星は降るんじゃない、そこにあるんだ

樹 亜希 (いつき あき)

惑星いもむし

「おはよ」

 美里は友人の馨(かおる)に声を掛けられた。

 私たちは現在惑星IMOに居住する特殊作戦任務の為に、日夜勉強と、トレーニングの毎日だった。

「おはよう、なんだか変なところが痛い」

「変なところ? 昨日の訓練でベルトが太ももに食い込んだだけでしょ? それともなにか思い当たることでもあんの?」

「嫌だ。その目、なによぅ」

 美里は人より座高が人より高い、なのでシップのベルトがどうしても股間に食い込んでしまう。もうすぐRISPA09に出撃する時が迫っていた。訓練がハードなのでそれもしょうがないことだった。強いGと正確な射撃のシミュレーションは限界まできていた、それだけ時間がないということを示す。だから肩と腰はいつもパンパンに張っているけれど、辛いとか辞めたいと弱音を吐くものなどはいない。いつも前だけを、未来を切り開くことだけを考えていないと頭がおかしくなりそうになる。

「学校に行かずにこのまま、カフェに行こうか。勉強なんてする必要ないでしょ」

 馨はひらひらと手を振った、この手が舟のレバーを握ると只者ではなくなる。男顔負けのミサイルの連射と独自の飛行センスを誇る。黒い瞳が大きくまっすぐに見るので視線が強く、私を射貫くように感じる。

 私たちは次に人類が居住できそうな惑星に出撃して先住生物の駆除をして回る。

「もう、単位がどうのこうのなんて関係ないし」

 美里は制服のスカートを翻すと、路地の右に曲がった。反対の腕は馨の腕と絡んでいる。その視線の先には、友人の谷崎遥(はるか)がいつものカフェのオープンテラスで朝日を浴び左手を挙げた。

「よお!」

「アイ! あんた、元気だねえ」

「あんたはないだろう」彼の友人の恭輔はクロワッサンをくわえて、話すので口から飛び散り汚い。

 美里は恭輔の頭をぽんと叩いた。

「食べながら喋ってんじゃない。お母さんがいたら怒るよ」

 この恭輔もターゲットへの的中率は89%を誇る、この隊の中ではスナイパーとしては一流だった。この四人は平均90%以上のエリートだったので、授業をサボっても教官たちは何も言えないのだから調子に乗って時々馬鹿をやって気を紛らわせている。


 この荒んだ世界の中で、地球を捨て去り早く移住できる星を探すこと。それが年老いた大人たちの中で取り決められた真実、一部の人間しか知らない、不都合な真実だった。そんなことを知りながら親と引き離されてこの惑星につれてこられたIQ180以上で身体能力の高い高校生は世界から集められていた。その中の僅かな日本人は自ずと仲良くなっていくうちに、次第と親密になり、最期は別の星へと出撃して戻るものは一人、もしくは二人ほどだが、誰もその名前を知らない。


「これ!」

 遥と美里は同じ野菜サンドを指差していた。店員はAIロボでただのボードを載せた動くものはみな同じタイプの胴体を持つ。トレイに同じものが並んでいた。

 あ、この前はアーモンドパイだったのに、もう品切れとは。今朝は野菜サンドを選んでいる。

「あ、また一緒だ。これだとシェアできないね」

 オレンジペコの紅茶も同じものだとお互いに知っている。ふたりの好みは類似していた。こんな偶然あるかと思うほどでいつも下を向いて笑う。

「あと少しだな、この惑星イモムシも……」

 遥は美里に笑って言った。確かにここはIMOという惑星、私たちはイモムシとよんでいた。だがあと少しすれば……。地球の次の第二の故郷ということになる。

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