第3話 カケルとカノジョ

 彼女を家に入れた日の夕方に帰ってきた母とソラリの会話は俺を置いてきぼりにして、その会話の成り行きで彼女を介抱することになった。こうしてソラリが居候として住まわせて貰うことになったのだ。


 住まわせて貰っているという自覚がないのか、元から自身の所有物のように振舞っている。よく言えば、溶け込むのがはやい。悪くいえば、感謝の気持ちが足りていない。その姿にため息を吐きながら、自分の部屋へと閉じこもって、レポートの続きを書き始めた。


 薄暗い部屋の中で文字を起こしていく作業を繰り返していき、ようやく目的を達成した。


 椅子の背もたれを十分に使って背筋を伸ばし、力いっぱい体に力を入れたり抜いたりした。ノートパソコンを閉じた。そこから出ていた光が途切れ、部屋の中は天井にくっついている薄明かりだけが照らす。


「お疲れ様。ようやくレポート終わったんだ」


 背後から現れ、両手が肩上から回される。ソラリが肩上から覗いていた。この部屋にまさか俺以外に人がいたとは思いもしておらず、トキメキなどよりも驚きの方が断然強く勝っていた。


「勝手に入ってくるなよ」


「ちゃんとノックもしたし「入るよ」とも言ったよ。気づかなかったのはそっちじゃん。それに、私達は恋人同士なんだしいいでしょ──」


 カケルとソラリは恋人同士である。初めはこの家の者と居候という関わりの薄い関係であった。けれども、一つ屋根の下で過ごしている内に、また年齢が同じで話が合うお陰で、距離感は遠くはなかった。


 彼女が提案した「カップルのように過ごしてみようよ」という、酒に酔った勢いから始まったおふざけだった。しかし何かの縁か、何故か今も続いている。いや、もう遊びではなく本気になっている。今では居候ではなく同居人というところだろうか。


 父は単身赴任。母は夜遅くまで仕事。いつもは夕方まで一人無音の中をくつろいでいたのだが、彼女が居候してからは気が散って無音を楽しむことをしなくなった。


「学校が終わったらさ。デートに行こうよ。とっておきの遊園地があるんだ」


 この遊園地デートの予定はトントン拍子で決まっていった。

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