Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。

右薙 光介@ラノベ作家

第1話 離脱と邂逅

「本日をもって、俺はこのパーティを抜けさせてもらう」


 俺の言葉に、浮かれたざわつきが消えた。

 記念となる祝いの席で言うべきではなかったかもしれない。

 だが、もう我慢ならなかったのも確かなのだ。


「一応、理由を聞こうか? ユーク」

「報酬の分配に関して不満がある。これについては何度も話しただろ?」


 パーティリーダーである『騎士』サイモンに、今日の報酬が入った袋を取り出して見せる。

 つい先ほど、今回の依頼の報酬として渡されたものだ。


「少なすぎる。これじゃあ赤字だ」

「僕たち冒険者はパーティを組んでいても、それぞれ個人だ。活躍に応じて報酬が増減するのは当たり前だろう?」

「そうだぞ、ユーク。お前、全然戦闘もしないし、ちょこちょこアイテムを使うだけじゃないか。むしろ報酬があるだけありがたいと思えねぇのか?」


 サイモンに同意するのは、『戦士』バリーだ。

 分配された報酬はおそらくサイモンに次いで二番目に多いはず。


「〝配信〟の準備くらいじゃない? 役立ってるのって。それだって別に誰でもできることだけどねーきゃははは」


 酔っぱらってそう笑うのは魔法使いのジェミー。


「正当な報酬を得るには、正当な働きをしなくてはなりませんよ、ユーク。もっと努力してパーティに貢献すればよいのです」


 カミラ……正論のように言ってるがな、俺のサポートを一番受けてるのは『僧侶』の君だと思うぞ。


「ウチを抜けてどうすんの? 他でなんてやっていけないよ? ユーク。今だって幼馴染のよしみで『サンダーパイクうち』に置いてあげてるだけなのに」


 心底同情した目で俺を見るサイモン。

 意識的なのか無意識なのか、相変わらずの上から目線。


「つまり、俺がいなくても困らんのだろ?」

「別に困らないけどさ……」


 若干の歯切れの悪さ。

 雑用を押し付ける相手が居なくなって困る、程度の認識なのだろう。


「なら、ここで俺は抜けさせてもらう。じゃあな」

「泣いて戻っても、もうお前の席ねぇからなー! ぎゃははは」

「ばいばーい! もう帰ってこないでねー! きゃははは」


 バリーとジェミーの声を背後に受けながら、席を立つ。


「それで本当にいいのか? 今なら冗談で済ませてやってもいいんだぞ?」


 そう告げるサイモンに、俺は中指を立てて応える。


「やってられるか!」


 こうして俺は、あっさりと五年間を共にしたパーティを抜けた。



──翌日。


 普段通りに起きた俺は、仕事を探して冒険者ギルドへと向かった。

 酒場兼食堂の大型魔導スクリーンには、現在配信中のパーティによるダンジョンアタックが映し出されている。昨日は俺もあれに映っていた。端の方だけど。


 冒険者の発信する〝冒険配信〟は、今や世界の一大コンテンツだ。

 ダンジョンアタックの生配信を見るもよし、映像編集された攻略解説配信を見るもよし、それこそ料理や薬品合成の配信をしている者もいる。

 数年前にそれを可能とする魔法道具アーティファクトが開発され、急速に普及してから、冒険者たちはこぞって配信を行った。


 なぜか?


 いい配信は、いい宣伝になるからだ。

 有能なパーティには依頼が殺到するし、いい働きをした個人なら王侯貴族からのスカウトもありえる。

 また、売れっ子の冒険者に自社の商品を使ってもらえれば、商店やメーカーは容易に利益を上げることができたし、宣伝料として利益が冒険者にもたらされることも多い。

 そのため、トップパーティは配信用の専用人員を雇ったりすることもあるようだ。


 まぁ、『サンダーパイク』でその役回りをやらされていたのは俺だけどな!


「あら、ユークさん。こんにちは。今日はどうなさいましたか?」


 カウンターに近づくと、受付嬢のママルさんが微笑んで迎えてくれた。


「仕事探しと求人登録に」

「求人登録? 『サンダーパイク』に登録されていたはずでは?」

「昨日付で離脱しましたので……」

「あら、まあ」


 ママルさんが口元を抑えて苦笑する。


「いろいろありますからね。では、こちらの用紙に記入をお願いしますね」


 差し出された用紙の必要事項にペンを走らせる。



名前:ユーク・フェルディオ

年齢:20歳

性別:男

職種:赤魔道士/錬金術師

冒険者信用度スコア:Bランク

特技および特記:

強化バフ弱体デバフ、アイテム使用によるサポート。

中衛可。〝冒険配信〟の撮影・編集可。ランク差による参加制限なし。



「……っと。こんなもんかな」

「相変わらずきれいな字ですねぇ」

「錬金術を使う時は文字の正確さも必要なので」

「さすがです。では、これを求人掲示板に出して──「あー! 先生だ!」」


 ママルさんの言葉が終わる前に、何者かがカウンター前に駆け込んできた。


「フェルディオ先生! 何してるの?」

「ん? おお、マリナじゃないか」

「マリナです!」


 快活な笑顔で笑う赤髪の少女。

 半年ほど前に俺が小銭稼ぎに受けた冒険者ギルドからの特殊依頼……新人に冒険者のイロハを教える、『冒険者予備研修』で担当を受け持った新人冒険者の一人だ。

 たしか、パーティは少女ばっかりの三人組で、筋はなかなか良かったように記憶している。


「なんだ、少し背が伸びたか? 怪我はしてないか?」

「大丈夫ですよ! シルクもレインも元気です」

「そりゃよかった」


 冒険者のは高い。

 危険な仕事であるが故に、気を抜けばあっという間に職を失うことになるのだ……時に、命ごと。


「それで、なにしてるの?」

「パーティ探しだ」


 書いた求人票をひらひらさせて苦笑する。

 望んで離脱したが、あまり元教え子に見せたくない姿だな、これは。


「え、じゃあ今フリーなんですか?」

「ああ」


 俺から求人票をひったくって、マリナが俺を見る。


「じゃあ、うちのパーティとかどうですか!?」













(あとがき)

第一話をお読みいただきまして、ありがとうございます!

本作品はマガポケさんでコミカライズもしておりますので、よろしければそちらもチェックしていただければ!



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