第4話 幕開け

 学校には、直ぐに警察が来た。

私たちは帰宅を促され、早く帰宅する事になった。


「自殺..ですか?」

「もしかすれば、そうかもしれない。

昨日同級生の恋人が亡くなって、それで心に深い傷を..」

「北井、雄吾さんですか..。」

担任が状況を説明している、自分の保身の為か世間体か。確実に自分の為に話をしている、人の事など二の次だ。


「続けて生徒が二人も死亡、決して穏やかとは言えませんね..。」


「あ、現場みっーけ!

先生もいるねー、あったりー!」

「ちょっとやめなよ..。」

私は真っ直ぐ帰りたかったけど、また厄介な奴に捕まった。

「騒がしいですね、なんでしょう?」

「…うちの生徒です。」

私だって本意じゃないんだよ?

..でも言葉の通じる相手じゃないの。


「友達の寝姿見に来ました!」

「不謹慎な事を言うな..。」

怖いのはその一言に担任が何も言わない事だ、心が無いのか。


「あれ..君、陽奈ちゃん?」

「お久しぶりです..。」

ここで会ったが..二度目か、少ないな

以前両親が失踪したときに家に来ていた刑事さん。名前はえっと確かぁ..

「榎木..さん?」

「そう、榎木章太。

元気そうだね..って今言えないか。」

私の周囲にいる、多分唯一まともな人だと思う。..多分だけど。


「え〜なに〜?

もしかして彼氏かな、キャッ!」

少なくともコイツよりマシ。


「ははっ、面白い子だね。

以前少し仕事で関わりがあったんだ、本当は僕となんか関わり無い方が平和でいいんだけどね..。」


「……」

切ない顔をして、遠くを見つめてた。

しっかりと慈悲がある優しい人なんだどこかの教師とはまるで違う。

「でさでさ〜、皐月ちゃんは〜?

どこね〜皐月ちゃん!」

区切るように貼られた黄色いテープを剥がさんばかりにはしゃぐ瑠夏を掴んで私は退がっていった。周囲の迷惑うんぬんよりも、早く家に帰りたかったからだ。誰もいないけど。


「さよなら榎木さん、お疲れ様です」

「あ、うん。気をつけて帰ってね」

何気無さ過ぎる会話だけど味方だと言う事が伝わった、少し嬉しい。


「…健気な子ですね。」

「大崎ですか?」

「あの子には、余り悲しい目に遭ってほしくは無いんです。」

両親は不可解な死を遂げていた。

彼女の心情を考え直接伝える事は無かったが、母親の大崎悦美は突然発狂し家を出た後数メートル離れた森の中でバラバラにされていた。意図して解体された物では無く弾けたような肉片となって血溜まりになっていた。

父親の大崎隆一は家から随分と距離をとった河原で焼け焦げた骨が発見された。遺体や周囲の形跡から、焼身したものと思われる。


「面談や参観日にどちらもお会いした事が何度かありますが、いたって通常の親御さんでしたよ?」


「..ええ、だからおかしいのです。

いたって普通、家庭にも問題は無かったのにも関わらずお二方の死因はまるで〝狂人〟だ。」

あり得ない死に方あり得ない奇行、人間性や精神を考えてもするとは思えない行動をして死にまで至っている。


「それに今回の出来事だって変だ」

「北井に渡邊..。」

渡邊皐月に至っては多少は要因が伺える、しかし北井雄吾は身体を崩す要因を持たずに死亡した。偶然と呼ぶには余りにも不自然が絡みつく出来事だ。

「まさかとは思いますが..」


「なんです?」

事実を追い求め証拠を集める榎木が、肩書きらしからぬ言葉を口にする。


「..迷信は余り信じないのですが、先生はご存知ですか?

〝ベロニカ〟という女の存在を。」


「ベロニカ..?」

「街に蔓延る噂話です。人々の心に巣喰い、奥底の不安や恐怖を体現させやがて焼き切って殺してしまう。」

紫色の髪をして、怪しく微笑い、目を見ると気が狂い身体を乗っ取られてしまうと言われている恐怖の権化。


「おとぎ話か何かですか?」

担任は唖然とし呆れた目を向ける。


「ははっ、バカバカしいですよね?

..少し疲れてるのかな、帰って資料まとめてみます。」

ため息を吐きながら車に乗り込み担任に別れを告げた。死体を見たのだ、刑事といえど疲労は募る。無理もない。

「..駄目だな。

強く気持ちを持たないと、頑張ろう」

見える物を信じる。

隠されたものが透けて見えるまで、刑事は形あるものを見続けなければいけない。酷だがそれが仕事なのだ。


「え〜もう帰るの〜?

どこかに行こうよ〜、ねぇ〜!」


「行かない。

真っ直ぐ帰るの、絶対行かない。」

人の死後にパンケーキなんか食えるか

どういう神経してんのよ。

「私は家で一人でラーメン食べるの」

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