10 ふたり

「あれ」


「あら」


「おやすみなさい。まだお昼ですが」


「おやすみなさい。そちらこそ、どうしたんですか?」


「仕事の昼休みで昼寝です。十分だけ」


「わたしは、ごはんを食べる前に眠れなくなっちゃって。十分だけお昼寝です」


「そうだよね。あんまり寝たら」


「うん。夜眠れなくなっちゃう」



「好きだ」


「わたしも。好きです」


「あなたがいるから。生きていられる」


「わたしも。あなたがいなければ、耐えられない」


「贅沢だよな、俺たち」


「贅沢?」


「普通の恋人同士は、さ。日常を暮らして、そしてわずかな時間を、恋人と過ごすわけでしょ。寝てる間は、当然、恋人と喋ったりふれ合ったりはできない」


「うん」


「でも、俺たちは。毎日しっかり、10時間は喋っていられる。ふれ合っていられる」


「さすが数学好き。時間の計算得意ね?」


「いや、数学じゃなくて、感覚の話だよ。俺はばかだけど。あなたといる時間がとても好きだという感覚は、ある」


「そうだね」


 夢の中で。


 手を握って。


「そろそろ、十分かな」


「アラームかけといたから、それまで、かな」


「俺は、仕事場の上司がフライパンで叩き起こしに来るよ」


「あっ」


「ん?」


「仕事場の上司さん。お友達に、なって、みたら?」


「おお。それは。そうかそうか。仕事場の上司か。いいかもしれない。起きたら訊いてみようかな」


「うん。あなたの綺麗な顔にフライパンを叩き込むんだから、きっと顔とか気にしない人だよ」


「そっちも。ちゃんと目を休めて、目薬とか差すんだよ」


「あっ。忘れてた。うん。目薬する。ありがとう」


「そろそろ、かな?」


「うん」


「じゃあ」


 握られた手。


 離したくない。


「好きだよ」


「わたしも。好きです」


「おはようございます」


「うん。おはようございます」


 また、目覚める。

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