第19話 拐われました


 突然だが、現在俺は…知らない奴等に捕まり黒いワンボックスカーか入れられ、何処かに郵送中だ。


 逃げ出そうにも、左右から黒服の男に挟まれ…身動きがとれない。


 何故こうなった? つい1ヶ月くらい前までは、どこにでもいるような平凡な生活をしていたのに…。


 いったい何処に連れて行かれるんだろう…。


 まさか、マグロの漁業船で強制的に働かされるとか? それとも、強制的に内臓を取られて売られるのか?


 そんな嫌なイメージばかり、浮かんでしまう。


 そんな事を考えていると、車が止まった。


 すると、左に座っていた男が降り、右に座っていた男が俺に降りるように押し…抵抗もしないで降りると、そこには昨日の夜に配信していた梅1.00ホーチュンスの正体 初音 優衣がいた。


 「お前が原因か…」


 「あっ…遅かったじゃない」


 「人を誘拐するように、車に連れ込んでおいて、第一声がそれか?」


 そう言うと、狼狽たように眼を回し始めた。


 「え? え? 誘拐? 私は急いで彼を連れてきてとしか、言ってなかったけど…」


 「それ以外、原因はねぇだろ…」


 もう、何なのコイツ…。


 「えっと…ごめん?」


 「はぁ…それで、誘拐まがいな事をしておいて、何のようだよ」


 流石に、くだらない用じゃないだろうな?


 もし、くだらない事だったら、いい加減にキレるぞ? いや…キレてもいいのか。


 すっかり、嫌われる事を忘れてた。


 いや、でも前はキレても効果が薄かったんだよなぁ…どうすればいいんだ?


 「えっと…ね、急に時間が空いたから一緒に何処かに行かない?」


 生まれて初めてのデートのお誘いがこれなのか…。


 本当に、人生色々だな…。


 安曇が遠い眼をしていると、初音が不安そうに両手を動かし…勇気を振り絞って手を握った。


 「ほら! 早く行くよ! 時間は限られているんだから!!」


 「ん? お、おい! って危な!?」


 手に違和感を感じると、直ぐに引っ張られ…転びそうになるが、何とか体勢を立て直した。


 文句を言おうと…口を開くが、前を歩く初音の両耳が赤くなっているのを見て、口を閉ざした。


 これだけの事をされれば…初音が本気だと嫌でも理解できる。


 …本当に何で俺なんだろうな。


 初音の容姿や、仕事なら…俺よりも良い人なんていくらでもいるだろうに。


 ここまで、されたら俺も本気で答えたいとも思う気持ちはある。


 …でも、初音の仕事はVtuberだ。


 もし、彼氏ができた事を発表したり、顔バレして、彼氏がいることがバレたらしたら間違いなく…人気は落ちていくだろう。


 それに、俺の予想だが…初音は恐らく顔出しになる確率が高い。


 会社側としても、容姿がいい人を表に出して…会社を大きくしたいと考えるのは当たり前だと思う。


 そうすると、必ずどこかで俺と一緒にいる所を見られる事になるだろう。


 そう考えれば…結局、辿り着く答えは1つしかない。


 初音とは、キッパリと関わりを断つ事だ。

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