到着

「明日のタツミとの戦いで、結果を残せるように頑張りなさい」

鮎川先生は、部員たちに気合を入れていた。

練習試合を明日に控えてしまった。勝たないと、その後がない。


試合は相手のタツミ中学校の柔道場で行された。

団体戦で、5人同士の対決だ。愛梨は2番目だった。前の試合はこちら勝った

「気合を入れろよ」

鮎川先生に見送られた。


「はじめ」

相手は赤羽だ。組み手争いもそうだが、どこか圧倒される気分にさせられる。

少し腰が引ける。次は奥襟など、慎重に進めたいが、そうは上手くはいかないのは分かっている。それでも攻め続ける。先手を取られそうになっている。やはり上手くいかない。

「一本」

負けてしまった。


鮎川先生の顔を見ると、それほど、怒っている様子はなかった。

「次はちゃんと、やれ」

それだけだった。1勝1敗になってしまった。


次の試合も、こちらが勝った。


4試合目が美幸先輩だ。開始そうそう先輩は1本負けをしてしまった。


それでも最終戦で、勝った。3勝2敗なって、辛くも我が学校が勝って終わることができた。


鮎川先生が「次は全勝できるように、日々の練習を怠るな」

その言葉で、その場を解散となった。


「お疲れ。亜蘭先輩によろしくって、伝えといて」美幸先輩にそう言って、先輩は去って行った。

 これが先輩との最後の会話となった。先輩は家庭の事情で転校してしまった。


 兄の亜蘭に先輩が引っ越したことを伝えたら、「最後の試合負けたこと悔しがってな」何か知っている様子だった。先輩とどいう関係かと聞いたら、美幸先輩のお兄さんと亜蘭が友達だったらしい。ただ、友達の妹として仲良かっただけだったみたいだ。心配して損した感じがした。



 

11月になって、地区大会の日になった。試合会場には、学校からバスに乗ることになっていた。


とりあえず、初戦だ。


今日が本当の勝負になる。


鮎川先生が試合直前に「全力尽くしなさい。」と背中に気合を入れるようなに叩いてくれた。


相手選手は、年下の中学1年生だった。身体つきからしても、手強そうには思えなかった。


畳に上がり、「始め」がかかる。組み手争いをすることを想像していたのに、袖も襟も簡単に取ることができた。

審判の『一本』声が上がった。


勝った。拍子抜けするほど、簡単に勝利を掴むことができた。


これが、本当に欲しかった勝利と言うものなのだろうか。控室に戻ると、鮎川先生が「今を忘れて、次だ」

その意味が、分かったのは、畳に上がってからだ。


対戦相手は、見たことある人だった。タツミの赤羽だった。

でもこれは、練習じゃない。


試合開始の前の握手の際、「万年補欠に負けるわけないでしょう」と耳元で呟かれた。急なことに、相手を見ることしか出来なかった。

 どんな顔をすればいいかよくわからないかった。

 話したことがほとんどなかったため、どう思われてたかなど、よく知らなかった。


「始め」


組み手争いだ。相手の袖を持ち、あとは襟だけだ。ただ、今回もあっさりと襟を持つことができた。相手の股下に足が入れて、大きく跳ね上げた。


『一本』


呆気なかった。


ただ、そのあとの3回戦は、こちらは簡単に投げ飛ばされてしまった。


ただ、勝てたことが嬉しかった。道のりは短いようで長かった。



努力が報われたと感じるのは、どのようなタイミングだろう。


 たとえば、人間には見ることができない『船』に乗りこみ、色んな経験を積んで色んな場所に行くために、世の中というなの『大海原』に投げ込まれる。


 それを得るために、どんな経験を積むのだろう。


 他者にとって、どうでもいいと思えるかもしれない。 それでも叶えたい夢を持って、毎日のように何かに取り組む。 


 それは叶えるために、どのくらいの経験を積んだといえるだろう。 経験した重さを量ることも、時間を計ることもできない。


 そんな経験をしたところで、何を得るこのができるという保証は、どこにもない。それでも、叶えたい夢を達成したい。


船を目的地に到着させるために。

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海と旅路 一色 サラ @Saku89make

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