伸ばした手は。


 何か、暖かいものに。ふれた。


 やわらかい。


 それでいて。


 何かが、流れ落ちている。


 目を、開けた。


 自分の手は。


 彼女の頬に。


 触れていた。


 彼女。


 泣いている。


「ごめんなさい。見つけられなくって」


 最初に自分の口から出たのは、謝罪の言葉だった。


「謝らないで」


 彼女の。声。あの頃と同じ。


「いいのよ。謝らないで」


「俺は」


「眠っていたのよ。あなたは。ずっと。数年間」


 彼女。


 頬。


 手が、握り返される。


「しんでしまったのかと。おもった」


「こっちの台詞よ。静かになって。しんだかと、思ったわ。わたしは」


 彼女の涙。止まらない。


「わたしは」


 自分も、泣いているのだと、気付いた。


「手紙。ずっと。持っていて、くれたのね」


「うん」


 今度は、自分から。彼女に伝えよう。


「好きです。最期まで。一緒に、います」


「うん。わたしも」


 おわりまであなたのことがすきです。

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静かな湖畔であなたと唄う 春嵐 @aiot3110

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