08 ふたり

「あっ。来た来た。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 ふたりは。おやすみなさいと挨拶して、出逢う。


「今日はつかれたなあ。海行ったんですよ、俺」


「海ですか?」


「うん。周りをうるさいのがもう凄くてさ。簡易マッチングツールなんだ俺」


「そりゃあ、顔が良いですからねえ」


「あなたぐらいの顔が、俺は好みなのに」


「ちゅうにくちゅうぜいですけど?」


「うそつけ」


「わっ」


「ほら。腰のラインも足許も、二の腕も。とても綺麗。だぶだぶの服着て綺麗なプロポーションを隠してる」


「いや、まあ、女同士ってのは難しい上下関係なんですよ。相手よりも少しでも上だって証明したいんです女は」


「へえ。そんなもんなのか」


「友達は。できましたか?」


「できんかった」


「あらあ。それは残念」


「でもさ。俺の顔目当てで誘ってきたやつがさ。帰るって言ったら、残念そうにしてたな」


「おっ。それは遂に、いぶし銀の友達の可能性が」


「そうであってほしいなあ。友達が欲しいよ。俺は。友達がほしい」


「わたしは?」


「あなたは友達じゃない。好きだもの」


「あら。嬉しい」


「今日のこと。訊いていいかな」


「うん」


「外には、出れた?」


「出れなかった」


「ごはんは?」


「出前を頼んだ」


「そっか。ごはんを食べたんだから、偉いよ。すごい」


「ほめられると、嬉しいなあ。ごはんを食べただけでほめられちゃった」


「あなたには、死んでほしくない」


「なにそれ。あなたは死ぬみたいな言い方じゃない?」


「うん。海でさ。溺れたら死ねるかなって。ずっと、考えてた」


「そっか」


「死んだら、さ。ずっとこの夢の中にいられたり、しないかな?」


「どうだろう。わかんないなあ」


「俺も。ばかだから。わかんないや」


 ふたりで。


 朝が来るまで。同じ夢を見て。


「さて。そろそろ、かな」


「もうそんな時間か」




「じゃあ、元気でまた、明日の夜に。おはようございます」


「はい。また逢えるまで。おはようございます」


 ふたりは。おはようございますと挨拶して、別れる。

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