第7話 真相
夢を見た。
随分と風変わりした、同じく禍々しい凄惨な血にまみれた悪趣味な夢。
地に伏せる死体は何も無く、全員が立ち上がりこちらへ向かってくる。
これが悪い夢なのか、それすらも良く分からなくなった末路の光景。
「..大丈夫?」
必然と無意識の内に私は、とある場所へと足を運んでいた。空いた隙間と、頭のモヤを晴らす口実として。
「大崎さん..良かった、生きてる」
笛吹くん..元気そうだね。
話したくないかもしれないけど、教えてくれないかな。教室での出来事」
「..そうか、君はあの場所にはいなかったんだもんね。」
病み上がりの身体をゆっくりと起こしつつ、笛吹は静かに口を開いた。
「君たちが出て行ってから暫くは普通に時間が流れたんだけど、六時限目が終わり放課後になる夕方だよ。」
「夕方..」
〝例のアイツ〟が現れたという事だろう。突発的に、前触れも無く。
「彼女は自分でベロニカと名乗り、端から次々と生徒を殺していった。」
武器を持たず見つめる事で、一人一人を破裂させるように血溜まりに変えていったらしい。
「その女は何処から出てきたの?」
「桶崎さんの中からだよ」
「えっ..!?」
単純な疑問としての問いだった。
しかしこれが更に事態を困惑させる要因となってしまう事になるとは思ってもみない事だ。
「突然声を上げて発狂して、そしたらベロニカが出てきた。破裂した、血溜まりの身体の中からね」
その後ベロニカは、委員長である笛吹だけの意識を残して他を眠らせた。
「彼女は僕を委員長だと知っていた、多分桶崎さんの中から見てたんだ。」
「何か、言われなかったの?」
「..忠告を受けたよ。」
耳元で笛吹にのみ囁いた言葉、それは想像も絶する事柄だった。
「貴方が元気になった頃、残るクラスのお友達を一日に一人ずつ殺していくと。死にたくなければ、これから絶対に〝私のことを忘れない事〟だ」
「私の事を忘れない事..。」
惨劇に猶予を持たせれば、人はそれを直ぐにでも忘れようとする。それを止める事に意味でもあるのだろうか。
「ベロニカは、また誰かに入り込んで僕達を見て眺めるよ。..誰も心から信用しちゃダメだ、当然僕も」
人の恐怖や不安に巣喰う
もしそれが本当で、クラスの誰かになり代わっているとすれば、生き残ったクラスメイトには何らかの〝恐怖〟もしくは狂気を帯びた〝不安〟が存在する事になる。
「敢えて私たちを残したんだ..!」
「え?」
「愉しむつもりなの、その女は。
より深い恐怖や不安を持つ人間を残して優雅に傍観しようとしてる。」
大半の生徒を突発的な恐怖を与え殺し残る上質な恐怖を残して笑う。
ベロニカという女は心底性根が悪い。
「笛吹くん、やって欲しい事がある」
「なんだい?」
「生き残った子たちが目を覚ましたら過去の悲しい出来事を聞いて回ってほしいの。残された人たちは多分、皆何かを昔に無くしてる。私も過去に両親を失ってる、ベロニカはそんな出来事に絶対に関わりを持ってくる。」
もし仮に、ベロニカが住み着く家が恐怖の度合いで決まるなら、聞き出した過去の中から最も大きな出来事の中に潜む筈。それが例えば自分でも、誰かが過去を知っていれば警戒心を向けてくれる。僅かな予防ではあるが、何もしないより余程マシだ。
「わかった
皆が起き次第やってみるよ」
「お願い、私はやれる事をやってみる
..先ずは榎木さんに話を聞こうかな」
各々の役割を約束し、別れた。
笛吹は病院で待機
陽奈は一先ず、知り合いの刑事に関連する話を聞かせて貰う事に。
「お父さんお母さん、待ってて。
必ず本当の事を教えてあげるから」
総ての事柄がすっきりとして身軽になったとき、見えざる者は寄り添い味方をしてくれるだろうか。それがまた新たな恐怖や不安となり、蝕む事がないように祈りたい。
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