その4 異分野学会への挑戦
「まあ、そんなところかな。これでもう投稿しても良いレベルになったと思うよ」
前田先生が、にっこりと恭太に話しかける。先日論文がリジェクトされた恭太であったが、その後の実験などがうまくいったため、前田先生も満足いくような内容に修正することができたのである。
「先生ありがとうございます。それでは、他の共著者からも確認を取りたいと思います」
恭太は
「論文はこれでいいとして、ところでご相談なんだけど・・・」
前田先生が急に話を変えようとしたので、恭太は身構えた。ある作業が終わった直後に前田先生が別の話をするときは、大抵新たな課題を提示するときであったからである。
「はい、何でしょうか」
恭太は恐る恐る前田先生の表情を見ながら答えた。
「今年度末にフランスで国際災害対策学会が開催されるのだけど、応募してみない?」
国際災害対策学会とは、四年に一回開催される国際学会であり、とても大きなイベントであった。しかし、恭太は災害時の救助ロボットの研究をしているとはいえ、ロボットの開発が専門であるため、正直専門外の学会であるともいえた。
「この学会はとても大きな学会でね、毎回世界中から著名な先生方も参加されるのだよ。もちろん、多くの参加者は違う専門分野の人たちだけど、災害救助というのは参加者にも興味持ってもらえると思うんだ。私も参加するつもりにしていて、ここでうまくいけば、新たな共同研究なんてこともあり得るだろう」
前田先生は、恭太の返事を待つことなく話を続けた。
恭太は正直とても迷っていた。そのような大きな学会で発表することに挑戦してみたい気持ちもあったし、何よりフランスに行けるということが魅力的に思えた。しかし、異分野で発表することはまだ恭太には早いことにも思えたし、何より前田先生と恭太の二人だけで参加することを想像したときのプレッシャーが大きかった。
「どうかな?もちろん参加するよね?」
前田先生の問いかけを受けて、恭太は改めて前田先生の表情を見つめなおす。その表情は、恭太が前向きな返事をすることしか期待していないといった表情であり、すぐに返事をしない恭太に少しいらだっているようにも見えた。恭太は、自分がすべき返事が決まっていることを悟った。
「もちろんです。是非参加したいです!」
恭太の返事を聞いて、前田先生は満面の笑みになる。
「そうかそうか。参加したい気持ちがわかって嬉しいよ。それでは要旨の締め切りが二週間後みたいだから、来週までに案を出して送ってね。それじゃあ、また明日」
前田先生は早口で要件を伝えて、研究室を出ていった。
「はあ、そんな大きな異分野の学会大丈夫かな・・・」
研究室に取り残された恭太は、不安な気持ちが徐々に増していた。しかし、恭太はすでに返事をしてしまったのである。再び気持ちを切り替えて、来週までに要旨の案を送れるように計画を立てることにした。
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