第21話 世直しって何ですか?

「まあ、さすがに説明が必要だわな」


クーデターだなどと、穏やかならざる言葉を吐いた後にも関わらず、のんきな表情でロベルトが続ける。


「なあクリフ、この国の状況についてどういう評価をしている?」


「ああ、強い国だと思うよ。大陸通商の中心であり経済力は十分だし、その経済が支えている軍事力も、今のところだけど大陸で最も強いだろう。ただ、あんた達には悪いが、役所が腐り切ってると思う。事務処理は遅いし、賄賂が横行している・・こないだの魔王戦でも物資横流しがあったばかりだそうだな。このままだと国力は徐々に衰えて、最終的には軍事力も低下していくだろう・・例えばグラーツみたいな軍事独裁国家が攻めてきたら、守り切れなくなるんじゃないかと思う」


極めて優秀な事務官達の前で政治を偉そうに語るのは居心地が悪いクリフだが、この場合やむをえまい。


「うん、まあ俺達の考えていることも似たようなもんだな。本来の国力はあるはずなのに、腐った役所がそれをダメにしてる。じゃあクリフ、そのダメさの根源は、どこだと思う?」


ロベルトの視線が、やや真剣味を帯びる。


「う~ん。たった今、役所を腐らせてる中心はと言えば、宰相フライブルク侯とその取り巻きなんだろうなあ。だけど・・結局そういう腐った奴を取り立てて、面倒なことは全部丸投げしてあとはチェックすらやらない、国王陛下が一番ダメなんじゃないかと思うな・・ハインリヒの父上だし、あまり悪く言いたかないけど」


さすがに少しハインリヒ・・ミーナの表情を気にするクリフだが、ミーナは驚いたことに、微笑みをクリフに向けている。


「気にすることはないよクリフ、私の考えも同じだ・・父上は国王の器ではない、国を緩やかに衰亡させている張本人は、その父上であると。ただ、父上が特別悪い王であるというよりは、何世代にもわたって続いた王国の安寧と繁栄が、王室全体の緩みというか、怠惰を招いてしまったのだと、私は思っているよ」


ミーナはここではハインリヒとして、男言葉で明晰にクリフの酷評を肯定した。


「まあ、そんなわけで、俺達は現国王様に早々に退場いただいて、まともな王を頂いて国政をまともに戻したい、と考えているのさ。第一王子殿下の御承認付きでな」


◇◇◇◇◇◇◇◇


「じゃあ、王国の体制自体はそのまま変えることなく、現国王に迫って、あんたたちの理想を理解しているであろうハインリヒに、無理やり王位を禅譲させるってのが、あんたたちの『世直し』の目標なのか?」


「まあ、ストレートに言えば、そうなるな。体制そのものをぶっ壊す革命みたいな極端なことをやらかすのは、国民のことを考えると具合が悪い。最悪地方領主達が独立離反し国が大きく乱れるおそれもあるし、それを見た近隣諸国が、これを奇貨として侵攻してくることも十分考えられるしなあ。仮にだが、もしも魔王を倒せし勇者クリフが新国王になってくれるというのなら、国民もみな納得させられるんじゃないかとも思うが・・」


「そんなのは絶対にお断りだ。俺は人の上に立つ器じゃないし、立ちたくもない。だいたい、もう一生分国民のために尽くしたと思うぜ、もう働きたくないよ」


両手を振って全力で否定するクリフ。それを見て笑う「五俊英」達。


「まあ、クリフはそう言うだろうと思ったがな。クリフが旗印になってくれないとすると・・現王国の体制が揺らいだとは国民や諸外国に受け取られないような方法で、腐敗を一掃する手段をとらないといけないわけさ。つまりは、俺達と同じ政治信条を持っていて、しかも正統な王位継承権第一位をもつハインリヒに、一日も早く国王になってもらうのが一番ということなのだが・・本人がなかなか乗り気になってくれなくてな」


ロベルトが少し困った顔になって、ミーナの方を見る。


「それは・・まだ、その時ではないと思っていたのだ。それに・・私も人の子として自分の父親を、弑さないまでも暴力をもって引退に追い込むことに、抵抗を感じるのは当然のことだろう?」


すこし口をとがらせて反論する、ハインリヒの姿をしたミーナ。中味が女の子だと分かった上で見れば、そんな仕草も可愛らしく思えてしまう。それにしても、今の「その時でないと・・」というフレーズが、「思っている」ではなく「思っていた」と過去形であったところが気になるクリフである。


「まあ、こんな感じだからな。だから今すぐとは行かないが、いずれハインリヒに玉座を準備したいと考えている俺たちなのさ。そこでクリフ、もちろん『世直し』仲間になってくれるよな?」


おいロベルト、キツネ狩りとか魚釣りに行くよなみたいな軽いノリで言うなよ、と口の中でつぶやくクリフであった。

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