第8話 ポートタウン
食事を終えたキリュウはほっと一息ついて出されたオレンジサイダーを飲んでいた。
どこか寂しそうな顔をしながら、フィオは店を閉める準備を始めた。
「今日でさよならなのね。アキラと出会ったのもプロポーズされたのもこの店だったし、店長になって店やって楽しかったけど...
ここでの思い出も最後かーーー」
ミレーヌはそれを聞いて立ち上がってどこか申し訳なさそうな顔をしていた。
そんな彼女を見てフィオはうっすらと笑みを見せてこう言った。
「でもよかったのよ。こんな田舎町のダイナーと保安官の給料じゃ子供達に贅沢させられなかったし...
ミレーヌがニューアムステルの移住のチャンスをくれたことには感謝してるのよ」
ミレーヌはそれを聞いてポンと彼女の肩に手を置いてこう言った。
「ありがとう....」
きっとフィオにとってはこの店は思い出の詰まった場所なのだろうというのは見ていて感じることができた。
懐かしい場所といえば、ふと自分のいた高校や家のことを思い出した。
でも、思い出こそはあるがあの場にはもう戻りたくはないとふと感じた。
好きだったアメフト人生は絶たれたし、偉大すぎる父と兄と比べると自分が惨めに感じてしまうからだ。
だからこそ、フィオが未来に向かって明るく頑張ろうという気持ちが見えてどこか自分もこの世界でもう一度、頑張ってみようと感じられた。
そう思うと不安や懐かしさよりもワクワク感が心から湧き始めていた。
まだこの世界がどんなので何が待ち受けているかはわからなかったが、やってみようという気になれた。
食事を終えて、フィオが片付けを終えたあと店仕舞いを少し手伝い。
三人は車に乗り込んでキリュウの運転でミレーヌが道を案内して港まで向かうことになった。
道中に住宅街があったがそこは深夜だからこそ真っ暗であったのかもしれないが、
人気が無くて寂しい雰囲気になっていた。
フィオはどこか寂しげな顔をしながらその街をぼうっと眺めているのをバックミラーでチラッとと見えた。
「フィオさんにとっては思い出の場所なんですね」
「うん。そうね...私の心の故郷よ。
帝国はそれを取り上げたの、でも仕方がないのよ。この国じゃね」
フィオはそう言ってため息をついた。
ミレーヌがそれを聞いてこう言った。
「帝国は発展のために自由を取り上げた。一つに集約して豊かになるためにね。
でも、どこかそれはそれで何か大切なものを忘れている気がするわ」
キリュウはハンドルを握りながらそれを聞いてふと疑問に感じミレーヌに聞いた。
「どうして、帝国はこの場所から人を追いやるんですか?」
「そうね。この世界は今二つの勢力が覇権を争ってるのよ。帝国と連合国とでね。
100年前の世界大戦で世界は二分されて、
帝国側と連合側とで分かれ互いに微妙なパワーバランスの上で平和を維持しているのよ。
連合側がこのヘレネス地域を射程に入れるミサイル基地に作ったから、帝国はこの場所に軍港を置くことにしたみたいよ」
キリュウはふと頭の中に歴史で習った東西冷戦期のことを思い浮かべた。
アメリカとソ連が互いに微妙な軍事力のバランスの上で成り立ってた話と似ているのかなと思えた。
「この世界は今、
喉元にナイフとかざしあった上で成り合ってる偽りの平和で成り立ってる世界なのよ」
ミレーヌはそう言ってどこか気に止むような難しそうな顔をしていた。
キリュウは静かで暗い道をアクセルを踏んで進んでいた。
周りは暗くてあまりわからなかったが、
だんだんと夜が開け始めていて周りが明るくなっているのに気がついた。
明るくなったので周りを落ち着いて見てみると雑木林の中をひたすら走っているのはわかった。
舗装された道路が道にずっと続いているのを見てふとこんなことを気になったので寝ているフィオではなくミレーヌに聞いて見た。
「ミレーヌさん。この世界に魔王とかっていないんですか?」
「魔王ね...大昔にはいたみたいよ。聞いた話だけどね。
アキラも同じことをフィオに聞いたみたいだけど君達の世界では異世界はどこか剣と龍の世界ってのが定番なのかしら?」
「え、はい。そうですね...異世界って言ったらそれが定番なので」
思わず飛んできた、ミレーヌの質問に対してそうキリュウは即答したが本当は
少し残念だったことをちょっとばかり言いたかっただけだったんだが....
「次の交差点で左に曲がってちょうだい。埠頭が見えてくるから」
「あ、はい」
「ニューアムステルまでは二日ほどかかるわ。海の上なら帝国軍もやっては来ないから安心していいわ」
ミレーヌはそう言ってタカノの頬に指をポンと突いてこう言った。
「そんな難しい顔しなくてもいいわよ。笑顔の方が可愛いわよ」
キリュウは思わず顔を赤くして少し恥ずかしくなった。
美人に褒められるのって悪くないなってふと思ったからだ...
でも嬉しいと気持ちとは裏腹に頬を膨らませてこういう言葉が口から出た...
「可愛いより。カッコいいって言われたいんですけど」
「あら、ごめんなさいね。かわいい...ツンツン」
ミレーヌはそう言って微笑しながらツンツンとキリュウの頬をどこか楽しそうに突いていた。
朝日がふと目に入り、思わず眩しいので目を逸らしたが慣れて来たので良く見てみると海が見えて埠頭に大きな船が一隻の止まっているのが見えた。
期待はしていなかったが、その船はファンタジーの感じもなく、キリュウが前の世界でよく見た貨客船によく似ていて、どうせならフェリーとでも言うべきだろうと感じた。
そんなことを思ってため息をつくとミレーヌがこう言った。
「そんながっかりしないで。
次は船旅よ。この世界だとだいぶいい船なんだから楽しみにしてよね」
キリュウはそれを聞いて息をついて気持ちを切り替えてこう言った。
「それは楽しみですよ」
それを聞いていたのか起きたのかフィオがニコニコした顔をしながらこう言った。
「ウッソでしょ!あれ、アライア号じゃない!あれに乗れるなんて夢見たいよ」
それを聞いたミレーヌは得意げな顔をしてこう言った。
「そりゃ、せっかくの船旅なんだからいい思い出にしましょうよ」
そう得意げな顔そるするミレーヌを見てどこかクールで冷たい印象を持っていたがどこか、チャーミングな部分もあることがわかりほんの少し嬉しく感じた。
港に到着すると
港では荷物を大勢の積み込み作業をしていた。
クラシカルなトラックではあるがそこから荷を下ろしたり、
大きなクレーンで大きな木箱を運び入れている姿を見てどうしても、ここが想像していたファンタジーな異世界でないことを余計に感じさせた。
初めて活気ある作業場を横目にミレーヌの指示でそのまま船の横に駐車をした。
ミレーヌは近づいて来た、作業員に一言。
「これよろしくね」
そう言ったあと、
「さ、乗り込みましょ」
と言って車を降りた。
それを見てキリュウはエンジンキーを抜いてポケットに入れて車外に出た。
フィオも荷物を持って降りると作業員がわっと寄ってきて車をベルトのようなもので固定をしてそのままクレーンであげられるのをキリュウは見てその手際の速さに驚いた...
それはフィオも同じだったようで目を丸くしてこう呟いた。
「早いわね、車も挙がっちゃうんだすごい」
「確かに...」
そんな2人とは裏腹にミレーヌはそれに目もくれずに船の乗船口へとつながるタラップの段に足を乗せてこう言った。
「さ、行くわよ」
ミレーヌはどこかしらではあるがワクワクしてそうな雰囲気を感じられた。
がしかし、キリュウの横を通り抜けていった人物が手に片刃の大きなナイフを持った黒髪の女性がミレーヌへ飛びかかったのを見かけた。
女性はミレーヌよりも少し年下のようで右目に黒いの眼帯をして頭には白いフリルのカチューシャをして黒い...
「メイド服!?」
メイド服の眼帯のナイフを持った女性はこう叫んだ!
「ミレーヌ・ランドルド!!やっと見つけたた!!」
ミレーヌは目の色を変えて斬撃を避けて、タラップから降りて距離を取ったーーー
「またあなたなのね」
ミレーヌはそう飽きれたような声を出してそう言いながらため息をついた。
状況を読み切れていない、キリュウとフィオは驚いたまま固まってしまった。
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