Sランクパーティー『紅蓮獅王』の後悔

 一方その頃。

 Sランクパーティー『紅蓮獅王』は新規に雇ったサポーター一人を加えてクエストに出ていた。

 実にこれで三度目の出動である。Sランクのクエストを二度続けて攻略に失敗し、ついにはAランクのクエストへの攻略になる。ちなみにこのクエストに失敗した場合、冒険者ギルドは『紅蓮獅王』をAランクの冒険者パーティーに格下げをするそうだった。それでも温情の末の決定だろう。Aランクのクエストも攻略できないようでは、Aランク相当の冒険者パーティーとは言えない。

 メフィスト火山の火竜(レッドドラゴン)との交戦だった。前衛戦士のアレルヤはミスリルソードで攻撃をする。だが、その攻撃は敢えなく火竜(レッドドラゴン)の攻撃に弾かれ、あまりダメージを与えている様子はない。


「……なんだっ! 攻撃が全然通らねぇじゃねぇか」


 続く、火竜(レッドドラゴン)のブレスをアレルヤはまともに喰らう。


「ぐあっ! くそっ! 熱いじゃねぇか!」


 アレルヤは自身のHPが大きく現象した事を感じた。実際には解析魔法(アナライズ)を使わなければわからないが、自身の問題であれば感覚的に理解できる。


「ちっ……なんかダメージの減りが多い気がする。前はこの程度のブレス、ちっとも効かなかったのに」

「……おかしいわね。私の氷結(フリーズ)系の魔法もあまり効いていないみたい」


 後衛の魔法使い、魔女イザベラも訝しんだ。


「くそっ! 撤退だ。煙幕アイテム使って、一時撤退するぞ」


 アレルヤは煙幕を使用し、目眩ましをした後退却していった。そして、物影に隠れ、会議を始める。

 なぜか自分達が弱くなったように感じていたのは前、2回のクエストからそうだった。何となく感じていたが、Aランク相当のクエストに格下げをして尚手に余る事から、確信を持った。


「おかしい……俺達弱くなってないか?」


 アレルヤは効く。


「そうね。確実に弱くなっているわね」


 イザベラは答える。


「俺もだ。防御力が今までより落ちている気がする」


 前衛の二枚目。シールドナイトのボブソンもそう語る。彼は純粋に防御力に特化した盾役である。アレルヤが攻撃役だとすると、ボブソンは守備役だ。


「なんだ。今までの俺達と何が違う……? 何が変わった」

「一つ変わった事があるわ」

「なんだ? イザベラ」

「あのクビにしたサポーターよ。クラインよ」

「ああっ。あいつか。けどなんで、あいつはただのサポーターだろ」

「……パーティーに参加しているだけで発動しているバフ(補助)効果というものが存在するのよ。そういうスキルがあるの。例えばそいつが参加しているだけで経験値が増加するとか。実際のところはスキル鑑定を行ってみないとわからないけど。私達、あいつをただのサポーターだと思ってたからスキル鑑定なんてしてなかったじゃない」

「だったら何か? 俺達は弱くなったんじゃなくて、強くなってた? って事か。それが普通に戻ったってだけで。クラインのスキルの補助があったからSランクの冒険者パーティーとしてやれてたっていう? 今の実力が俺達の本当の実力なのか?」

「可能性としては高いわ」

「ちっ。あいつそんな使えるスキルを持っていたのか。知ってたらケチってクビにしなかったっての」

 

 アレルヤは吐き捨てる。


「これからどうする?」

 

 アレルヤは聞く。


「とりあえずは王国に戻って、クラインを探しましょう。あいつを引き戻すのが先よ。クエストは棄権になるからAランクの冒険者パーティーに格下げになるけど。あいつを引き戻して戦力が元に戻れば、すぐに元通りよ。クエストを前のように順調にクリアしていけばすぐにSランクに戻れるわ」


 イザベラは答える。


「そうだな。その通りだ。よし。まずはクエストを棄権して王国に戻るぞ。それでクライン(あいつ)を探すんだ」

「うっす」

「えーと。クラインってどんな人ですか?」


 最近入ってきたサポーターは新人の為、当然のようにクラインを知らない。入れ替わりになったのだ。知るわけもない。途方に暮れていた。


「後で写真とプロフィールを渡すわ。通話ができる魔晶石で連絡を取って、分散して探しましょう」

「おう」

「言っとくけど、前みたいに高圧的な態度を取らない事。下手に出てクラインの機嫌を伺うのよ。前と違ってこっちは立場が弱いんだから」

「ちっ。まあ、しょうがねぇな。前とは状況が違うんだから」


 アレルヤは舌打ちをするが、現状からして妥協せざるを得なかった。前とはクレインに抱いている認識が異なっているのだ。


 あれから、クレイン達はスキル鑑定士のところを訪れた。シアの薦めだった。やはり仲間がどんなスキルを持ち、パラメーターをしているかを知らない事には作戦を立て辛いからだ。 スキル鑑定士の館に入る。館の中には薄汚い、怪しいババアがいた。水晶玉がテーブルの上には乗っている。


「いらっしゃい? どのようなご用件だい? まあ、スキル鑑定士のところに来たのだから、スキルを見て欲しいんだろう? ここは占いの館ではないからね。クックック」


 スキル鑑定士の老婆は怪しく笑う。


「それで、誰のスキルを鑑定して欲しいんだい?」


 老婆は言う。


「……この男の人。クラインさんのスキルを見て貰いたいんです」


 シアはそう言う。クラインは先頭に立たされる。


「そうかい。そこの椅子に座りな。私が『スキル鑑定』スキルで鑑定してやろう」


 老婆は言う。


「ふふっ! はあーーーーーーーーーーーーーっ!」


 老婆は水晶玉に念じた。


「見える! 見えるぞ! そなたのスキルが!」


 水晶玉に念じないとスキルが発動しないのか。あるいはムードの為にやっているのかはわからなかった。


「なんですか? そのスキルは?」


 シアは聞いた。


「そなたの職業は精霊術士。保有しているスキルは『精霊王の加護』じゃ」

「精霊王の加護?」

「そうじゃ。精霊術士として最高級のレアスキルじゃ。このスキルを持った者がパーティーにいれば無自覚に精霊による加護を受ける。発動効果は『攻撃力UP大』『防御力UP大』『命中補正』『自動回復(オートリジェネ)』『魔力強化』『全属性耐性』『全属性強化』『技成功率UP大』『自動蘇生』などじゃ」

「……そのスキルがあると、そんなに効果が発動するんですか?」

「そうじゃ。精霊術士として最高位のスキルじゃからな。精霊魔法の効果を全て受ける事となるのじゃ」

 

 老婆は言った。


「そうか。じゃあ、やっぱりあの時護られていたのはクラインさんの精霊魔法のおかげなんですね。改めてクラインさん、私達を救ってくれてありがとうございます」

「そんな俺は別に。大体、倒したのはシアの魔法じゃないか」

「そんな事はない。クラインの精霊魔法がなかったら、私達は死んでいたんだから同じ事よ」そう、リアラは言う。

「ありがとう。クライン」

 

 セシルはそうお礼を言った。


「そう持ち上げないでくれよ。照れるから」


 それに無自覚でやった事なのだ。自覚があればいいが。少し気恥ずかしかった。


「さあ、鑑定は終わったよ。お代を頂こうか」

「は、はい。これを」

「……ひい、ふう、みい。少し多いようだが」


 老婆は銀貨を数える。


「それはお礼です」

「ふっふっふ。そうかい。私も滅多に見れないレアスキルを見せて貰ったんだ。良いものを見せて貰ったのに多めに払ってくれて、悪いね。クックック」


 老婆は嬉しそうに笑った。



 スキル鑑定士の館をクライン達、パーティー名「名無(仮)」が出たところの事だった。


「い、いたぞ! 間違いない! クラインだ! スキル鑑定士の館の前だ! すぐに来い! 他に女三人を連れているぞ!」


 物影からクラインを見つけたアレルヤは通話ができるマジックアイテム通話晶石を経て、そう他のパーティーメンバーに連絡を取った。



「ん?」

「「「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」」」

 

 複数人の男女がアレルヤの前に走り寄ってくる。


「誰ですか? この方達は?」


 リアラは聞く。知らないのも無理はない。クラインが前に加入していたパーティーのメンバーなど。


「……この方達は確か、Sランク冒険者パーティーの『紅蓮獅王』の方々」


 と、シアは言う。Sランクの冒険者パーティーは言わば別格なので認知している冒険者も多い。だからだろう。シアは彼らが何者かを知っていた。

 その台詞は直近のクエストでAランクに降格した彼らにとって嫌味になりうるものだったが、今はその事に構っているわけにはいかなかった。

 彼らにとっては今、クラインを引き戻す事が何よりも重要だったからだ。


「なぁ……クライン。いや、クラインさん。この前はクビなんて言ってすまなかった。あれは気の迷いだったんだ。クビは取り消しだ。頼むから俺達のパーティーに戻ってくれ」


 そう、アレルヤは言う。


「そ、そう! お給金は弾むわよ! 1クエスト当たり、金貨3枚どころではない。10倍! 10倍に弾むから、どうかお願い! ねっ!」


 イザベラはそう必死に頼み込み、ウィンクしてくる。

 何となく察した。クラインが離脱した事で、戦力が大幅に低下し、クエストに失敗した彼らがその存在価値に気づいたのだ。

 そして引き戻しにかかろうとしているのだろう。しかし、既にクラインは自身がただのサポーターではなく精霊術士であり、『精霊王の加護』というチートスキルを保有しているという事に気づいてしまっていた。

 

「クラインさん……」

 

 シアはもしかしたらクラインが元の鞘に戻るのかもしれないと思い、寂しそうな顔をする。 だが、戻るとしてもそれはクラインが決める権利である。だからシアは引き留める事などできるはずもなかった。


「悪い。俺はもうあんた達のパーティーには戻れない!」

「な、なんでだよ!」とアレルヤ。

「待遇は改善するわ! もうあなたの事を誰も馬鹿にしない! お給金は20倍! いえ、30倍にする! あなたは私達の側にいてくれればいいの!」と、イザベラ。

「頼む! この通りだ!」ボブソンは頭を深く下げてきた。

「すみません。俺の気持ちは変わりません。俺はもうこの子達のパーティーに入りました。この子達は行き先のなくなった俺を快くパーティーに入れてくれたんです。この子達を裏切る事なんて俺にはできません」


 クラインはそう言った。


「ク、クラインさん」


 シアは瞳を潤ませる。他の二人も同じく心を打たれているようだった。


「行こうか」


 クラインは言って歩き出す。


「ま、待って! 話を聞いて!」

「ま、待ってくれ! もっと話を!」

「うるさい! どっか行け! しっ! しっ!」


 しつこく食い下がる『紅蓮獅王』の連中をリアラは追い払った。四人は酒場に入り、今後の事を話し合う事になる。

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