白銀竜王の船出

何とか振り切れたか。

 もはやスキル鑑定士の鑑定により、クラインは自身の価値を知ってしまった。今更前のパーティーの連中が引き戻そうと思っても時既に遅かったのだ。


「でも」


 酒場の席に座った時、シアは疑問符を浮かべる。


「どうして、クラインさんはそんな凄いをスキルを持っていたんですか? そんな人がなぜサポーターを」

「3年前、俺はあのパーティー、紅蓮獅王に拾われサポーターになった。だが俺にはそれ以前の記憶がないんだ」

「記憶喪失ですか?」

「……ああ。そうだ。だから俺もわからない。俺の過去になにがあったのか」

「そうなのですか。でしたらクラインさんは問い詰めても何もわかりはしませんね」と、セシルは言う。

「けど重要なのはそこではないと私は思う。クラインさんさえいれば、私達は無能パーティーから脱却できる。私達を馬鹿にしていた連中を見返せるんだ」と、リアラは言う。

「それはそうかもしれないが。けどそれは結局依存関係が過ぎる。私達の弱点はなくなるかもしれないが、それはクラインさんありきの戦略だ。クラインさんが何らかの理由で抜けて場合、元に戻るだけだ」そう、セシルは語る。

「……それもそうかもしれないが。今はどうしようもない。他に方法がないからだ。クラインさんの精霊魔法は私達に差し込んだ一筋の光なんだ」と、リアラは語る。

「まあ、別に先ほど前のパーティーに話した通り、俺は今のところこのパーティーを抜けるつもりはない。あくまで今のところだし。絶対ではない。それに冒険者という仕事は危険な稼業だ。命を落とす可能性もあるから最悪は俺が死んでパーティーを離脱してしまうかもしれない」


 とはいえ、精霊王の加護の発動効果で自動蘇生があった。この発動効果は戦闘中一度ではあるが復活できるという効果だ。この効果の他に数多の発動効果がある。

 死ぬ可能性はかなり低かった。だがゼロではないのは確かだ。


「そうですね。それもそうです。私達もちゃんと強くならないと」と、シアは言った。

「あ、ああ。そうだな。私達も強くならないと」と、セシルは言う。

「ともかく。こうしてパーティーメンバーが出そろったんだから、パーティー名を正式に決めないと。いつまでも名無(仮)では恰好がつかない」


 クラインはそう言った。


「そうですね。何にしましょう?」

「せっかく冒険者パーティーをやるなら、俺を頂点を目指したいと思う。それに相応しい名前が必要だ。俺が考えていた名前がある」

「なんですか?」

「白銀竜王だ」

「白銀竜王……でも、それって」


 Sランク冒険者パーティーはこの王国で2チームあった。彼らは「紅蓮獅王」がSランク冒険者パーティーを降格し、Aランクになった為、知らないだろうが。

「漆黒竜王」というSランク冒険者チームがあった。この王国シルヴァリアでも最強の冒険者パーティーと目されている最強のパーティーだ。それと同じ竜王の二文字を受け継ぐのだ。 故にそれはプレッシャーにもなり得た。今は一介のFランク冒険者パーティーでしかない彼らがその二文字が入ったパーティー名を受け継ぐのは嘲笑の的となり得た。ただでさえ、彼女達三人がパーティーを組んだ時、落ちこぼれてクビになった連中が徒党を組んだと馬鹿にされ、嘲笑を受けていたのだ。


「ああ。Sランク冒険者パーティー『漆黒竜王』と同じ二文字を受け継いだ名前だ。だが、俺達もSランク冒険者パーティーを目指すんだ。それくらいの気概でやらなくてどうするんだ」


 クラインは熱く語る。無論、それを馬鹿にする連中もいるだろう。だがそれは同時に絶対に見返してやるという強い気持ちになり得るだろう。クラインはそう考えた。


「は、はい。そうですね。わかりました。それで行きましょう」

 

 シアは笑顔で語る。


「いつかその名に恥じない本当のSランクパーティーになる為に」と、リアラは語る。

「そうだ。いつかその名を誰も馬鹿にする者がいなくなるまで。私達は闘い続けよう」と、セシルは語る。

「ああ。そうだ。今日、この日が俺達の冒険者パーティー『白銀竜王』の船出なんだ」

「えいえいおー」

「「「えいえいおー」」」

 

 かけ声がする。


「よし。正式にパーティー名も決まったし、早速冒険者ギルドに行くぞ」

「はい。行きましょう」


 こうして『白銀竜王』というパーティー名も決まり、満を持して四人は冒険者ギルドへと向かっていった。

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