第5話:私の愛し子

我が名はジェイド・クラーク、クラーク王国の国王である。今は重病に懸かっており寝たきりの生活が続いている

私には正室の王妃の他に側妃が10人おり、息子には亡き側妃が生んだアーノルド・クラーク、王妃が生んだリオン・クラークの他に多くの子供たちがいる

私には心から愛した女性がいた。その女性の名はアマリア。私の側妃でアーノルド・クラークの実母である。私とアマリアは幼少のころから幼馴染の関係だったが、次第に男女の仲へと変わった

同盟国から正室である王妃を迎える前からアマリアと愛を育んでいた

もちろんアマリアとの間に子供ができた。そう私の愛し子であるアーノルド・クラークを妊娠したのだ

当然、子供のことを同盟国に知られたら国交断絶されるのである。何とか誤魔化しアマリアは中絶はされなかったが生まれても王位継承権は受けられなかった


【ジェイド・クラーク】

「すまない、そなたにこのような思いをさせてしまって。」


【アマリア】

「ジェイド様、私はジェイド様との子供がいれば十分です。」


【ジェイド・クラーク】

「正室にはできないが側妃には必ず迎える!もちろん私とそなたの子供も王子にする!」


【アマリア】

「ありがとうございます。ジェイド様。」


その後、私は正室である王妃を迎えた後に、アマリアを側妃に迎えた

しかし王妃は私の子供を先に生んだアマリアに対して、冷たく扱った。王妃としては国の命令で同盟国の王子と政略結婚し、同盟国に入ったら、王子にはすでに子供がいたなんてことだから、子供の母親であるアマリアにキツく当たるのは分からぬでもない


【ジェイド・クラーク】

「本当にすまない!アマリア!」


【アマリア】

「ジェイド様、私よりも王妃様の方へ行ってください。」


アマリアは私だけではなく王妃への配慮を欠かさなかった


そして王妃との間にリオン・クラークが生まれた。正式に次期国王の座を約束されている


私としては本当はアマリアとの間に生まれたアーノルドを次期国王にしたかった


そして悲劇が起きた。アマリアが流行り病にかかり危篤状態だったのだ


【ジェイド・クラーク】

「アマリア、頼む!死なないでくれ!お願いだ!」


【アマリア】

「ジェイド様、人はいつか死ぬのです。これも天命です。」


【ジェイド・クラーク】

「アマリア。」


【アマリア】

「最後にお願いがあります。アーノルドのことをお願いします。」


【ジェイド・クラーク】

「あぁ、もちろんだ!私とそなたの愛し子じゃ。大切にするよ。」


【アマリア】

「ありがとうございます。ジェイド様、愛しております。」


そう言い残しアマリアは息を引き取った


【ジェイド・クラーク】

「うぅ、アマリア、アマリア。」


私は失ったアマリアへの悲しみを埋めようと多くの側妃を迎え入れた


王妃との関係は完全に冷えきっている。王妃はアーノルドのことを「下賤の女の子供」と陰口を叩いていることを聞いており、私は完全に王妃に愛想を尽かした


しかもリオンは王妃に似たらしくアーノルドのことを兄とは思わず見下している。腹立たしいことこの上もない!おまけにアーノルドとマヤ譲の二人と比べて無能で傲慢な奴だ!あぁ、次期国王とマヤの婚約者はリオンではなくアーノルドの方が良かった


私はアーノルドを王妃の魔の手から守るためにアーノルドの身柄を離宮に移し信頼できる部下に養育を任せた


それから歳月が流れ、私は病に倒れた。侍医からは、もはや助からないとのことであり、私は心の中は絶望に満ちていた


リオンが婚約者のマヤ・ユライザよりも想い人のアリス・ローリー男爵令嬢にうつつを抜かしている。完全に昔の私と同じだ。私は後悔の念に苛まれた。しかも驚くべき知らせが届いた


私の愛し子のアーノルド・クラークとリオンの婚約者のマヤ・ユライザが一緒に出奔したという報告である


私の下に隠密から知らせが届き、急ぎ二人を行方を探した


するとアーノルドとマヤ譲はサカイにいるらしい。しかもそこでカレーライス専門店【クラークカレー】を経営しているのである。王宮にいたころよりもイキイキしており、汗水流して働いているらしい


私は逐一、二人を手を出さず見張るよう伝えた。知らせによると二人は恋仲らしく、サカイにある協会で結婚式を挙げたらしく、多くの人々に祝福されたという


【ジェイド・クラーク】

「あぁ、王の立場ではなく父親の立場だったら・・・」


本来、マヤ・ユライザ公爵令嬢はリオンの婚約者であり、他の男性と交際をすれば完全に不貞になり裁かなければいけなくなる。それはあくまで王族や貴族の立場である。しかしアーノルドとマヤは正式にサカイで国民登録を済ませ、クラーク王国との関係解消の書類も作成され我が国とあの二人は完全に手切れとなったため手出しはできない。でもアーノルドとマヤ譲が幸せに暮らしていることに父親として安堵していた。あの報告がなければ・・・


【側近】

「陛下、リオン殿下が密かにサカイへ兵を差し向けておりました!しかもサカイで兵たちが揉め事を起こしたようです!」


側近の知らせに私はもうどうでも良い気持ちになった。サカイにいた隠密の知らせでリオン付きの兵士たちが二人を連れ戻そうとしたらしいのだ


【ジェイド・クラーク】

「そうか、ごほっ、ごほっ!」


【側近】

「陛下!」


もう終わった、サカイで問題を起こせば間違いなく我が国は孤立無援になる


【ジェイド・クラーク】

「あぁ、我が国はいずれ終わるな。」


【側近】

「陛下!そのような弱気なことを!」


【ジェイド・クラーク】

「いや、リオンを放置していたことが間違いだったのじゃ。もはやクラーク王国の滅亡は避けられん。」


【側近】

「陛下。」


【ジェイド・クラーク】

「済まぬが一人にしてほしい。」


【側近】

「はっ。」


側近を下がらせた後、私は杖をつき、よろよろになりながらも移動し机の引き出しから毒薬を持ち出した


【ジェイド・クラーク】

「我が人生は失敗だらけだな。」


私はもう生きるのに疲れてしまった。もう限界だ。早くアマリアに会いたい。もう私の心はアマリアに会いたいの一色になっていた


【ジェイド・クラーク】

「アマリア、すぐそっちへ行くよ。」


私は毒薬を飲んだ


【ジェイド・クラーク】

「アーノルド、マヤ譲、幸せにな。」


私は二人の行く末を彼の世で見守ることにした


さらば、私の愛し子よ


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