第5話 You are winner.

高い―――


(俺に勝っていった選手達はこんな景色を見ていたんだろうな)

 総合格闘技では負けた選手が登ることがない、ポールの上に仁が立つ。

「はいっ!・・・、はいっ!・・・」

 不慣れな俺の代わりに凛が観客を焚きつける。そうすると、観客も同じように音頭を取り出す。


「うぅううっっ」

 よくは覚えていないが、それくらいカイザーは前半に多くの技、そして大技を繰り出していたのだろう。その疲れた体で体の張り合いで動くことはできないようだ。


 ドックンッ、ドックンッ―――


 心臓が高鳴るのが聞こえる。


 フット―ワークが苦手だったとはいえ、それなりに飛び蹴りや回し蹴りもしてきた。しかし、ジャンプ・・・しかも、高いところからとなると味わったことのない恐怖が心を追い詰める。


「勝って!!!カイザー!!!」

「立ってぇ」

 カイザーのファンの応援も大合唱でカイザーにエールを送る。

「くっ、うぅ、うぅううううっ」

 徐々に体を動かそうとするカイザー。


「じーーーん!!!」

 俺の何を知っているかわからない少女の声。でも、その声はいつもどこかで聞こえていた声だった。KOから21回救った声。判定負けになる未来が待っていたとしても、俺はその声で立つことができた。


「うおおおおおっ」

 初めて戦いの中で宙を舞う。

(———ありがとう)

 判定負けは21回あった。それでも、KOは一度もなかったのは最強を目指した俺の誇りだ。


 バァアアンッ


「ワンッ、ツー、スリー!!」

 カン、カン、カーン


 透き通るように鳴り響く金属音をかき消すような沸き起こる歓声。

 そして、ずーっと応援してくれていた凛が両手で口を覆って泣いている。

 初めてのことばかりで興奮していて自意識過剰になってしまったかもしれないが、2つの声が聞こえた。1つは知らない男性の声。

「ニュースタァアアアッの誕生だぁああああああっ」


―――もう1つは

「うっ、うううぅ・・・おめでとうっ・・・仁君」

 

―――完———


 

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挑み続けた先に待つもの 西東友一 @sanadayoshitune

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