第22話 初仕事

「ねぇ、キリュウ起きてよ。朝ご飯無くなっちゃうよ」


そう、声が聞こえてキリュウは目を開けた。

目の前にはメイド服を着たオレンジ髪の少女がいた。


寝ぼけていたので目を擦ると彼女がハルカであることが認識できた。


「あーうん。ありがとう...ハルカ。でもどうして、部屋の中に?」


キリュウそう疑問に思ったことを口にするとハルカはハッとした顔をしてこう言った。


「あ!ごめんなさい!

実は、キリュウが目覚めない時にずっと朝に来てて....やっぱり鍵は返す」


ハルカはそう言って、メイド服のエプロンについていたポケットから鍵を取り出してキリュウに手渡そうとしたが....


キリュウはその手にポンと手を置いてこう言った。


「いいよ。持っておいてよ...時々遊びに来て」


キリュウは答えた、ハルカみたいに真面目そうな人ならきっと悪い事はしないだろうし...

特に覗かれてもまずい事ーーー


いやいや、もう言ってしまった事だからいいかとキリュウは思った。


目の前にはどこか嬉しそうな顔をしつつもそれを隠そうとしている女の子がいる事に気がついた。


ハルカは取り乱した感じがあったが、照れ臭そうにこう言った。


「と、とりあえず、着替えて1階の食堂に行ってよね」


「わかったよ」


キリュウはそう言って、ベッドから降りて大きく伸びをした。

ハルカがカーテンを開けてくれて部屋の中に光が差してきた。


昨晩見た煌びやかな摩天楼は、朝日を浴びてまた違う清々しい感じの雰囲気を出しているのに気がついた。


鳥の囀りが耳に聞こえてきて、こんなに清々しい朝を迎えられた事を嬉しく感じられた。


「今日も一日頑張れそうだな」


キリュウはそう言って、新たに始まる新生活に張り切って行こうと感じられた。


ふと心の奥底から、

自信のない自分がいる事にも思い出した。


昨日まで割と思いっきりでやってきたことで、どうにかなっていたことに今になって怖く感じてしまった。


でも、今目の前の事に必死にならないといけなかった事だしこれはこれでよかったんじゃないのかなと自分で思うようにする事にした。


「どうしたの?キリュウなら大丈夫だよ」


ハルカはもしかすると心を見透かしているように感じられた。背中をぱんと叩かれてこう言った。


「考えたって仕方がないでしょ、どうにななるわよ。ってウチのママはパパに言ってるわよ」


ニコッとした顔とその声はどこか、色々頑張っている母親のフィオに似ていたような気がした。


「そうだよな、明るく行かないと」


明るさを持った方がいいってのは確かにわかっていた。

フィオがそうだった、本当に好きな街を離れないといけない辛い事実を前にしても新しい世界での可能性を見ていたように感じたのをふとハルカを見ていて思い出すことができた。


キリュウ背筋を伸ばして今から始まる新生活に前向きにやって行こうと決めてみることにした。


ハルカは仕事があるそうです部屋をさった後、キリュウはクローゼットの中にある服に着替えて部屋と出た。


ハルカは部屋の外で待っていてくれて、マンションにある食堂へと連れて行ってくれた。


食堂といっても朝日が差し込み、おしゃれな家具で揃えられたどこか少しお高いレストランのような感じになっていた。


ブルースがキリュウが来たことに気がついて、手招きをしてきたので彼と同じ席に座ることになた。


ハルカはアンに呼ばれてキッチンへと入って行った。


「あら、元気そうね。キリュウ君」


そう言って、何事もないようにミレーヌがブルースの横に座った。

手には新聞が握られていてそれをブルースに手渡していた。


「おはようございます。ミレーヌさん」


キリュウがそう返事をするとミレーヌはウィンクをしてブルースの横に座った。


「今日はよろしくね。ドライバーとしての初仕事ね!」


ミレーヌはそう言ってウインクをしてくれた。キリュウは頷いてこう言った。


「あ、はい!」


ハルカが運んで来てくれたサンドウィッチとコーヒーを頬張りながらキリュウは聞き耳を立てていた。


ブルースとミレーヌは雑談のようなことを話しながらも、ミレーヌは本日のスケジュールについて話をしているのを見てふと、

彼らが割と昔っから知り合っている仲なんだなというのが感じられた。


話に内容はキリュウが持っている会社の話や彼が研究している魔導考古学というのに関してのことだった。

話の内容はあまり理解はできなかったが、ブルースが会社経営をしているのとそれと同時に学者であるのがわかった。


その内容をスラスラと喋るミレーヌも相当、学があるんだなというのが感じられた。


扉が開いて食堂にロビンが入ってきてこう言った。


「今日からこれで!ボクは運転手から解放されるわけだよね。自由に研究所にこもって色々やらせてもらうよ」


ロビンは寝てないのか疲労の色と目の下にはクマができていた。


それを見たブルースはニコッした笑みを浮かべてこう言った。


「研究もいいが、寝てくれよ」


「ああ、そうだね。

キリュウ君今日が初仕事なんでしょ頑張ってね」


「ありがとうございます。ロビンさんも寝てくだいよ」


キリュウがそう答えると、ロビンは笑ってこう言った。


「こりゃ、後輩に気を遣わせるのもわるな。じゃあ、僕はラボにいるからあとはよろしくね。

でも、ブルースの学会発表は聞きたいから遅れていくよ」


ロビンはそういうとヘヘ笑って部屋を後にした。それをみたブルースは手を振って、新聞に目を向けた。


「ミレーヌ。ドライバーの道案内はできるか?」


ブルースはそういうと、新聞を閉じてミレーヌに渡した。

ミレーヌはそれを受け取ったあとこう言った。


「ニューアムステルは久々だけど、大きく変わってないなら大丈夫よ」


ブルースそれを聞いて席から立ち上がってこう言った。


「じゃあ....そろそろ、出るか。じゃあ、キリュウ初仕事よろしくな」


ブルースはそういうとポケットから鍵を投げ渡してきた。

キリュウはそれを受け取り席から立ち上がった。


「はい」


屋敷を出ると黒塗りの高級車は用意されていて、運転席にはロビンが座っていた。


「車の操作は大丈夫だよね」


「はい。多分ですが....」


「大丈夫だよ。昨日の車を触れるならきっと大丈夫だよ。自信持ちなよ」


ロビンはそういうと車から降りてポンポンとキリュウの背中を叩いた。


「色々ありすぎて大変だろうけど。頑張って、自分ができると思わないと何も変わらないからさ」


ロビンはそう言って、キリュウを車に乗せた。それを見ていたブルースはこう言った。


「おいおい。それ俺の受け売りじゃねぇかよ。ロビン」


ブルースはそういうと車に乗り込み、メモ帳を広げて始めた。

キリュウはバックミラー越しにそのメモ帳にびっしりと何かが書かれているのが目に入った。


それをみているとブルースはそのメモ帳を閉じてキリュウにこう言った。


「人間の脳ってのは限界がある、予定は書き込む事で忘れているんだ。

そうすると色々考える余裕ってのが生まれるんだ。キリュウもやってみるといい。


ミレーヌ。キリュウに手帳を今度やってくれ」


ミレーヌはそれを聞くなり、手に持っていたカバンから革張りの手帳を取り出してキリュウ手渡した。


それを見ていたブルースは一瞬驚いた顔をしたが、ニコッと嬉しそうな表情をしてこう言った。


「ミレーヌのそういう手際の良さには毎回助けられるよ。ありがとう」


「どういたしまして、ブルース。

キリュウくん。待ち時間に今後の予定を伝えるから、とりあえず街に向かって車を出して」


ミレーヌはそう言いながら助手席に座り込んだ。


「あ、はい!」


キリュウはそう返事をして車を発進のでさせた。


車を走らせながら景色を眺めていた。

ブルース宅は強いて言うなら邸宅で大きな敷地を抜けたのち自動で開く門をくぐって公道に抜けて行った。


ニューアムステルは大都会のイメージがあったが、ブルースがすんでいるのは郊外の静かな住宅街のようだった。


他の家も日本で見るような住宅よりも大きくどこかアメリカンな雰囲気を醸し出していた。


新天地でどんな事が起こるのかキリュウはちょっぴりとワクワクしていた。





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