第21話 ヤンデレVSヤンデレ 後編

 至る所で爆発音と怒声が聞こえる。


 エマと伊織が戦っている音だ。空中でぶつかり合うさまは、マジでバトルマンガの世界である。


 奴らが戦い始めてどれくらい経ったのか、屋敷はもう全壊していた。



「おいプロ助! どうすんだよコレ! つーかなんでこの世界に伊織がいるんだよ!?」


「わ、わたしはお前を反省させようと思ったんだ!」


 と、プロ助。



「人を操ってカジノを作らせて試したが、ちっとも反省していなかった! だから……」


 アレもお前の仕業かよ! どこまでも手間のかかることを!



「ゆうを反省させるには、もう伊織を来させるしかないと思ったんだ!」


「飛躍しすぎだ! なんで伊織が出てくんだよ! あいつの性格分かってんのか!?」


「しょうがなじゃないか! 私もここまでとは思わなかったんだ!!」


 プロ助のおかげで体が動くようになり、庭の隅に避難した俺たちは、そんなことを言い合うが……




「このぉ! どうして死なないの!! お前なんか、ゆーくんのこと何も知らないくせにっ!!」


「他人の家に無断で入ってきたと思えば、家人を殺しにかかるだなんて……なんて野蛮で非常識なメスでしょう。あなたのような人が傍にいると、ユウ様の品位まで疑われます。貴女こそ消えなさい」




 すぐにそんなことをしている場合ではないことに気づいた。あとエマの言葉はブーメランだ。


「……これ、どうやって収拾つけんだよ」


 修羅場や。それも、とんでもない規模の。最強の魔法使いと、我が親愛なる元カノが対等に渡り合っている。



「プロ助。お前、伊織に何した?」


「〝ゆーくんを守る力が欲しい〟って言うから与えた」


「仮にも愛の女神が武力をホイホイ与えんなよ」


「女神だから人間の願いを叶えてやるんじゃないか!」


「じゃああの二人を止めてくれよ!」


「無理今間に入ったら死んじゃう」


 はーつっかえ……


 くそっ! 女神(笑)が役に立たないから、俺が何とかするしかない!



「あー、君たち、いつまで争っててもキリがないし、近所迷惑だからそろそろ……って、あっぶな!」


 いきなり俺目がけて瓦礫が飛んできた。と思ったら爆発に巻き込まれそうになった。


 いくら体が強化されてるとはいえ、爆発に巻き込まれたら死ぬ!



「心配するなゆう! おまえにはわたしの加護がある! ちょっとやそっとじゃ死なないっ!!」


 と、プロ助が言う。……物陰に隠れながら。


 ケンカ売っとんのかワレ。




「あらあら、その程度ですか? 自称お嫁さんも大したことがありませんね。自分の実力も図れないなんて、本当に哀れなメスだこと

 そんなかわいそうなあなたに、いい物を見せて上げます。ほら、このネックレス、きれいでしょう? だれから貰ったと思いますか?

 そう、ユウ様です。これこそ、あのお方が私を愛してくださっている証拠です」



「!!?? うるさい! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさぁあああい!! そんなはずないっ!! お前もう喋るなその薄汚い口を閉じろぉっっ!!!!」



 マズい。伊織が爆発寸前だ。


 あいつがこれ以上キレたらどうなるか、俺はこの身を以って知っている!



 見れば、二人はなんか魔力を溜めてる。互いに大技を放つ気だ!


 もう、なりふり構っていられない!


 こうなったら……



「二人を止めるぞ! プロ助、協力しろ!」


「ゑ? わたし!? いったい何を……」


 混乱するプロ助。だが説明する時間さえ惜しい。俺はプロ助の首根っこを掴むと……



「いってこいっ!!」


 ブンッ!!


 二人の間、攻撃の直線状にむけて、プロ助をぶん投げた。



「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」


 涙を靡かせながら飛んで行ったプロ助は、




 チュドーーーーーーーーーーーーーン!!




 きたねえ花火だ。



「「っ!!」」


 エマと伊織は、突然のことに呆気に取られているようだった。



 ――計画通り。


 俺はこの隙を逃さず、伊織の背後に回り込み……高く跳躍、後ろから抱きしめてやった。



「ゆ、ゆーくんっ!? どっ、どうしたの急に!? 離れてないと危ないよ……」


 伊織はさっきまでの激しい声から一転させ、親が子供に言い聞かせるような、優し気な声で言う。


「伊織、もうやめてくれ」


 俺は伊織の耳元で、悲しげに囁く。



「もうこれ以上、伊織が争うところを見たくないんだ……」


 甘い声で続けると、伊織は混乱した様子で、


「で、でもでも、ゆーくんっ! 危ないよ! ここであの女殺しておかないと……」


 正直、エマよりお前のほうがよっぽど危ない。が……



「でも、このまま戦い続けたら伊織が危ないよ」


「私はどうなってもいいの! とにかくあいつを……」


「じゃあ、伊織の代わりに俺が戦うよ」


「! ダメだよそんなの! 危ないじゃん! ……あっ」


 そこで、伊織は何かに気づいたように声を上げた。



「そっか……ゆーくんも、私を心配してくれてるんだね……」


 俺は答えずにぎゅっと伊織を抱きしめる。


「ゆ、ゆーくん……」


「さあ、いい子だから。安心して」


 そっと背中をさすってやると、伊織はゆっくりと眠りに落ちていった……

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