第3話 渡邊 皐月

 なんだよ、次の日には普通に登校してるじゃん皆。


「白々し..」

何とも思わない訳じゃないんだろうけど、学校休めばいいのに。

「そしたら急遽休みになるかも」

っと、こんな事考えちゃいけないわ。


「あ、皐月..おはよう。」

「……」

来てるし、案外平気なの?

昨日式場であんなに騒いでたのに。


「おはよう、今日いい天気だね!

何か良い事あればいいなぁ。」


「そ、そうだね。

元気そうで良かった..」

友達引いちゃってるけど、まぁ元気ならいいか。思ったより強い子だ。

教室は皆普段と同じ、同じく無理してしてるのか。よく分からないけど通常の形を保ってる。


「おはよう陽奈ちゃ〜ん!」

コイツもいつも通り

勝手に下の名前呼ぶなっての。


『キーンコーンカーンコーン..』


「はい皆席に着けー。

ホームルーム始めるぞ」

チャイムが鳴った後も同じ、またいつも通り。変わらずの日常だわ。


「皆も知っている通り、思い出したくもないだろうが北井が死んだ。」

この教師は割と簡単にこういう事を言う、あくまでも職業の教師だって言う事だと思う。

「思い出したくも無いとは思うが、決して忘れてもならない事だ。死の原因は詳しく分かっていないが、警察の方は〝急死〟としている。」

健康な人が急に倒れて息が無いんだ、確かに急死だよね。


「皆まだ受け入れる事が出来ないと思う。親御さんだって頭を抱えている様子だ、身近な人は慌てる事だろう」


「‥お前は冷静だけどな。」

私も人の事言えないけど、そういえばあの担任葬式来てなかったな。


「渡邊。」「……はい!」

北井の彼女でありクラスの中では一番身近で会ったであろう生徒。

帰り道は常に一緒だったし毎日弁当を二人分作ってた。絵に描いたようないわゆるの〝ラブラブ〟ってやつだ。

「辛ければ早退していいぞ。

..無理に授業を受ける必要は無い、出席単位は気にするな」


「……」

なんだ、思ったより教師じゃん。

生徒になんて興味無いと思ってた、たまたまの気まぐれかも知れないけど。


「帰ってもいいんですか..?」

「ああ、いいぞ。」

涙を浮かべて問いかけた。

やっぱり無理してたみたいね、全く元気じゃないみたい。泣きじゃくって声上げて、その場に膝をついちゃった。

「皐月..。」

友達が心配してもお構い無し、泣きじゃくり声を上げている。


「‥アハッ♪」「……?」

おかしい、泣き声が徐々に高らかに明るさに満ちていく。暫くして漸く分かった、これは笑い声だ。


「アハ、アハハハハ!

せんせー心配しないでよ、見ての通りアタシ、元気だからっ!!」


「皐月..?」

腕を広げてくるくると廻り踊り始めた

笑いながら、顔は希望に満ち溢れ高揚した目つきをしている。

「..渡邊、気持ちはわかるが無理をするな。お前は休んでいい」


「休む!?

ダメダメ、勿体ない!

あたしにはこんなに綺麗な羽がある!

見てて、今飛んで見せてあげるっ!」

教室の窓を開け縁に脚を掛ける

そのまま踏み込み大きく跳び上がる。


「渡邊!」

「皐月何してんの、皐月っ!」


「私は鳥…自由な鳥よ..!」

恍惚の表情で手を広げた皐月は、勢いよく真下へ落ちコンクリートに打ち付けられた。鈍い音を立て血飛沫が飛ぶ自由な鳥は、羽をもがれた。


「ウソでしょ..⁉︎」

担任と友達は腰を抜かした。

残る生徒は悲鳴を上げ驚嘆する。

このクラスで、二人目の死者が出た。


「救急車、救急車を呼ばないと..!」

私の予想は苦しくも当たってしまった

あれだけでは終わらなかった

寧ろ何かが、始まった気がした。


「あー、痛そうだね〜。

頭打ったら痛いよね、当たり前かぁ」

窓の外を覗き込んで瑠夏が言う。

「窓閉めな、見ちゃダメだよ」


「えーなんで〜?

こんなの滅多に見れないよ。ほら、こっち来て一緒に見よ、ひーなちゃん」


「……。」

この子はいつも調子が狂う。感覚が薄く延びるように、良し悪しがまるで分からなくなってしまう。


「..ねぇ、あなた何者?」

「わたしはわたしだよ。

よく知ってるでしょ、わたしのコト」

本当の恐怖はいつも身近にあって

それが遠くに言ったと分かる頃にはもう遅い。その近くにいるモノに、知らずに全てを奪われたという事だから。

「私は誰にも何も奪わせない。」

心の中で静かに、そう唱えてるしかなかった。

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