第3話:機力って何ですか?


「 まず、ステータスの確認を致しましょう 」


「 先にですか? 」


「 ええ。 その方が、契約の効果がハッキリしますので 」


と、言いつつ紙を手渡してくるラブ神官、紙に血を付けろと言う。

そんなもんかと納得したんだが、痛いのは好きでは無いし、血を見るのは断固拒否する。

用意された針でちょっぴりだけ指先を刺して、無理やり血を絞り出す。



本人と、本人が許可を出した人は(獣人もだ)、”ステータス”と考えれば自分のステータスを見る事が出来るらしい。

今回は説明のため、あえて紙を使うんだと。



「 あちらでは、何かを作る職に就かれてました? 」


「 そうですね 」


3人で俺のステータスを見てる。

開発も生産職だよな?



「 〔 機力・・ 〕 と 〔 器用さ 〕 が、凄い事になっています 」


「 そうなんですか? 」


数字を見ても全く実感が無い、それよりも気になる事があるんだが。


「 それで、〔 機力・・ 〕ってなんですか? 」




「 〔 魔力 〕は、ご存じですよね。 そちらの世界にある、ゲームや物語で使われてるあれ・・です。 魔法を使うために必要な力が、魔力。 機械を使うために必要な力が、〔 機力 〕になります 」


「 機械を使うために必要な力? 誰でも使えるから機械だと思うんですが 」


専門の訓練が必要な機械は、確かに存在する。 しかし機械は大前提として、 ”人” が ”使う事” を想定して ”設計”され ”製造”される。 だから人が入れない運転席は無いし、腕が3本、足が5本無いと動かせない機械は無い、と思う。



「 マスターは、魔法を使えますか? 」


いいえ、と首を振る。


「 そちらで、機械が当たり前に使える様に、こちらでは魔法が誰でも当たり前に使えます。 どのくらい使えるかは、個人差が在りますけど 」


「 そうなんですね 」


「 はい。 そちらでは魔法が使えない様に、こちらでは機械が使えないんです。 理由は、良く判って居ないんですけどね 」



にっこり笑うラブ神官。

ラブは、毛が抜け難くて手間が掛からないんだよなとか、余分な事を考えてたりする。


「 〔 機力 〕が0だと、ドアノブも回せないんですよ 」


「 本当に! 」


流石にちょっと驚く。


「 ええ。 ですから、機力の使い過ぎには注意して下さいね! 」


判りましたと頷いておく。 部屋に入れないのは困る。




こちらの世界の機械とは、2つ以上の部品から構成される、駆動部分を持つ全ての人工物(エルフ,ドワーフ,獣人等がが造っても同じらしい)の事だそうで。


 ・部品数が多いほど機力が多く必要。

 ・同じ形でも、大きいほど機力が多く必要。

 ・鉄 > 木 > 紙の順に、機力が多く必要。



3Dプリンタで一体成形したらどうなるのか、試してみたいんだが。

興味はあるが、こちらには3Dプリンタもパソコンも無いらしい。

文明は西洋の中世に近いらしいが、魔法があるんで単純に比較出来ないんだとか。



「 片腕や片足を無くした方が、今まで使えていた機械が使えなくなった。 って言うのは、良く在る話なんです。 注意して下さいね? 」


「 了解です 」


片手や片足を失うと、その分最大機力が減るそうだ。

機械が使えなくなるは別にしても、俺は腕や足を無くしたいとは思わない。



真面目に聞いている様に見える、見えないけど、チルはラブ神官を見ている。

でも、鼻先はこちらを向いているんで、きっと匂いを嗅いでいるんだろう。


「 他に質問が無い様でしたら、エージェント契約を結びましょう! 」


「 了解。 チル 」


「 はい! 」


「 契約するぞ 」


「 はい! ご主人様契約です! 」


「 ・・・・・・ 」


「 ??? 」


「 何時まで、匂いを嗅いでるんだ 」


神秘の力で契約出来るのに、チルのお陰で神秘さが皆無。

多少残念に思っても仕方が無いだろう、もっとも、そのお陰で全く緊張していないんだが。


苦笑しつつ、チルの額に手の平を当てる。 光りの収束が終わると、そこには蒼い宝石があった。



「 ん? 目、肩、腰が! 」


「 はい。 それが、ステータスUPの効果です 」


ニッコリするラブ神官。

メガネが邪魔な程よく見える目、グルグル回しても痛くない肩、パキパキ音がしない膝。

まるで10台や20台の、若かった頃に戻った感じがする。


「 これがステータスアップの効果ですか 」


ちょっとビックリだ。

チルはどんなものかと見てみると。


「 目がグルグルします~ 」


「 どうした!? 」


「 グルグルです~ 」




ラブ神官は、平然としている。


「 大丈夫ですよ。 これで正常です。 人族であるマスターは、主に肉体が強化されます。 獣人族は、主に ”知識” と ”器用さ” と ”機力”が強化されます 」


あ、察し。


「 急に知識が流れ込んで、混乱しているだけです。 すぐに収まりますから、少し寝かせてあげましょう 」


通常はこうなるから、すぐ横になれる長椅子に案内してくれたと。

用意周到だな、マニュアルが存りそうだ。


「 ゲート神殿の神官でしたら、みな学ぶ事です 」 マニュアルは在ると。


チルを横にするのを手伝いつつ、具体的にはしがみ付いている手を、力ずくで引き剥がしつつ答えているラブ神官。 かなり荒っぽいのは、同族で同性だからだろう・・・・・・だよね。



_________________________




個別に、個室に案内されたのには厳しい現実が在った。


マスターは、通知を受けた日の夜に初めてゲートを通過する。

時間の進み方が違う世界の獣人達は、早ければ数週間前に通知を受け取る。


獣人が早めに知らせを受けるのは、祝福を受けるための準備期間と考えられている。

その間に契約を結ぶのか、止めるのか、何を準備するか。

獣人は自分で決める事になる。


そして獣人は、エージェントとしてマスターを迎える準備のため頑張る。

主に金銭的に。


中には限界を超え病気で倒れる者、ケガで倒れる者、最悪亡くなるケースも在る。

病気やケガなら病院に行けば良いが、亡くなるケースだと・・・・・・。

悲しむマスターを見ていられない、見せたくない、と言う事らしい。


今回は、病院行きのマスターが何人か居たが、お参りに行くマスターはいないと聞いた。

チルと会えて、ラッキーだったと思うべきだろう。



「 入院してると、マスターは怒るみたいですよ 」


そりゃそうだ、家族なんだから無理して倒れたら怒る。


「 準備が出来てない! って怒るマスターは、今まで1人も居なかったって記録に残ってます。 そんな人は、元々ゲートを通過出来ないんですけどね 」


獣人を奴隷のように扱ったり、種族差別したり、こちらに来て心変わりしたり。

そんなマスターは、ゲートを通る資格は与えられない。


こちらの世界に神は居る、ゲートは神が管理する。



「 まだ、チルは復活しませんね 」


グルグル~、と言ってるチロ。 気持ちが悪い訳では無い様だが。


「 ちょっと、時間が掛かってますけど。 先に、ステータスを再確認してみましょう 」




名前:グレイ          名前:チル

レベル: 1          レベル:16

生命P: 30(+20)    生命P: 45(+ 5)

魔力P: 11(+ 1)    魔力P:  6(+ 5)

機力P:201(+ 1)    機力P:101(+100)

知力 : 23(+ 3)    知力 : 15(+10)

筋力 : 30(+20)    筋力 : 45(+ 5)

素早さ: 30(+20)    素早さ: 45(+ 5)

器用さ:205(+ 5)    器用さ:110(+100)

幸運 :150(+50)    幸運 :150(+50)



表示されていたのは、合計値。 カッコの中が、エージェントから送られた数値。 

送られる数値は、基本値の50%だそうで。


こっちの世界では、全ての数値のMAXは ”100”なんだそうだ。 

それを越えられるのは、神の祝福を受けたマスターとエージェントのみ。


Pが付いている物は、使えば減っていく。 その他は、使っても減らない。

そのあたりは、ゲームと同じ仕様になっている---そうだ。


俺の生命Pと筋力と素早さは、契約効果で約3倍になっている。 

いきなり3倍、リンゴも素手で潰せるな。


何時でも行き来出来るんで、こちらでは本名を名乗らないのがお約束。

個人情報保護法は、この世界でも役立っている。


そう聞いてしばし考え込んだ後、俺は名前をゲームでよく使う ”グレイ”に決めた。

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