第13話:チルの仲間


「 グレイ様。 ギルバート様からお預かりして参りました 」


3日目の朝、朝食後にチルと話してるとギルバートから使いが来た。

差し出された手紙は、毒々しい赤色のガムがくっついてる。

ガムじゃ無くて蝋なのは知ってる、封書だな。


「 これが封緘ふうかんか。 初めて見るな 」 ビリビリに破るけどな。


「 マスター。 なんて書いて在るんですか? 」


「 ワイバーン(仮)は、オークションになるってさ。 清算は10日後だそうだ 」


「 オークションですか? 」


「 了解しましたと、お伝え下さい 」


一礼して去っていく、使いの人。 返事は口頭でも良いんだな。



「 グレイ様。 ギルバートからの知らせは、何だったのですか? 」

 

「 おはようございます、ドリーさん。 オークションになるから、清算まで時間が掛かるって連絡ですよ 」


「 ワイバーン(仮)のお肉、王都で話題になってますからね。 当然です 」


朝の挨拶より肉が大事なのか? 神官としてどうなんだ?



「 どの位掛かるって書いて在りました? 」


だから、”おはよう” はどうした。


「 10日後だそうですよ 」


オークションは、色んな都市で開かれてるけど、王都で開かれるオークションは高価な物だけ。

ちょうど、10日後に開かれる予定だったんで、それに乗っけるんだと。

んで、ワイバーン(仮)の、爪、牙、皮、肉が出品されると。



それよりだ、


「 ドリーさん、いい加減名前を決めませんか? 言い難いんですよ、ワイバーン(仮)って 」


「 それは、オークションの時に発表されるみたいですよ♡ 」




・・・・・・さて、そうするとだ。


「 色々欲しい物も有るし、少しお金を稼がないとな 」


「 マスターお散歩に行きましょう! 」


どうしようか、冒険者ギルドに入ると気持ち悪くなるし。

ドリーが、『 無視しないで下さい~ 』って言ってるけど放置。


____________________________



結局、簡単な依頼を受注する事にした。


すぐにお金を稼ぐ方法が他に無いし、チルがお散歩行きたいみたいだし。

メインはチルの散歩だな、あと試したい事もある。


受注の前にチルの仲間のDランク冒険者と対面。

チルの実家の在る、工房都市クワップから一緒に来たんだと。


「 コイネにゃ! 」


「 グレイです。 よろしく 」  にゃって言ったな。


猫型獣人だ。 いや、猫獣人だ。



「 2人だけで実家から出てきたのか? 」


工房都市のクワップまでは、馬車でも14日ほど掛かると聞いてる。

チルの母親に挨拶に行こうと思って、調べたんだよな。


父親は、亡くなってるらしい。

それをきっかけに、チルを身籠もっていた母親は冒険者を引退。

クワップで宿を経営してるんだと。


「 王都までの護衛依頼が在ったんで、それに便乗したにゃ 」


「 マスター。 私たちはDランクになったばかりで、まだパーティーは組んでません 」


「 Dランクになり立てにゃと、固定パーティーは難しいにゃ 」


そうなんにゃ。



「 そうなんです。 Dランクでは厳しくて 」


Dランクの依頼はそれほど報酬が高くない。 高くない報酬をパーティー全員で分ける。

2人一緒に他のパーティーに参加すると、人数が多くなり過ぎる。


女の子2人のパーティーでは、募集しても集まらず。

下心が在りそうな奴は、2人の方から断ってたんだと。


クワップから王都までは、商隊の護衛依頼を受けたパーティーに便乗出来たんだと。

チロには祝福が在るからって、喜んで加えてくれたって。


「 じゃあ、3人なら採取とかの簡単な依頼なら行けそうかな? 」


「 大丈夫だと思います、マスター 」


「 行けると思うにゃ 」


買い物分だけ稼ぐつもりだったけど、もう少し必要になりそうだ。

チルは神殿に居るから良いとして、コイネの分の食費と宿泊費は稼がないとな。


「 簡単で稼げる依頼があれば良いんだが 」


「 この時間では無理だと思います 」 


夜明け前に準備して、夜明けと同時に行動開始がDランク冒険者の基本らしい。

俺は冒険者にならないから時間は関係無いが、もう10時近い。



「 常時依頼の採取と討伐なら大丈夫にゃ。 採れば採っただけ稼げるにゃ 」


「 じゃあ初めてだしユックリ行こうか 」


「 判りました、マスター 」



____________________________



「 凄いです、マスタ-! 」


「 早いにゃ! 」


俺は冒険者ギルドからレンタルした荷車を引いて、街道をジョギング中。

後方に流れていく景色が気持ち良い。 時速は20km位をキープしてる。

異世界の風と光を、全身で感じながらのジョギングは爽快だ。


祝福とレベルアップで、筋力が元の世界の5倍近くになってるから疲れ知らず。

レベルアップの効果を実感してる。


荷車の上では、チルとコイネがはしゃいでる。

木製の荷車なのに振動が全く無いんだと。

荷車を引いてる俺の手にも振動は伝わってこないから、間違い無さそうだ。



初めはコイネが引いたんだが、とにかく揺れた。

荷車に乗ったら、目と脳と胃袋が揺れて耐えられなかった。

チルが引いた荷車には乗れた、機力にも問題無かった。

無かったんだが。


試しに俺が引いた荷車に乗ったチルが、キラキラした目でおねだりしてきた。

乗りたいと。


自動車の窓から顔を出したがるイヌは多い、俺は理由を知らないが。

チルも顔を出したかったらしい、窓も壁も無いコンバーチブルの荷車から。



んで、2人を乗せて俺が走る事になった。

機力のあれやこれやを調べたかったんで、ちょうど良いってのもある。


ステータスを確認しながら走ってると、10分で1位づつ減ってる。

2倍位の機力を込めて走ると、慣性イナーシャがかなり減るらしい。


揺れが全くなくなって、コーナーを曲がる時の遠心力も無くなるんだと。

引いてる俺も、2人の体重+荷車の重さが無くなるんで走り易い。

E=MC はこっちの世界でも活躍中だ、少しは休めって言いたい。



機力を込めると込めた分だけ、荷車全体が光るのも判った。

その状態で思いっきり走ると地上の流れ星になれる、目立つからもうやらない。


もっと機力を込めたら、完全に慣性制御が出来そうだ。

常時依頼の薬草採取に行く途中だし、機力は温存しなといけないから別の機会に確認してみる。


機力の込め方は簡単だった。

荷車の引手を、バイクのアクセルみたいに回そうとイメージするだけで(物理的には回らない)、冷たい何かが手を伝わっていく。


そんなこんなでジョギング中、風が気持ちいい。




冒険者ギルドに、都合良く美味しい依頼が在るハズも無く。

王都から徒歩3時間の所に在る森に、薬草を採りに向かってる。

薬草の採取場所はもっと近場にもあるんだが、時間が遅かったからもう無いだろうと言われた。

しかたが無いんで、ちょっと遠い場所に向かってる。


チルには、荷車が在ったらレンタルして欲しいと伝えておいた。

借りてきた荷車は、リアカ-の半分位の大きさで荷台は箱型(フタは無い)になってる。

ミルクの入った缶を乗せて、チルが引っ張ったら似合いそうだ。



「 そんなに摂れないにゃ 」


「 それなりに自信はあるんだが 」


これから行く森は初級者向け。

ワイバーン(仮)騒動で、誰も行って無い今なら薬草が取り放題らしい。


俺はワイバーン(仮)が来たお蔭で姿を消してた小動物も、戻っているだろうと予測。

銃が在るからこれも採り放題、発砲音には注意が必要だけど。

荷車を一杯にして、ガッツリ稼ぐ予定だ。




40分で目的の森に到着。

軽くジョギングしてたら、20km走り切ってしまった。

体調は変化無し、軽い準備運動が終わったって感じだ。

ステータスアップは凄いな。


「 もう着いたんですね、マスター 」


「 地図通りの場所に来たつもりだけど・・・・・・。 合ってるよな? 」


貰った地図は、ザックリ過ぎて読むのが難しい。


「 ここで間違いにゃいにゃ 」


にゃいそうです。



「 よし。 一息入れたら薬草の採取を始めよう 」


「 私とコイネで採ってきますから、マスターは休んでいて下さい。 私達は乗ってただけですから、疲れてません 」


「 そうか? それじゃおやつは1人で食べる 『 さぁ、休憩しましょう! 』 」


チルは美味しい物が大好きだが、決して食いしん坊では無い。



____________________________



「 これがポーション用の薬草、こっちが毒消し用の薬草です 」


チルは匂いで判別してるんで、サクサク集めてる。

俺は色と形で見分けてるんで、時間が掛かってる。


1時間で荷車一杯の薬草と毒消し草が集まった。

全部採っちゃうと次が無くなるから、残すのがマナーなんだと。

その方が環境保全にもなるし、異論は無い。


「 さて、一休みしたら次は狩をしようか 」


「 はい、マスター 」


どんな獲物がいるか、楽しみだ。

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