第4話 うさぎ餅つき捕り物帖

みたらしの瞳は、キラキラ輝きながらお月様を捉えています。

狩猟の目つきでは御座いません。

恋文をしたため、想いにふける歌人か文士か。

雑種猫なのに品がある。そんな猫でもありまして。


「ほら、見てごらんよ、お月様のおめかし、今日は誰かと会うのかなあ」


いちいち言うセリフも、世間様とは毛色が違うようで、周りはあっけにとられる事もしばしば。

しかし、雪之丞はその扱いに慣れています。

いつも一緒ですから、トリセツはちゃんと頭に叩き込んであるわけです。


「いつもと変わらないわよ」


「そうかなあ、だけどほら、今日のお餅はとびきり美味しいやつ。あんこいっぱいだよ」


「うさぎの餅つきね。だけどあれはただの影」


「そうかなあ」


みたらしはまたもや、カリカリカリカリ窓を引っ掻き興奮状態。

対する雪之丞は。


「そうよ」


とだけ言うと、ぷいっと踵を返して、再び愛する男の胸元へ潜り込んだのでありました。

餅つきぺったん、ぺったんこ。

どうにもいけません。

月面で餅をつくうさぎが気になり始めたみたらしは、神ねこ主様に聞いてみたくなりました。

矢も盾もたまらず、出窓のデッキからひょいと飛び降りると、ベッドを見上げながら雪之丞に猫パンチ。

無論、爪は引っ込めてあります。


「ねえねえ」


「なによ」


「集会行こうよ」


「イヤよ」


「お餅についてさ、みんなで語ろうよ」


「イヤ、月にあるのはクレーターと、星条旗と足跡だけよ。それ以上でも以下でもないわ」


雪之丞、これまたクールにニャンモナイト。

みたらしは諦め切れずに猫パンチ。


「行こうよ、雪之丞ったら」


「イヤ、外は暑いもん。クーラーで快適なのに、わざわざ外に飛び出すなんて、結構毛だらけねこ灰だらけ」


「ねえねえ」


「イヤイヤ」


「ねえねえ」


「イヤイヤ」


「ねえってばあ」


折れぬ乙女にすがる若人。

連れて逃げてよ、着いておいでよ。

誰かに取られるくらいなら、あなたを殺して良いですか?

猫の世界も人様と同じで御座います。

千差万別悲喜交交に。

業を煮やしたみたらしは、思わず爪立て猫パンチ。

これには雪之丞、怒り狂うがあまりにシャアシャアと、これまた猫パンチの応酬であります。


想像してください。

草木も眠る丑三時。


寝ている側で、猫同士がシャアのシャアと殴りあい。ついでに鈴もちりんちりん。

流石の翔也も起き上がる・・・素振りもなく、軽く手のひらで、雪之丞を追い払うだけの度量でもって夢うつつ。

よ、御曹司。

すってんころりん恋する乙女、哀れな姿で訴えますが。


「!ッ◯☆!!□〜!ギャ!*♫!ー!?」


もう訳がわからない。

そら逃げろ!

と、尻尾を丸めたみたらしは、流星の如く猫扉を潜り抜け、部屋を飛び出し大脱出で御座います。

逃げるみたらし。追う雪之丞。

銭形平次も顔負けの、捕り物劇のはじまりはじまり。

ここは東京下町・柳ねこ町3丁目。

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