび、僕は衝動判定を行う必要があるんじゃないかって。そのせいでどんどん侵蝕値があがってるんじゃないだろうか。

 ――それでも、僕は左耳の赤いピアスをもらう前の日々なんていらないから。元の日常に戻れなくたって、かまわない。

 バックトラックなんて行わない。ジャーム化して人間じゃなくなったってかまわない。

 先輩が隣にいてくれる非日常が、僕の日常になればいい。





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『昨日と同じ今日、今日と同じ明日。

このままの日々が、ずっと続くと思っていた。

だが――、世界は知らぬうちに変貌していた。』

『それは、ずっと続くと思われた日常がボロボロと崩れはじめた日――。』

『――ダブルクロス、それは――を意味する言葉』


(ダブルクロス The 3rd Edition 『Crumble Days(クランブルデイズ)』

 トレーラー 一部抜粋)

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『何色』でダ/ブ/ク/ロ コトリノことり(旧こやま ことり) @cottori

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