冒険者ギルドでプログラマーに任命されました

OTFT

第1話 あ、それ僕できます

少し肌寒さが残る4月上旬

「父さん、母さん、いってきます!」

返事はない。

まだ寝ているのだろう。

上着にたっぷりと保温魔法をかけて家を出る。


冒険者ギルドというのに行くのはこれが2回目だ。

1回目は父さんと2人で下見に行ったのだが、行く前に想像していたほどむさ苦しくもないし、強面のおじさんばかりでもなかった。

別に冒険者ギルドなんて怖くない。

怖くない。

怖くはないのだけど、なぜだか緊張で体に無用な力が入ってしまっている。


「いや、きっと寒さのせいだろう。」

小さく声に出して自分に言い聞かせ、短く深呼吸をしてまた前を向く。


街につくまでにはまだ1時間くらい歩かなければいけない。

目の前に広がるのは田んぼ。

どこか遠くで新聞配達のバイクのような音が聞こえる気がする。

この世界にはバイクなんてありはしないのだが。


この世界で前世の記憶なんて約には立たない。

特に科学なんてものは。

最近、地動説を唱えた自称天文学者が処刑されたらしい。

可哀想に。



そんなことを考えていたら、街についたようだ。

よく見知った街。

小さな頃からよく買い物に来ていた。


「あら、デビアンじゃない」

ほら早速お肉屋さんに声をかけられる。

「あ、おばさん、おはようございます」

「今日はこんな早くにどうしたんだい?」

「今日は冒険者ギルドに冒険者登録をしに行くんです」

「あら、もうそんな歳だったかしら」

「ええ、今年で16になるんです。もう立派な大人です。」


よくもまあ、自分の口からそんな言葉が出てくる。

前世では16なんてまだまだガキじゃないか。


冒険者ギルドがすぐそこに見えた。

今までは気にも留めなかったその茶色い建物は、今日はなんだかひときわ大きく見え、なんだか異彩を放っているような気がした。

少し怖気づいたが、また気を引き締め直して歩き出す。



立ち止まって取っ手を引いた。

カランカラン、と音が鳴り、ギルドの扉が開く。

ギルドの中には既に同い年くらいの男女が並んでいて、自分と同じように冒険者登録に来ているようだ。

皆、自分の希望する職業の服装で来ている。


ここでは、受付に履歴書を提出して、よくわからない機械で自分の特性を計測して、最適な職業をギルドからあてがわれるのだ。


自分に選択権はないらしい。


前世で言えば、

冒険者ギルド=会社

職業=部署

のような感じだ。


「次の方」

「はい、デビアンです。よろしくお願いしまうs。」

「え?」

「誤字です。あ、いや、噛みました。」

「はぁ...」


結果はすぐに出た。

「えー、デビアンさんの職業は"ヒーラー"ですね。

 上着に大量に仕込まれた保温魔法が決めてです。多分」

なるほど。意外と雑なのかもしれない。

「それでは頑張ってください。」

「あの、雇用契約書とか無いんでしょうか?」

「なんですかそれ?」

「いえ、なんでもないです」


とりあえず何事もなく順調に事が進み、心底安心している。

ヒーラーひとりでは旅は出来ないから、すこし休んだら、パーティーメンバーを探そう。


椅子に腰掛けて水筒のお茶を飲んでいると、部屋の角で一組のパーティーが揉めているのに気づいた。

拳闘士「どうしてお前の魔法はいつも直線的にしか飛ばないんだ!?

 もっとこう、曲がるとか、途中で速度が変わるとか、もっと改善してもらわなきゃ安心してお前に任せられないだろ!」

魔導士「俺だって頑張ってるんだ!

 そりゃ、お前が言うようなことだってやろうと思えば出来るが、

 めちゃくちゃ詠唱が長くなるんだよ!

 ロクな魔法も使えないお前にはわからないだろうけどな!!」


攻撃魔法か。そういえばあまり勉強していなかったな。

実践で使われている魔法を実際に見たことは無いし、非常に興味深い。


拳闘士「お前、いつも詠唱の中で同じような単語を何回も使ってるよな?

 あれ省略できないのか?」

魔導士「そうしないと魔法が撃てないんだから仕方ないだろう!?

 俺だって頑張ってるんだよ」


他にも色々細かいことを話していたが、おおよそわかった。

魔導士と言っても、他の人が作った魔法を真似ているだけという人が大多数のようだ。



「あ、それ僕できます」



気づいたら声をかけていた。

「これ、使うパッケージを最初に宣言しておけば、そのあとは省略出来るんですよね。

 あ、あとここの2つはまとめることが出来ます。」

「というか、この魔法なら前に僕が作ったパッケージ使えば簡単に撃てますよ。

 これ、差し上げます!」

彼らはなんと初歩的なことで揉めていたんだろう。


......


そうして、それはまたたく間にギルド中で噂になった。

あの魔導士とそのパーティー、このギルドではそこそこ名の知れた高ランク集団だったらしい。


後日僕はギルドの事務室に呼ばれた。

行ってみると、あの日いた受付の女性と、なんか上司っぽいおじさんが待っていた。

丁寧に部屋の奥へ通され、ふかふかの椅子に座らされた。


「デビアン君、今日は呼び出してすまないね。」

「いえ」

「先日の君の活躍は聞いたよ。

 まだ若いのに大したものだ。」

「あ、いえ、恐縮です。」

「私はギルド長のナデラというんだ。

 先日の一件のあと、君の職業を再度検討し直してみたんだがね。」


まて、それ以上言うな。

嫌な予感がする。


「君は魔法がとても好きだと、履歴書には書いてあった。

 なんだ、私はそこまで魔法に詳しくはないのだが、魔導書なんかも何冊か読んでいたのだろう。」


やめろ。

前世の記憶が発狂しかけている。


「デビアン君。君の職業は今日から"プログラマー"だ。

 明日からは魔法開発室で君の得意分野を思う存分活かしてもらおうと思う。」


「あの!でも僕はまだまだ未熟です!

 パーティーを組んで旅に出て、もっと広い世界で魔法を学びたいのです!」


「何を言うか。君はあの高ランク魔導士が苦戦していた魔法をいともたやすく改善させて見せたじゃないか。

 これ以上なにを学ぶと言うんだ。」


「でもっ...!」


冒険者ギルドに所属する冒険者に、選択権などないのだ。

僕は翌日から、魔法開発室へ出勤することになった。


旅は、出来ないのである。

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