第20話:工房見学


エリザベートと、もう1人のばあちゃん マリアが働いている店で服を買った。

2人のばあちゃんは、マスターとしては俺と同期。 同じ日にこっちに来てる。


気に入った服が手に入ったんで満足なのだが、思ったより高くてビックリした。


「 マスター。 工房を見学するのはいかがですか? 」


「 工房を? 」


「 はい。 マスターも工房を経営されるかもしれないので、参考になるんじゃないかと思います 」


そう言えば、チルは工房の経営を勧めてたんだよな。 見ておけば今後の参考になるか。


「 そうだな。 そうしようか 」



店主に許可を取って、店の裏にある工房へ。


「 機織り機はたおりきが在るな 」


「 機織り機ですか? 」


「 そう。 機織り機は、布を作る機械だな 」


昔話に出てくるような、木製の機織り機はたおりき

糸を通してトントン、ペダルを踏んでギッタン、また糸を通してトントン。


「 時間が掛かるなこれは 」


糸がφ0.1mmとして、10回で1mm。

トントンして糸を詰める時に少し潰すから、12回で1mmとして、1cm織るのに120回、100cmだと12000回。

そんなのが10台並んでる。


「 服が高いのは、これが原因か 」


服が高い訳だ、手動で布を造ってるんだから。



「 見学かい? グレイ 」


「 邪魔するよ、ばあちゃん 」


9台の機織り機に、17人が付いてる。 ばあちゃん以外は、交代しながら織ってるみたいだ。

あと2人居るそうだが、機織り機が壊れててお休みなんだと。

とまってる1台は壊れてると。


「 最初はね、服を造ろうと思ってこの店で働き始めたんだけど。 布が高くてね、種類も少ないし 」


話ながらも手は止めないばあちゃん。 

他の人と比べると、10倍のスピードで布が出来上がってる。 はえ~。


「 機力持ちが織ると、何倍ものスピードで布が出来るんだよ。 それで--- 」



それで、エリザベートとマリアが交代で布を織ってるんだと。 凄いな10倍。

服を作ろうと思ったら、気に入った布が無い。 在っても、メチャ高い。

だから布から作ってると。


同期のマスターで、機力量が1番なのはマリア、もう一人のばあちゃんだ。

エリザベートは2番。


2人ともあっちでは、着物の縫製を長年やってたらしい。

んでも、人間国宝とか褒章とかは貰った事は無いそうだ。 腕は良さそうなのに。


国にとっての宝って、ばあちゃん達みたいな人の事を言うんじゃなかろうか。

美術的価値とか芸術性とかは無くても、作る事を追求し続けた職人。


褒章を得るためには、寄付金が幾ら以上必要とか、自治体の推薦が必要とか、条件が在るらしい。

単純に、稼げなかっただけって可能性は在る。

褒章を貰うには寄付金が必要って、変な国だよな。


それにしても、機力量トップ2が交代で布を造ってるとは。 ちょっと、もったいない。

他の人が、交代で織ってる事を考えると実質20倍なんだが、それでももったいない。


「 他の娘が織るとね、糸に傷が付いちゃうんだよ。 だから、細い糸で織る高級品は私とマリアで織ってるんだ 」


トントンする時に、トントンする板で糸を擦ってしまうと。 なるほどな。



「 せめて水車を使って楽できないのかね 」


「 グレイ、水車も ”機械” だってさ 」


「 水車を利用するアイディアは在るんだな 」


「 昔から在るみたいだけどね 」


アイディアはあるけど、水車も機械なんで動かすには機力が必要。

機力要員がず~~~と水車についていないと、動かないんだと。

水車と織機で2人必要になるんで、実用性が無いそうだ。


で、水車と織機を一体化すると、膨大な機力が必要になって誰も動かせなくなると。

マスタークラスなら動かせそうだが、それじゃ意味が無いし。


ばあちゃんの隣の機織り機は止まってる、ちょっと前に壊れたやつ。

新品の機械は高いんで、古いのを直しつつ使うとか。 んで、修理待ち中と。


「 ちょっと、やってみていいか? 」


「 やってみな。 面白いよ 」


「 面白くは無いだろ、大変だとは思うけどさ 」


何処が壊れているのか、さらっと見た感じ判らなかったんで、触ってみることにした。

トントンする板は問題無し、糸を上下するペダルは---動かないね。 これか。

椅子から降りて、ペダルの駆動系を見ていくが故障箇所は無い。

全部の部品が木で出来てるから、壊れてたら直ぐに判りそうなものなんだが。


「 どう言うことだ? 機械的には壊れていないのに動かない 」


ちょっと機力を入れて動かしてみるか。 椅子に座り直して、少しだけ機力を入れる。


「 まだダメか。 もうちょい 」


機力を少し多目に入れてみる。 ダメか。 もうちょい、もうちょい。

微妙な調整だ。


「 マスター光ってます! 」


何だって?

俺は光り輝くスター(心の中では)だけど、光ったりはしない。



「 グレイ、ちょっとお待ち! 」


「 どうしたんだ、ばあちゃん 」


「 そこを見てごらん! 」  そこって、どこ。


あ、これ。


「 光ってるね 」


_________________________



機織り機の一部が、光ってたんで作業を中止。 光りは徐々に弱くなってるけど。

何かが木の中で光っている。


「 もう、機力は入れて無いぞ 」 ちょっと言い訳しておく。


「 じゃあ、何で光ってるんだい? 」


「 それを聞かれてもな 」


一番太い木の、中央付近が光ってる。

LEDが仕込んであるのか? それとも、ギミックが発動して変形するのか?

個人的には変形は在りだ、他の人はどう思っているのか知らんけど。



「 掘ってみる 」


10分経っても光りが消えないんで、機織り作業は完全にストップ。

何とかしてくれと店主に言われたんで、何とかしてみよう。


チルからナイフを借りて、少しずつ木を削っていくと、光りも少しづつ強くなっていく。

んでも、全然眩しくは無い。 作業場が、薄暗いから光ってるのが判った程度。



「 ビー玉? 」


木の中に埋まっていたのは、ほぼ透明な白いビー玉。 うっすら光ってるんで、ビー玉じゃ無いけど。


「 白いビー玉だね 」 エリザべートの言う通り。


「 半透明のビー玉だな。 なんだこれ? 」



取り出したら光らなくなった。

ほぼ透明の大きい真珠、ガラス、樹脂、似ているのは色々あるが、よく判らん。

一番似ているのは---


「 白い魔石? 」


「 マスター、魔石はみんな黒です。 魔力を使い切ると半透明になりますが、黒です。 それに、魔石は魔物から取れます 」


「 だよな。 ・・・・・・良し。 こう言う時はギルバートだな。 コイネ、商業ギルドに行って呼んできてくれるか。 鑑定のスキル持ちも一緒に来て欲しいって伝えて 」


「 判ったにゃ 」  よろしくにゃ。


「 ギルバート待ちだな。 ばあちゃん、ちょっと一服してくるよ 」


色んな物を売り買いしている商業ギルドなら、何か知ってるだろ。

店主に謝って、作業再開をお願いする。 後は外に行って一服だ。



_________________________



「 グレイ様、面白い物があると聞いたのですが 」


一服が、三服になった頃、ギルバートがやってきた。

思ったより早いな、4輪の自転車で急いで来たのか。 いや、興味無いから説明は要らない。


「 呼び出してしまって、すまない。 でも、面白いのは保証する 」


「 何でも、白い魔石が取れたとか 」


「 これだな 」


機織り機から取り出したビー玉を、手の平に乗せてギルバートに見せる。


「 これなんだけど、見た事あるか? 」


「 これは・・・・・・存じませんな。 お借りしても? 」


「 この店の機織り機から出た物だし、俺のじゃ無いんだが 」


「 では、少々お借りします 」


おい。 そこは、店主に許可取ろうよ。



ギルバートは、ビー玉を直接触らず、胸ポケットから取り出したナプキンで包んで持ち上げる。

そういえば、危険が危ない可能性も在ったのか。


しばらく観察したら、後ろで控える職員の手に渡す。 こっちは直接か。

ひょっとして、危険が危ないんじゃなくて、俺が触った物に触りたくないとかなのか?

だとしたら、後ろから蹴飛ばしてやるんだが。


「 彼は、鑑定のスキル持ちの職員です 」


いやいや、人物紹介じゃ無くてだな、直接触らない事に関して説明と釈明を---


「 機石(中)と、出ています 」



ん? 機石?

なんだ機石って?


ギルバートを蹴飛ばすのは、後にしておこう。

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