第28話:ハイパーブースト


チロは毎朝郵便受けから新聞を持ってきてくれる、ヨダレでベトベトで歯形がバッチリ入ってるけど。

チロは乾いた洗濯物に鼻を突っ込んで、シッカリ乾いてるか確認もしてくれる。

結果はあれだけど、手伝ってくれる気持ちが嬉しいから叱ったりしない。


今は意思の疎通が出来るんで、同じ間違いをしないために注意すべきことを教えておいた。

チルのシッポが下がりまくってるけど大事なことだ。


「 グレイ様、荷車が横転しても飛び降りるからご心配なく 」


「 いやいや、ドリー達は大丈夫なんだろうけど、俺が荷物で潰されるからね? 」


「「「 !!! 」」」


荷車が壊れた瞬間に俺の機力の効果が切れるから、荷物が全部すっ飛んでくると思うんだが、全員気が付いて無かったのか。


「 ・・・・・・ 」


チルが固まってるから頭をワシワシしておく。


「 チルが、お手伝いしてくれたのは判ったから。 でも、練習が必要だな! 」


停止状態なら機力は消費しないし横転の危険もない、それに体力バッチリのチルが曳いて俺が機力を込める方式なら、もっと長距離をもっと速く走れそうだし。

いろいろ試してみるべきだ。


「 はい! マスター 」


チルのシッポはブンブンだ。



だったんだが静止状態での練習は上手くいかなかった、一緒に動かす練習だから静止状態は不味かったか、ちょっと反省。


「 チル! どんな感じだ!」


「 バッチリです! もっとスピード上げても大丈夫そうです! 」


微速前進で練習を始めたたら、チルは直ぐにコツを掴んだみたいだ。


「 判った、スピード上げるぞ! 」


馬車のスロットルを開け(イメージだ)込める機力を増やす、少しだけ歩幅を広くして少しだけ脚に力を入れる。

荷馬車のスピードは直ぐに上がるが振動はない、チルは上手く同調してくれてるみたいだ。


「 チル! もっと上げるぞ! 無理そうなら何時でも機力を抜いて良いからな! 」


「 判りましたマスター! 」


俺は更に機力を込め、力を入れて地面を蹴り始める。


_________________________



エージェントの使命はマスターを守ることなのに、もう少しでマスターにケガをさせるカモでした。

荷物が全部マスターにぶつかったら・・・・・・想像しただけでチョット涙が出ます。

ドリー神官長が居てくれるんで、ケガは直ぐに治せますが。

『 練習しよう! 』 ってマスターは言ってくれるけど、ケガをさせてしまわないか心配です。



最初は上手く出来なかったけどコツが判ったら簡単だった、大切なのは一緒に走る事、マスターと一緒に行ったお散歩と同じ。

マスターの歩くスピードを感じ、マスターの足音を聞いて、歩くスピードを決めるだけ。

マスターの持ってるリードを引っ張らない、たるませない、ちょうどいい長さをキープする、マスターと一緒に歩いてる感じがとても楽しいあの感じ、一体感です。


荷馬車でも同じ、マスターに合わせて、マスターと一緒に機力を込めればいいんです。

うっすら白く光ってる荷馬車に、私の機力を込め始めると青い光が散っていきます。

機力を増やしていくと白に青が混ざって、荷馬車が青白く色を変えると荷馬車のスピードが少し速くなりました。


『 チル! うまくいってるじゃないか! 』


「 マスター、まだまだ大丈夫です! 」


風の音がウルサイけどマスターの声は聞き逃しません。


『 スピードを上げるぞ! 』


「 判りました! 」


マスターが荷馬車に込める機力を増やしました、私も一緒に増やします。

またスピードが上がります。



『 もっと飛ばすぞ! 』


「 いけます! 」


マスターの機力が凄く増えました、私もそれに合わせて機力を込めます。

それまで耳元で聞こえてきた風の音が消えました、風景がフッと止まったと思ったら、次の瞬間物凄い勢いで流れ始めます。


『 凄いぞチル! 』


青白く光り始めた荷馬車が、マスターの導きで走り続けます、荒れ地も関係なく、倒れた木も跳ね飛ばしながら。

だんだん楽しくなってきた! マスターと一緒に私も走ってる!


『 チル! これが最後だ! 』


「 はい、マスター! 」


『 行くぞ~、ハイパ~~~ブースト! 』


「 はいぱ? 」



意味は解りませんが、荷馬車は物凄い速さで走り始めました。

荷馬車のスピードが上がるほど、ワクワクも強くなります。

マスターとお散歩している感じが最高です!


「 にゃ~! 」


ふと見るとコイネもとても楽しそう、ドリーさん達は立ち上がって腕を振り上げてますね、あとでマスターに叱られますよきっと。


「 ワフ 」


「 どうしたニャ? おかしな笑いニャ! 」


「 なんでもないわ、とっても楽しいだけ! コイネも笑ってるよ! 」


「 ニャ? あれ? 」


マスターはスキップするように走り続けてます、あちらの世界では運動してないけど、スタミナは大丈夫なんでしょうか?


「 チル! 街が見えて来たニャ! 」


「 あ、本当だ! まだちょっとしか走ってないのに! 」


私より早くコイネが気付いてくれた、街が近づいたんで対向機車が増えてきたんで、そろそろスピードを落とさないと。


「 マスター! そろそろ次の街です! 」


「 ・・・・・・ 」


返事の代わりでしょうか、マスターは左手を上げてから機力を落とし始めました、私も機力を抜いていきます。


_________________________



気をつけてはいたんだが、最後の最後で油断して目にゴミが入った、スピードを落とした後だったんで良かったが、早いとこゴーグルを用意しないと。

あとマスクも、なかったらタオルで代用だな。


街に入る行列に並んで停止したらチルが飛び降りてくる、いつもの事だな。


「 マスター、最後は調子が悪くなったみたいですけど・・・・・・。 マスター! 」


涙と鼻水で凄い事になってるのは自分でも判る、ティッシュは無いよな。

タオルで拭いてから洗い流そう。


「 チル。 水筒を持ってぎてくれるが。 目にゴミが入った 」


「 これを使って下さい 」


タオルで涙と鼻水を拭いてから、チルが持ってた水筒を受け取って顔に水を掛けて洗う。

顔の次は目だ、水は樽で持って来てるから全身洗っても充分足りる、洗わないけどね。


「 風が凄かったな~、あれじゃあ目を開けてられないだろ! 」


「 最初は凄かったですけど、途中からは弱くなりましたよ? あ、タオルは洗っておきますね 」


汚れたタオルを渡して新しいタオルを受け取る、残った水を飲んでると荷台で踊ってるドリー達を発見、ディスコやクラブのお立ち台じゃないんだから。


「 ずっとああなの? 」


「 途中からですけど・・・・・・ 」


よし、後で蹴飛ばしておこう、その前に説教だな。

街に入ったら神殿直行して荷馬車を預ける、太陽の位置から判断してまだお昼前だけど、みんなで早めの昼食。

このペースなら、今日中に着けそうだ。

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