第2話 二日目

 「美味い。」

 アツアツのたこ焼きを頬張ると、これまで全ての事に壁が出来ていたような感覚が一気に崩れ落ちていった気がする。

 そしてたこでけぇ。


 「つか、あちあちっあぢぃ。」

 

 「何があったか知らないけど、美味いもん食ったら少しは元気出た?」

 ニッと歯を見せて笑顔を向けてくる彼女に思わずこちらも笑顔になる。


 暫く失っていた笑顔表情が戻ってきた気がする。

 「まぁ、確かに。」

 「君にとってはどうでも良いかも知れないけど、聞いて欲しい。こういうのは初対面の人の方が話し易いし。」

  

 休憩中の札を出して彼女は椅子に座った。

 そして俺は彼女に先日の告白からぼっちになって無気力のまま夏祭りに参加した事を話した。


 その間、彼女は相槌を打ちながら黙って聞いていてくれた。


 「そっかー。がんばったんだなー。でも頑張らなくても良いんだよ。学校も行きたくなければサボれば良いとは言えないけど、センコーに言うなり何かしら出来るだろうし。」


 「そいつらを見るのも嫌なら転校したって良いと思うし。まぁ編入の事とかはよくわからないけど。それって別に逃げでもなんでもないし。」


 「かくいう私も殆ど学校行ってないしね、追試で誤魔化してるけど。」


 「君はなんで学校行かないの?コミュ難とかじゃなさそうだけど。」

 これは聞いても良かったのだろうか、でも投げ出された言葉は戻らない。


 「それを聞きたければ、明日はたこ焼き買って?みたいな。」


 あざとく首を傾げて可愛く見せる仕草が、溶けかかっている心の氷の壁に追撃する。

 その表情を見ているとこっちが照れてしまう。


 「商売上手じゃん。でも毎日食べても飽きない美味さだったけどね。」


 「お、おぅ。ま、まいにち……」

 今度は彼女が照れていた。


 そういうわけで、二日目も彼女の出しているたこ焼き屋へと向かう。

 到着前に自転車で転んだおじいちゃんの救護活動と、迷子になったのはお姉ちゃんだと言い張る5歳くらいの女の子のお姉ちゃん探しをしていた。


 その事を彼女に伝えると、人助けなんだから良いんだよと言ってくれた。


 今日はきちんと1パック8個入り500円を購入した。

 美味しく頂き、休憩時間になったら昨日の続きの話となった。


 「私が学校サボってるのは……父親の介護といえば聞こえは良いけど面倒を見てる?的な。」


 彼女の父は交通事故で暫く歩けず入院と、入院中の差し入れとか洗濯物とかやることが多いそうだ。

 蓄えも多くないため、バイトして少しでも足しにしているとのことだ。

 そのため学校に行く余裕がないと。


 ちなみに彼女の親父さん、トラックに惹かれたらしい。

 救急車で運ばれ緊急手術が行われ、翌日目覚めた彼はこう言った。

 「知らない天井だ……」

 そして看護師を見るなり

 「あれ?トラックに轢かれたのに異世界転生してない。エロフは?冒険者は?魔王は?NTRは?ざまぁは?」

 と言っていたらしく、年配の先生には頭の打ちどころが悪かったのかのぅと言われていた。

 女性看護師は「あれはただの中二病です。」と言ったらしく、先生は「何?私の知らない病名があったとは。」とかなっていたらしい。


 彼女の母親は既に他界しており、父一人娘一人で生活しているそうだ。

 この屋台も本当は父親がやるはずだったようで、本来良いのか悪いのかはわからないけど、父の代わりに営業していると。


 「そんなわけだから今もこうしてたこ焼きの屋台をやってるっつーわけなんだよ。」


 「何か手伝えないかな?もちろん作る方は売り物だから何も出来ないけど。列整理とか道具洗いとか。」


 こうして二日目の残りは屋台を手伝う事になった。


 1時間もやってれば慣れてくるもので、列整理にしても勘定にしてもごみの整理にしても、少しでも彼女の負担減になっていればと思う。


 たこ焼きを焼いている姿の彼女に思わず見とれてしまうこともしばしば。

 何かを一生懸命頑張る女の子の姿って良いよね。

 彼女の汗まら混じっても……なんて変態な。

 そのくらい打ち込む姿が綺麗というか美しいと感じた。


 父の代わりにと言っていた割には様になってるし、味も売り物としては文句ないレベル。

 幼少の頃からきっと手伝ったりもしていたのではないかと垣間見れる。


 さっきから、「うっま。」とか「たこでけぇ」とかいった感想が聞こえてくる。

 

 そうこうしていると二日目終了の時間となる。


 「いやぁ、助かった。一人だとトイレすら行けないから。それじゃぁほい。これ出来立てほやほやの新鮮なやつ。」

 手渡されたのは今さっき転がしていたたこ焼き。


 今日は二人で食べる。


 「はひはほふふんふぁ?」

 いや、何言ってるかわからないよ。


 「明日も来るんか?」

 飲み込んだ後言い直した彼女。

 ソースが唇に付いてるし青のりが歯についてますよ。

 でも変に飾らないその姿は見ていて気持ちいい。


 「明日も来るよ。」


 そう言ってたこ焼きを食べ終わると、屋台の片付けを手伝い別れた。


 連絡先を知らなくてもここなら会える。

 でも明日が終われば……

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